番外編一「トリックオアトリート」
ハロウィン用の短編としてTwitterに投稿したものです。時系列はエピローグ後です
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「ナオト、ハッピーハロウィン! 今日は南瓜のキッシュを焼くよ!」
にこにことこちらを見下ろすゆりに、暇を持て余してソファに転がっていたナオトは眉根を寄せた。
「はろ??? ……何それ」
「ふふ、私のいたところではね、今日はお化けがたくさん街にやってくる日なの!」
「……は? 何それ、やべーやつじゃん……」
ゆりの言葉に、ナオトは皮膚の腐り落ちた
「そうよ。お化けがお家を一軒一軒回訪ねて、『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ』って言って回るの」
「はあ?? ……ゆりんとこのお化けは、子供か何か? 随分可愛いね??」
リアルな“化け物”を想像していたナオトは、ゆりの説明が醸すほのぼのした情景と自身の頭の中の画が噛み合わずに混乱した。よいしょとソファから身体を起こすと、ゆりはくすくすと後ろ手に何かを持ったまま笑みを零す。
「よくわかったね。子供がお化けの仮装をして、お菓子をねだる行事なのよ」
「あ、そーなの」
なんだガキの遊びか、と大して興味の湧かない話題なので適当に流す。しかし尚もゆりはにこにこと此方を見ていた。
「……ね、ナオトも言ってみてよ」
「……? “お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ”?」
「よくできました。はい、どうぞ!」
「ふぁ!?」
よく意味もわからないまま言われた通りの台詞を口に出すと、ゆりは突然後ろ手に隠し持っていた袋から飴玉を取り出し、ぽかんとしていたナオトの口にひとつ放り込んだ。
「らんれオレりくえるろ?(何で俺にくれるの?)」
「だって、お菓子が欲しいって言ったでしょ?」
「…………」
何だそれ、子供扱いか。
ナオトはどうやらイチゴ味らしい飴玉を頬張りながら一瞬不機嫌になり――しかしすぐに何かを思い立って、宝石のような瞳をきらりと輝かせた。
「へえ……。ねぇゆり、こっち来て」
「?」
ナオトは自身の斑の尾をぴょこぴょことご機嫌に動かすと、ゆりを手招きする。ゆりが無防備に彼の顔を覗き込むと、ナオトはその手首を掴み取り力強く引っ張って反転させた。袋入りの飴玉はバラバラとそこら中に散らばり、あっという間にゆりはソファの上、ナオトの腕の中に閉じ込められてしまう。
「も~、ナオト!」
ゆりが身体を起こして抗議しようとすると、ナオトは掴んだ手首を押さえつけたまま、上から覆い被さりにやりと意地悪く微笑んだ。
「ゆり、何て言うの?」
「……?」
「今日は、何て言うの?」
「……お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ……?」
「よくできました」
自分を見上げたまま控えめな調子で“お願い”するゆりに、ナオトは嬉しそうに耳を震わせる。そしてそのまま彼女の柔らかい唇を奪った。
「……!」
下唇を食み、舌でなぞられる。熱い愛撫に抉じ開けられてゆりがおずおずとそれに応えると、ころんと丸い飴玉がナオトの舌と共にゆりの口に零れ落ちた。
「……!」
ナオトはそのまま飴玉を追いかけるようにゆりの口内をなぞる。甘い味は二人の吐息と混ざり合い、舌の蹂躙と共に転がった。溢れる唾液を飲み込むこともできず、ゆりの口の端からだらしなく一筋の雫が滴る。ゆりがギブアップとばかりにナオトの胸を叩くと、ナオトは漸くその唇を解放し、ゆりの頬に垂れた唾液をぺろりと舐め取った。
「あ、まい……」
ゆりが口の中で飴玉を転がしながら呟くと、ナオトはうっとりとしたように息を吐く。
「ホント、ゆりは甘いよね。どこもかしこも……」
そう言って、ゆりの耳に、頬に、目蓋に、首筋にいくつもの口付けを落とす。ゆりがくすぐったさを堪えながらそれを受け入れていると、ナオトは再び尻尾を振ってゆりを見下ろした。
「ゆ~り、お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ?」
「!」
その言葉に、これ以上溶かされてはたまらないとばかりにゆりはあわてて頭を持ち上げる。そして自分の口の中の飴玉を再びナオトを口に押し付けた。
しかしナオトは、受け取った飴玉をぱきんと噛み砕いてあっという間に飲み込んでしまう。そして瞳の黄金を麗美に細めると、もう一度笑った。
「お菓子もらっちゃったけど、もっと悪戯していーい?」
この美しい瞳に“お願い”されたら、ゆりに断れるわけがないのだ。
南瓜のキッシュを作るのは明日になりそうだなあ、と思いながら、ゆりは彼の降らせるキスの雨を受け入れるべく静かに目を閉じた。
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