第5話 ゲームボウイの小さな画面を2人で覗き見ながらプレイするとか

 二十畳はあるんじゃないかってほど広い畳敷きの和室が、俺に割り当てられた部屋だった。


 ちなみ右隣が姫川さんの部屋だ。


 高そうな和の机に桐ダンス。


 押入れフスマにはド派手な鳳凰ほうおうの描かれていた。


 俺は手荷物を畳の上におろし。


 鞄からノートと参考書を取り出しと、机に向かい勉強を始めたが……。


 どうしても殺妹あやめちゃんのことが気になって、集中できなかった。


 壁のようなモノを感じたからだ。


 慕ってくれるヒトはたくさんいるはずなのに、誰に対してもほどほどの付き合いに留めておいて、特別親しい友人を作らないでいるようにみえた。


『1階の右奥の部屋だけは絶対に入っちゃダメだからね』


 殺妹ちゃんの言葉が脳裏をよぎり、気が付くと俺はその部屋の前に立っていた。


「やっぱり来たのね、ダイスケくん。

 ちょっと手伝ってほしいことがあるの」


「小学生じみたイタズラとか仕掛けてないよな」


「お姉ちゃんじゃないんだから、そんな子供じみたことするわけないでしょう。

 へんな心配してないで、早く入ってきなさい」


 ドアの向こうからお呼びがかかり、部屋に入る。


「ダイスケって、ゲームとか得意だったよね。

 ここの扇風機野郎がどうしても倒せないのよ。

 倒し方とかわかるかな」


 殺妹ちゃんからゲームボウイを渡された。


 ソフトは『ロッグマン~』だった。


 しかもゲームボウイの小さな画面を2人で覗き見ながらプレイするとか、かなりマニアックなシチュエーションだな。


「すごい、すごい、あっという間に全クリしちゃった」


 今の彼女からはあの気品に満ち過ぎていて、寒さらすら感じさせるクールさの面影は、微塵もなかった。


「このゲームは、かなりやり込んだからな。

 目をつぶったままでも全クリできる自信があるぜ」

 

「その妙に冷静な物言いが気に入らないわね。

 なんだか、肩が凝っちゃったわ。

 マッサージでもらおうかしら」


 召使いに言うように言い放ち。


 いつの間にか、殺妹ちゃんはベッドの上でうつぶせになって寝ていた。


 さらにシミ一つない本当にスベスベしてキレイな背中が露わになっている。


「おおせのまま」


 元気よく返事をすると、俺もベッドの上にあがる。


 殺妹ちゃんの腰上に跨り、膝を曲げて肩を揉む。


 俺はひと目見ただけで、凝り具合がわかる。


「ああっ!? いいわぁ~~~。

 とてもいいわぁ……」


 俺が肩のツボを刺激するために、彼女は息が弾む。


「わたし専用のマッサージ師として雇ってあげてもいいわよ。

 そしたらお姉ちゃんの悔しがる顔が見れて……」


「それはとてもありがたい話だと思いますけど。

 お断りさせてもらいます」


「あら、そうなの。

 残念だわ。

 でも、気が変わったら……いたっ、痛いっ!? ちょっといきなり何をするのよ。

 キャハハハ……ちょっと、やめなさいよ。くすぐったいわよ……キャハハハ……や、やめなさいよ」


 お仕置きのように背中のツボへ親指をめり込ませると、真愛美ちゃんの脚が跳ねた。


 さらに脇の下もくすぐる。


「いいかげんにしなさいよ」


「すみません。

 あまりにもしつこかったので、つい」


 さすがにこれ以上はマズイと思い、弁明の言葉を口にする。


「つい、じゃない……わよ……まったく……」


 ぐったりと枕に顔をうずめ、はーはーと息を荒げ、艶美によだれまで垂らしている殺妹ちゃん。


「姫川さんと仲良くすることはできないんですか。

 2人がいがみ合っているところなんて見たくないんです」


「いくらダイスケくんのお願いでもそれは無理ね。

 私はあの高慢ちきな女の鼻っぱしらをへし折らないと気が済まないのよ」


「じゃあ、姫川さんの鼻っぱしらをへし折ることができたら、満足なんですか。

 相手を傷つけてまで、ちっぽけな自尊心を守りたいん……」


「下僕のクセに生意気よ」


「マッサージはもういいわ!? 

 着替えるから部屋を出っていて頂戴」


「そうですか。

 でも俺は諦めませんから」


「とっとと出ていきなさい。

 アナタの顔なんて見たくないのよ」


 俺は部屋から追い出されてしまう。




++++++++++++++++++++++




 自室で勉強をしていると、控えめなノックの音がした。


「ハイハイ」


 俺はすぐにベッドから起き上がって、ドアを開けた。


 途端、フローラルな甘い香りが鼻腔びこうをくすぐる。


「ダイスケくん、ぜんぜん覗きに来ないんだもんつまんない」


「ワナが仕掛けてあるって、最初からわかっているのに、覗きに行くほど……バカじゃないんだよ……俺は……」


「いくじなし」


 姿を現れしたのは、殺妹ちゃんだった。


 毛先から透明なしずくがこぼれ、白磁の頬はわずに上気している。


 モコモコしたパーカーを羽織り、同生地のショートパンツから伸びる脚が眩しいな。


「えっ!? 何っ。よく聞こえないよぉ」 


「さっさとお風呂に入れって、言ったのよ。

 バカっ」


 怒鳴り声を上げて、殺妹ちゃんは部屋から出ていってしまう。

 

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