第2話 姫川さんは子供をあやすのも上手いんだな。

「きゃあ、エッチな風っ!?」


 姫川さん(姉)に手を引かれてグランドを走っていると、渡り廊下の方から女性の華やいだ声が聞こえてきた。


 桜吹雪の向こうでスカートを押さえている女教師の姿を目で追っていた。


 一番好きなのは『おっぱい』だけど、パンツにも興味がある……そんなお年頃なのだ。

 

 それに下着の見せ方も完璧だった。


 ナイス『恥じらい』と叫びたくなるほど完璧な赤面だったな。


「何っ、見てるのよぉ!? 変態!?」


「えっ」


「私のことを襲ったクセに目移りしてるんじゃないわよ!? バカ!?」


 鋭い飛び膝蹴りが顔面に飛んできた。


 もちろん、避けることもできたのだが、甘んじて受けいれることにした。


「な、なんで避けないのよ。

 バカなの、ドMなの、ロリコンなの」

  

「姫川さんが俺のことを恋愛対象として見てくれていたことが嬉しくて」


 俺はキラッと歯を光らせ、ニヒルな笑みを浮かべる。


「な、なに……は、恥ずかしいこと言ってのよ。

 バカァアアア」


 さすがに二発目は命にかかわるので、避けることにした。


「よ、避けるんじゃないわよ、バカバカバカバカっ」 


 理不尽極まりない叫び声と、ともにくり出される無数の蹴り。


 だが怒りにまかせた攻撃は単調的で、最初の蹴りほどのキレがなく。


 思わずあくびがでるほどぬるい。


 これなら目をつぶっていても簡単に避けられるな。


「どうして一発も……あ、当たら……」


「や、やっと、追いつき、ました……わ……ハァハァハァ~~~。

 このわたしから、ハァハァハァ、逃げられるとは、思わないことね」


 肩で息をしながら姫川さん(妹)が俺に詰め寄ってきた。


殺妹あやめちゃんもしつこいな」


「気安く名前で呼ばないでください」


「でも、苗字だとお姉さんと区別がつかないしな」


「それはそうです……」


「危ない」


 カラダを張って、姫川(妹)さんをかばう。


 硬式の野球ボールが背中に思いきり当たる。

 

「きゃあっ!? いきなり何をするのよ!? 変態。

 息を吹きかけないでください。

 く、くすぐったいです」


 そこで、初めて俺は、自分の犯した過ちに気が付く。


 勢いあまって姫川さん(妹)を押し倒してしまい。


 さらに顔面を黒スパッツに押し付けていた。


「無理に起き上がろうとしないでもいいですから、スパッツが、スパッツが脱げちゃいそうなんです」


 時すでに遅しとは、まさにこのことである。


 黒スパッツは膝下までズレ落ちてしまい。


 その下に穿いていた縞パンが露わになってしまう。 


「イヤァアアアアア」


 校庭中に姫川さん(妹)の声が響き渡ったのだった。


 そして俺たちは学年主任先生にこっぴどく叱られた。




 ++++++++++++++++++++++




 三日間の自宅謹慎を終えた俺はなぜか? 保育園に来ていた。


 生徒会主催のボランティア活動で、立候補していたクラスメイトの『姫川さん(妹)』に頼まれたのだ。


 なんでも急に『外せない用事』が入ったとかで、代わりに引き受けることになった。


 まさか? 姫川さん(妹)が小悪魔こあくま系女子だったなんて、やっぱり女性って恐ろしいな。


 姫川さん(姉)を襲っている写真を撮られてしまった俺は、姫川さん(妹)の下僕として、馬車馬のようにこき使われている。


 パンの買い出しから始まり、肩を揉んだり、フットマッサージをしたり、彼女の代わりに雑務をこなしたり、などなど……。


 姫川さん(妹)の相手をするのも、めっちゃっくっちゃ大変だけど、それ以上に子供をあやすのは大変なことだ。 


 小さな子供って、元気だよな。


 園服えんぷく姿も可愛いな。


 まるで天使だなと思いながら幼児に大人気の菓子パンヒーロの絵本読んであげたり、何とかレンジャーのオモチャで一緒に遊んであげたり、クレヨンでのお絵描きやお人形遊びも一緒にやった。


 さらに難しい年頃なのか? ギャアギャア、すぐに泣くし。


 あやすだけでも一苦労だよ。


 楽しいのは、最初だけで……もう俺はクタクタだよ。


 保育園がこんな修羅場だと思わなかったよ。


 もう帰りたいよ、とほほほ。


 ちなみに『姫川さん』も参加していた。


 色鮮やかな金色の瞳に、小ぶりの鼻と口。


 上目遣いのベビーフェイスでも強気な印象があるな。


 やや太めの首に、がっしりとした肩。


 腕の付け根とほぼ同じ高さあるおっぱいは間違いなくワールドクラスだな。


 スラリと程よく引き締まった体型。


 真っ白なスニーカーもチャーミングだな


 保育士の基準スタイルは、動きやすいジャージにエプロンだそうだ。


 スカートの下にジャージーを穿き、ブレザーの上にエプロンした姿は、まるで聖母のようだった。


 姫川さんのほかにも、俺が通う高校の制服であるブレザーを着た女子生徒もチラホラといた。


 清潔感溢れる真っ白なブレザーにミニスカート。

 袖の長いロングブラウスと胸元を飾る真っ赤なリボンタイだ。 


 白を着用することで身を清め、軽率な行動を戒めるためだとか?


 同じ理由で、制服も男女ともに、真っ白なワイシャツ(ブラウス)を採用している。


 海外で働く有名なデザイナーが手掛けたとかで、女の子からは『可愛い』と評判が高くて、制服目当てで、ウチの学校を受ける入学者がいるほどだ。

 

 また普段着として『制服』を身につける女子も多いとか。 


「ガタンゴトン、ガタンゴトン。まもなく○○ 駅ですがっ!? 特急列車のため、このまま電車は通過します。ガタンゴトン、ガタンゴトン」


「お姉ちゃん、面白い。この電車……いつ、止まるの?」


「ふふふっ。そ・れ・は、秘密よ」


「やっぱりお姉ちゃんは面白いヒトだねぇ」


「りえちゃんだけズルイ。ボクもお姉ちゃんと電車ごっこやりたい」


「私もお姉ちゃんと遊びたい」


 ロープを使った電車ごっこは、幼稚園児に大人気だったな。


 姫川さんは子供をあやすのも上手いんだな。


 あと子どもたちの似顔絵を描くのもめっちゃくっちゃ上手いんだよな。


 夜のとばりがおりた頃。


 俺はやっと解放され、そのままお布団の中に潜り込んで、死んだようにぐっすりと眠り込んでしまった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る