第6話
こんな異常事態なのに、俺は危機感どころか、眠気を感じていた。毎朝ラッシュの電車でぎゅう詰めにされるのには慣れきっていたが、こんな空いた電車で静かに座って揺られるなんて、どれだけ久々のことか。しかも冷房も効いている。
「はぁ……」
座席にもたれると、思わずため息がこぼれた。
どうせ毎日、今日明日にでも死のうと思いながら惰性で生きていたのだ。怯えている人には悪いけれど、たとえ今日、昨日までと同じ日常が続いていようと、世界で突然何千何万人が命の危険に晒されようと、自分の心象はさほど変わらないというのが本当のところだった。目的地まではまだ遠いし、少し仮眠をとっておこうと、目を閉じた。
視界が闇に覆われると、電車の中で人がヒソヒソと囁き話す声が、よりはっきりと耳に届く。
「なあ、見たか? SNSの投稿」
「ああ見た見た。あれだろ? 地上で暴れ回ってる化け物から身を守る道具を、政府が市民に配ってるっていう、さ」
「そうそう。白い防護服を着た政府の職員たちが、全国の地下鉄に駆けつけてるって」
「お上には早いとこ対策してもらわないと、こっちもやってられないって話だよな。……ったく、一体何のために毎日クソ高ぇ税金払ってると思ってんだ」
「ハハ。それな」
「しかもこの災害の復興のために、また税金使われんだろ? やってらんねー」
「これからしばらくは避難所暮らしだろうしな」
「あーあ、最悪」
「あ、おい、そろそろ次の駅に止まるぞ」
「おーいるね。白い服」
「……あれ? 政府の職員にしては、なんか……小さくないか?」
「は? んなわけ……本当だ……」
「おい、まさか車掌、あいつらここに入れる気かよ?」
シューッ。
地下鉄のドアの開く音に、ふと目を開けた。
白い袴を纏った子供達が、行列を作ってホームに立っている。
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