ツインズ・ガールズ・ラブストーリー

天界 聖夜

第1話 姫川理沙は噂以上の破天荒な人間だった


『大助視点』


 この世界は欲望に満ち溢れている。


 枯れることのない欲望に満ち溢れている。


 遊園地(ねずみランド)を貸し切りにできるくらいの大金持ちになりたいと『富』を求める者。


 オリンピックに出場して金メダルを取りたいとか、ノーベル賞を取りたいとか、アカデミー賞を取りたいとか、『名声』を求める者。


 世界一強い男になりたいと『武力』を求める者。


 宇宙の根源を知りたいと『叡智』を求める者。


 欲望の坩堝るつぼから国が生まれ、ヒトが生まれ、言葉が生まれ、文化が、思想が、武術が生まれた。


 さらに格差が生まれ、階級が生まれ、力ある者とそれではない者。


 勝ち組と負け組。


 2種類の人間が生まれた。


 を極めしものは、を極めし者に負け。


 を極めし者は、資産家や権力者に負けた。


 それが『資本主義』というものだ。 


 金のある・なしで、優劣が決まる世界で俺が求めるモノは、『この世の全て』だ。


 女、金、名声、地位、武力、叡智、若さあふれる健康的な肉体などなど……。


 俺は魑魅魍魎ちみもうりょうすらドン引きするくらい強欲な男だからな。


 俺は絶対に『勝ち組』になってやるぜ。




++++++++++++++++++++++


 新日本帝国。


 新東京。


 20××年。 


 学校のグランド。


 春の香りがこうをかすめる。


 満開の桜の花。


 青空を背景にしてピンク色がより鮮明に感じられた。


 映画のワンシーンにでもしたくなるほど、キレイな風景だ。


「体力測定とか。

 マジで勘弁してほしいんだけど」


「ほんとほんと、汗だくになっちゃうって~」


 女の子たちが口々に言いながら、第2体育館の方へと歩いていく姿をグランドから俺は眺めていた。


 黒スパッツに包まれた、ぷっくりとしたお尻。


 そこからすらっと伸びる健康的な脚がたまらない。


 ちなみに俺は、カラダにピッタリとフィットしたトレーニングのようなモノを着用している。


 半袖、半ズボンタイプのスッパツで、上下セパレートになっており、むき出しのお腹にはうっすらと筋肉が浮かび上がっていた。


 でも彼女たちの言う通りだ。


 体力測定の主な種目と言えば『短距離走』に『走り幅跳び』や『20mシャトルラン』など、汗を掻く測定が非常に多いんだよな。


 あとは学校によって『反復横跳び』に『肺活量測定』や『握力測定』などもあるとか。


 そんなことを考えていると、第1体育館の方からサンドバッグを叩く音が響いてきた。


 気になって、鉄格子のついた小窓からなかをこっそりと覗き込むと、姫川ひめかわ理沙りさがサンドバッグを乱打らんだしていたのだ。


 ヒトの顔と名前を覚えるのは苦手な俺でも、知っているくらい彼女は有名人だ。


 ひったくり犯を捕まえて、警察から感謝状をもらったことがあるとか?


 ゴミ拾いなどのボランティア活動をしているとか?


 とにかく噂がたえない美少女だ。


 お嬢様育ちの品行方正で有名な優等生キャラだけに、驚きを隠せなかった。

 

 体操服姿もめちゃくちゃカワイイな。


  そこいらのアイドルが平凡に思えるくらいの可愛らしさだ。


 金色の艶のある綺麗なロングヘアは、紅の紐リボンでツーサイドアップしていて、いつものストレートより、2割増しでカワイイな。


「男も女も軟弱な奴らばかりで、全然張り合いがないわ」


 その姿は、凛としていて格好良くて、動きのたびに揺れるおっぱいがちょっぴりエッチで、格闘技に疎い俺でも見とれてしまうくらい洗練された動きだった。


「イライラするわねえ」


 クマすら一撃で殺すような凄まじい拳が振るわれるたびに吊るしている金属製の鎖はきしみ、サンドバッグが大きく揺れる。


「思わず私がときめいちゃうくらい『野性味溢れる強い男の人』はいないのかしら」


 さらに姫川さんがトドメとばかりに、ボーダーのハイニーソに包まれた脚で回し蹴りを放った瞬間。


 鎖はちぎれ、サンドバッグが宙に投げ出され、爆発した。


 サンドバッグに爆弾でも仕掛けられていたんじゃないかと思うぐらい跡形もなく吹っ飛んだのだ。


「やっぱり加減で難しいわよね。

 ちょっと、気を抜くとすぐに使い物にならなくなってしまいますもの」


 だが当の姫川さんは日常茶飯事とばかりに、軽くため息をつくだけだった。


「それにしても今日は、暑いわね。

 まだ4月だというのに」


 ひたいや首筋などに浮かんだ汗をハンドタオルで拭く姿は色っぽくて、鼻息が荒くなってしまい。


「……きゃあっ!?

 へ、変態!? 覗き魔。変質者。

 そこを動くんじゃないわよ」


 どうやら俺が覗いていたことに気が付いてみたいだな。


 その瞬間。


 俺のなかの理性は消し飛んだ。


 極上のおっぱいを目にして自分を押さえることができず。


 鉄格子と小窓をぶち壊し。


「う、嘘でしょう」


 無理やりカラダをネジ込み体育館に侵入すると、姫川さんに襲いかかった。


「この私が……くぅ……はぁ……んんぅ……同年代の男子を相手にぃいぃ……後れを取るなんて……くはぁ……はははぁ……」


 体操服がめくれあがり、包帯のような真っ白な布が見え。


 邪魔だなと思い。


 それをむしり取ってしまう。


 柔らかな脂質を溜め込んだ重量感溢れるオッパイがあらわになる。


 半球型のキレイな乳房。


 視覚的にも柔らかさを感じさせる魅惑的な女性のシンボルだ。


 そして乳首を隠すハート型のニップルが性的な興奮を誘う。


「いやぁっ!?

 ちょっと、ヤメてぇ……そ、そこは……ダメぇええっ。

 ふぁあんぁぁあっ……んぅ……み、見ないでぇええっ、変態」


 いまだに『童貞』だけど。


 おっぱいにかける『情熱』だけは、誰にも負けない。


 だからこそ、どのように触れば、おっぱいが喜ぶのかも熟知している。


 ダテに小さい頃からおっぱいを触りまくってきたわけではない。


 重さは『中玉のメロンを2つ』くらいかな。


 まさに『爆乳』。


 両手にずっしりとくる重量感。


 ボインボインなおっぱいは肌触りが最高だな。


【この触り方……昔に……どこかで……とても、とても……懐かしい……幼いころ……】


 さらにおっぱいの声を聞くことだってできるのさあ。


 しかし今、聞こえた声は断片的で、ノイズが激しくて、うまく聞き取ることができなかった。


「あ、あまり調子に乗ってるんじゃないわよ、変態」


 おっぱいを揉む手が緩んだ瞬間。


 姫川さんの蹴りが、俺の股間に炸裂した。


 あまりの痛さに言葉がでない。


「なんで、急に……あ、あんなこと……し、したのよ」

 

「そ、それは、魅力的なおっぱいが目の前にあったら、普通、揉むだろう。

 触って確かめたいと思うのは、ごく自然なことだろう」


 彼女は恥ずかしそうにうつむきつつ、上目遣うわめづかいでこちらに視線を向けていた。


 言えることは、全部言った。


 俺は再び頭を下げ、彼女の言葉を待つ。


 判決を待つ囚人になった気分だ。


「……許してあげても、いいわよ。

 私の所有物になると言うのなら」


「えっ!?」


「私の『所有物』になるなら許してあげてもいいわよっと言ったのよ」


 まったくもって迷いのない口調だった。


 姫川さんがいったい何を考えているのか?


 まるでわからなかった。


 り・か・いできなかった。


「悩んでいる時間はないわよ。

 もし断るなら、警察に通報するわよ」


 美しい声で恐ろしい言葉が紡がれ、恐怖が倍増した。


「所有物でも、奴隷でも、ペットでも、なんでもやりますから、大事おおごとにしないでください」


「契約成立ね。

 私が気を失うまで絶対に、首から手を離しちゃダメだからね」


 絞殺プレイ。


 それは……苦痛系のプレイのなかでも窒素系に属するモノで、気絶する直前の一瞬がキモチイイのだとか。


 そう言うと、姫川さんは俺の両手を掴み、自分の首筋(頸動脈)に持っていく。


 血流がドンドン下がっていき。


 姫川さんの意識が朦朧もうろうとし始めたのか。


 彼女のカラダがぐらつき、俺の身体にもたれかかってきたので、思わず手を離してしまう。


「姫川さん、姫川さん、姫川さん」


 俺は必死になって呼びかける。


「ケホケホケホ……ヤバっ!? 今、一瞬……お花畑が見えたわ」


 姫川さんは、その場に座り込んでしまう。


「でも、とても気持ち良かったわ」


 恍惚な笑みを浮かべ、姫川さんは身震いすると、彼女のカラダが突然に光り出し。


「……ケモ耳?」


 ケモ耳とふさふさなオオカミの尻尾が生えていた。


 人狼じんろうという言葉が脳裏に浮かんだ。


「ああ、これは……悪魔の木の実を食べて育った影響です。

 倒錯的な快感を覚えると、狼に変身してしまう特異体質なんです。

 でも安心してください。

 すぐに元の姿に戻りますから」


「あ、悪魔の木の実って……。

 もしかして、姫川さんって『魔大陸』から移住してきたヒトなの」


 魔大陸


 15世紀。 


 イタリア人の冒険家、エンバ・クリフトが南太平洋で発見した新大陸。


 ヒトに極めて近い文化を持った、しかしヒトとは『異なる種族魔人』が暮らしている暗黒大陸の別称だ。 


「ええ。

 そうよ。

 私は亜人あじんよ。

 妹の殺妹も亜人で、水をかぶと狐に変身してしまう特異体質なのよね」


 亜人。


 皮膚が鱗に覆われているとか。

 

 羽が生えているとか。


 髪の色が普通じゃないとか、変異は個体によってそれぞれ違う。


 中にはまるっきり人間とは、かけ離れた姿をした者もいるとか。


 ごく稀にだけど……神秘の力『魔法』を操ることが出来る個体もいるとか。


「じゃあ、その前に触ってもいいかな」


「その反応……すごく、いいわ。

 コワがるわけでもなく、気味悪がるわけでもなく、ツッコミを入れわけでもなく。

 そんなことを聞いてきたは、アナタが初めてよ」


「実は俺も魔大陸から移住してきた亜人で『おっぱいと会話する』ことができる特異体質なんだ。

 だから『亜人』は、身近な存在なんだよな」


「へぇ~~~。

 そうなんだ」


「ところで、触ってもいいかな」


「ええ。いいわよ」

 

「じゃあ、触るね。

 わぁ……キモチイイな……モフモフ……フサフサだ」


「ほんとうにおかしなヒトね。

 でも、アナタならうまくやっていける気がするわ。

 これからよろしくね」


「それを確かめるために、俺に自分の首を絞めさせたんですか」


「ええ、そうよ」


「一歩間違ったら、死んでいたかもしれないんですよ」


「アナタにヒトを殺す度胸なんてないでしょう。

 それに……私は……生命力が……常人のヒトよりも遥かに高いから……首を絞められたくらいでは……死ぬことはないわ……」


「今、授業中ですよ。こんなところでいったい何をやってるんですか。

 まさか、いかがわしいことではないですよね」


 インスタントカメラを首から下げ、左眼を前髪で覆い隠した女子生徒が問い質してきた。


 彼女の名前は姫川 殺妹あやめ


 姫川さんの双子の妹で、クラス委員長。


 新聞部に所属していて、写真コンクールで賞も撮ったことがあるほどの腕前だ。


 反則じみたプロポーションに目が釘付けになっていると――――――。


「に、逃げるわよ」


「えっ!?」


「早く!?」


 姫川さん(姉)は俺の右手首を掴むと物凄いスピードで走りだした。


 手を握るという行為は本来、とてもフレンドリーなもののはずだ。


 女の子と手を握り合うなんて、少なく見積もっても『友達以上』の友好的な関係性があってしかるべきだろう。


 実際に彼女がどう思っているかは、分からないけど――――女の子の手って柔らかくて、プニプニして気持ちいいな。

 

「ちょっと待ちなさいよ」


 背後から姫川さん(妹)の叫び声が聞こえてきたが、姫川さん(姉)は止まる気配は微塵も感じられなかった。


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