第7話
その数分後、俺はまた地上の明るい光の下、壊れた街を走っていた。俺の貸したスーツの上着を羽織った少女を背負って、町中で蠢く黒い化け物たちの投げる、車の残骸を避けながら。
あちこちで爆発音と衝突音がする。悲鳴と、何かが潰れる音。
「たすけて! お願い、こっちにこな−−」
「ああああああああああああああ!」
地面が揺れる。
地面を蹴るたびに靴底が擦れて血が滲む。息が上がる。全身から汗が吹き出した。
けれど俺は急がなければならなかった。「かみさま」の居場所まで。
数分前の地下鉄。
車両に乗り込んできた白い袴の子供達は、俺の隣に座っていた男性のところにやってくると、不意に彼の手を取って、静かに言った。
「ツナガリタイ」
「え?」
彼は不気味に思って、手を引っ込めようとした。が、離れない。
見ればその手と手は、べったりとボンドを塗られたように、皮膚ごと同化していた。
「ツナガリタイ!」
子供は今度は甲高く叫んだ。地下鉄に乗っていた全員が、悲鳴をあげた。
白い子供達は、地下鉄の乗客に襲いかかっていた。足、手、顔。皮膚の露出したあらゆる場所に、子供達は自らの皮膚を癒着させている。無理やり剥がそうとした乗客の体からは鮮血が吹き出し、痛みにまた悲鳴が上がった。けれど子供達は、自分たちの皮膚にも痛みがあるはずなのに、ケラケラと笑って、剥がされてむき出しになった皮膚の内側にまた触れて、くっつく。
「ツナガッテレバ、ダイジョウブ!」
「キズナ! キズナ!」
「フォロワーサン、ダイスキ!」
子供達は皆とても幸せそうな顔をしていた。
「……」
俺はパニックを起こして奴らに気づかれないよう、なるたけ静かに座席から立ち上がった。そして、まだ開いているドアに向かって、早足に向かった。車掌も子供達に邪魔されて、ドアを閉めて発車するのに手間取っているのかもしれない。
ドアからホームに出ようとした瞬間、誰かに後ろから掴まれた。
「……」
悲鳴をすんでのところで飲み込み、振り返る。
さっきスーツの上着を貸した少女が、今にも泣きそうな目で、俺の服の裾を掴んでいた。
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