つくも神神社の主殿と補佐役の僕~好きなクラスメイトは親戚でした~

チクチクネズミ

第1話 怖いものいっぱい

 たっぷりと水を含ませたぞうきん片手に自分の机をふく。夏休みの間、積もりに積もったほこりや砂がぞうきんでふき取ると、触ってもざらつきがない、満足。

 僕以外のみんなは教室に入っても机をぞうきんがけしない。


 僕は掃除が好きなのだ! というわけでなく、亡くなったおじいちゃんの三ヶ条其之一『物は常に清潔に!』の教えを忠実に守っているから。

 クラスのみんなからは『掃除大臣』とか言われているけど、掃除は嫌いじゃないし、ものがきれいになるのは結構スッキリするからもう日課になっている。


 机をふき終えて二学期の始業式で久しぶりに会ったクラスの顔を見回すと、白が半分でもう半分は真っ黒。特にクラスのボス稲垣いながきが一番真っ黒、みんなに肌の黒さを自慢して回っている。

 ほら僕の所にも来た。


「どうだ深山みやま、俺すっごく真っ黒だろ。この間の野球大会で準優勝するまで練習したからな。がんばった勲章なんだぜ」

「へえ、すごいね」


 その試合僕も観戦していたんだけど、とにかく周りに自分のすごさをアピールしたくて手あたり次第話に回っているんだろう。だから話を合わせてうんうんとうなずいた。

 稲垣が真っ黒な顔で唯一白い部分を動かして僕の腕を見た。


「だろ。深山は、真っ白だな。ずっと家の中で引きこもっていたんだろ」


 その通り、夏休みの間家に閉じこもってゲームと夏休みの宿題ばっかりだった証拠だ。なんの自慢にもならない。

 僕は稲垣みたいに運動がすごくできるわけでもないし、大きく目立てるようなことも恥ずかしくてできない。あ~あ、僕にも稲垣みたいにすごい力とかあればいいのにな。


「なあみんな久しぶりに集まったんだし、肝試しでも今日の夜やらねえか。夏休みの間宿題とかで忙しかったし、明日は土曜で休みだしさ。近くのお墓でやろうぜ」


 えー!! 肝試し!? 僕、お化けとかよくわからないものが苦手なんだ。僕の怖いもの嫌いはテレビの特番でホラーものの番宣が映るだけでもすぐにチャンネルを変えるほどだ。

 突然の肝試し開催に周りにいたクラスメイトは「いいよ」「え~、わたしパス」「今日急に用事できて」「怖いけどやろうかな」と反応はそれぞれだ。


「ねえ。肝試しをやる場所ってどこでやるの?」


 参加するかしないかわれる中、御子神美羽みこがみみわが手を上げて場所を聞いた。

 え、御子神? こういった遊びには積極的に混じらないのに。

 驚いたのは僕だけでなく、彼女の周りにいたみんなも一斉に注目する。


「神社のとなりのお墓だ。御子神も参加するのか?」

「私はしない、ちょっと聞いてみたかったの。そこの神社私の家だから、入るからにはあんまりうるさくしないでね。苦情が来るの困るから」


 御子神はつれなくそう言って自分の席に帰っていった。


「なんだよ自分の家の心配かよ、別に隣だからいいじゃんか。でも参加するなら御子神じゃなくて他の女子のほうがいいけどな。あいつ見た目はいいんだけど、いっしょに遊ばねえし、遠足でもつれない顔しているからつまんねえし」


 稲垣がせっかくきれいにした机の上に座って、足をぶらぶらさせる。


 御子神はクラスでもトップクラスの美少女だ。目が大きいし、肌が白く、短く切ったつやのある黒髪と挙げたらきりがないほどかわいいんだ。

 でもなぜかクラスの子と遊んだ話を聞かない。教室では女の子たちと話しているからボッチというわけじゃないけど、つんとしたクールさがありちょっと近寄りがたいふんいきがある。そこも魅力なんだけど。

 しかし神社が家なのか、前から日本人形みたいだと思っていたけど神社の子なら少し納得いくな。

 ……ん。神社のとなりのお墓だって? それあれがある場所じゃないか!?


「深谷はどうするんだ? もちろん来るよな」

「今の時代お化けとかいないし、そんなこわいことないよな」

「おいおいそんなこと言うなよ。でも出る前から逃げるのは正真正めいのおくびょう者だよな」


 いつの間にか僕の席の周辺に肝試しに参加するメンバーが集まってきちゃった。みんな示し合わせたように、僕が参加する前提で話が進んでいた。

 嫌だ、怖いもんと声を大にして辞退したいけど……


「もちろん参加するよ。お化けなんていないしね!」


 この状況で一人辞める勇気もない。

 ああ、僕のバカ…………


***


 黒い闇の中に光が灯されると正面にお墓が浮き上がった。ひとりでにぬっと出てきたように現れた墓石に心ぞうが飛んでいきそうだった。


「本当に出るのかなここ」

「出なきゃ意味ないだろう。それだと肝試しの意味ないだろ」


 懐中電灯片手に稲垣がさえぎった。

 墓場を先に行くのは稲垣たち野球クラブのメンバーで、お化けから身を守るようにと持ってきたバットを片手に、グローブを頭にかぶっている。あれで頭を守っているみたいだけど、あれを昼間に見るとおかしく見える。

 昼と夜とで表情が変わるものって多い、特にお墓は昼間はなんとも思わないけど夜になるとどうして不気味に見えるんだろう。生けてある花も月明かりであやしく光って見える。

 手が震えてくる。心ぞうがドクドク早くなる。

 後ろから出てこないでよ。前から来てもやだけど。


「深谷、やっぱり怖いんだろ」

「僕が? 別に怖くないって。お化けなんかこの世に存在しないって」


 強がったけど、すっごく怖いよ~。お化けが出るのもだけど、このお墓おじいちゃんのお墓があるんだ。

 おじいちゃんはすごく怖かった。僕がゲームを置きっぱなしにしただけで「こりゃ!! 物を大事にせんか!!」と大激怒。ほころんでいる服を捨てようとしても「もったいないじゃろが!」と同じく大激怒。

 だから化けて出たら怖さ倍増だ。


 ガシャガシャ 


「な、なんか聞こえないか?」


 稲垣が懐中電灯の明かりを急に右に向ける。そこには誰もいないが、音だけはガシャガシャと音だけは聞えてくる。


「き、気のせいじゃない?」

「深谷、ちょっと前に出て来いよ。お前の持っている武器が一番お化けに効きそうだろ」


 僕が手に持っているのは、神社の神主さんが持っている白い紙がついている。おじいちゃんの遺品の一つで桐の箱に入っていて大事そうに保管してあったもので、お化けに効きそうだから持っていったんだ。

 柄の部分には『降魂祓串』と難しい漢字彫られている。意味はよくわからないけどカッコいい。

 音のなった方に向けて一歩一歩石畳を踏むと、しびれたように足が震えあがっていく。稲垣に背中を押される形で押されて現場に近づいていく。


 どうかお化けではありませんように……


 明かりを灯すと、そこには――古いテレビや電子レンジやら粗大ごみの山が積み上がっていた。


「なんだ。ただのゴミじゃんか。驚かすな深谷」


 先に物音がしたって言ったのは稲垣じゃん。

 はーぁ、怖がって損したよ。けどこんなところにゴミを捨てるだなんてマナーがなっていないな。おかげでお化けと勘違いしたじゃないか。

 ポンポンとゴミの山をで叩いた。


『お~い……いて……で。』

「稲垣、変な声出すなよ。もう驚かないよ」

「俺なんも言っていないぞ」


 え? ちょちょっとまって、じゃあ誰の声?


『持っていってくれ。置いていかないでくれ』


 耳をすませると、ゴミから声が聞こえていた。明らかにテレビやラジオの声じゃないし。そもそもそんな音さっきまで聞こえていなかったし。

 これって本物の――


「お、お化けだ!!!!」


 ドドドとわき目もふらずに、僕は全速力で墓場から逃げていった。


「おい、深谷。なに驚いているんだよ!? つかゆーれい!?」


 びっくりして逃げていった僕の後に続いてみんなも墓場から出ていく。 


 本当にお化けがいるだなんて聞いていないよ!!

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