第2話
「最近物騒だからな、お前も気をつけろよ。」
佐野圭一は朝のニュースを見ていた妻にそう言うと、職場へ向かった。
ここ最近、この町で行方不明者が続出している。性別や年齢もバラバラ、もう今週で10人目だ。
こんな小さな町ならすぐ見つかるだろうと思っていたが最初の行方不明者が出てから3週間、警察は何の手がかりも掴めていないらしい。それどころか日に日に報道される人数は増えている。
圭一は町に住む親戚や友人の安否を確認していたが唯一、連絡を取れない者がいた。
寺内京一
先月末で解雇された職場の同僚だ。部下の尻拭いなど陰で多くの仕事をこなしていたにも関わらず、皆から評価も注目もされていなかった彼を圭一は不憫に思っていた。
電話も通じず、自宅を訪ねたが誰も居なかった。
行方不明者の中に寺内の名前は無かったがあいつは借金を抱え、妻にも逃げられている。行方をくらますのも自然だろうと圭一は半ば強引に自分を納得させていた。
圭一は町の小さな町工場に勤めており、その日の朝礼に人数が足りないのは明らかだった。3人も遅刻なんて今までなかったぞ。
嫌な予感が胸をよぎる。
結局その日、朝礼に来なかった3人が職場に来ることはなかった。
携帯電話は通じず、自宅に電話すると3人の家族は皆、いつも通り彼らを見送ったらしい。
警察へ届けるのも時間の問題だ。
自宅へ向かい車を走らせていると何かが飛び出して来た。鹿だ!
圭一は思わず急ブレーキを踏んだ。
しかし、視界に鹿は居なかった。
引いたか?いいや、そんな感触はなかった。
車を降り周囲を見渡すが鹿はおらず、車は何ともない。
見間違いだったか、そう思い車に戻って発進させようとした時、目の前には見覚えのある男がいた。
寺内京一だ!
「寺内!」
圭一は再び車から降り、彼の元へ駆け寄る。
「寺内!今までどこへ行っていた、何度も連絡したんだぞ!」
「すまない、少しやることがあってな。」
寺内は以前より痩せこけ、瞳には生気が見られない。
「お前も行方不明になったと思っていたが無事だったんだな。良かったよ。」
寺内とはさして付き合いは無かったが彼の苦労は知っていたつもりだ。
「どうした、その格好は?ボロボロじゃないか。そうだ、うちに寄れ。」
俺は寺内の苦労を知りながら何もしてやれなかったんだ、何か彼のためにしてあげねば
「ありがとう、でも大丈夫だよ。」
「そうか、最近物騒だからな、お前も気をつけるんだぞ?」
「あぁ、そうするよ。」
圭一は寺内の方を気にしながら車に乗り込んだ。
「じゃあな、本当に気を付けろよ!」
「お前もな」
そう聞こえた瞬間、圭一の乗る車から炎が上がる。
なんだこれは!?熱い!寺内、助けてくれ!
声も出ないほどの灼熱に身を焼かれながらも目を開けるとそこには寺内と鹿がいた。
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