第6回カクヨムコン【特別賞】受賞記念 感謝SS

受賞感謝SS♡プレゼント

 二学期の終業式に、彼女たち三人にあるものを送った。


 これから三月頭まで自由登校になる。一般受験する生徒たちは一月に共通試験があり、それが終わるとすぐに各大学の入学考査に突入するため、しばらくの間、会えなくなる。


 そこで思いついたプレゼントがこれ——録音再生機能が付いていて、声を吹き込める目覚まし時計「ボイスクロック」だ。


 タイマーをセットしておけば、目覚まし音の代わりに録音されたメッセージが再生される。もちろん通常のタイマー音も用意されていて、自由に切り替えができる。


 さらに見た目も女の子受けしそうなデザインだった。


 時計の上には、丸っこくデフォルメした柔らかいシリコン製の動物が載っている。この動物部分にはLEDライトが搭載されていて、タイマー設定時刻にピカピカといろいろな色に点灯するというもの。また、通常時にはポンと押せば光るので、ベッドランプ代わりにもなる。


 ネットショップを巡って見つけた。動物のデザインがちょうど三種類あったから、三人へのプレゼントに良さそうだなって思ったんだ。


 即買いしてみたものの、いざ声を吹き込むことになって悩んでしまった。三チャンネルある内の二つは最大20秒、残りひとつは最大60秒まで録音できる。


 短い方のひとつは、目覚ましメッセージで決まり。もうひとつは就寝メッセージがいいかなと思った。問題は60秒の長いメッセージ。


「結衣、どんな内容がいいと思う?」


「先輩たちなら何でも喜ぶと思うけど、受験期だから……やっぱり、癒し・萌え・安心を感じるような、スイートな気持ちをストレートに伝えるのがいいんじゃないかな?」


「スイートな気持ちって?」


「えっと、つまり……恋人たちの間でされるような会話? それの超激甘バージョン!」


「録音なのに?」


「録音だから。お兄ちゃんは声もイケてるから、めっちゃ効果あると思う。乙女心をくすぐるような気障なセリフをお勧め!」


「気障なセリフかぁ。そういうの苦手なんだけど……でも結衣がそこまで推すなら、ちょっと考えてみる」


 60秒の告白っぽいセリフってことだよね? 動物クロックに向かって一人で吹き込むの? なにそれ。めっちゃ恥ずかしいんだけど。



「可愛い! 時計の上に白熊ちゃんが載ってる。お姉ちゃん、目覚まし買ったの?」


「ううん。結星くんからもらったの。自宅学習になっても、朝ちゃんと起きれますようにって」


「へえ、気の利いたプレゼントだね。あれ? メッセージカードが付いてるよ」


「本当だ。『ボイスを三種類録音済みです。チャンネル1はモーニングコール。チャンネル2はお休みコール。チャンネル3は、絶対に一人で聴いてね』だって」


「ボイス? 王子様の? うわっ! めっちゃ聴きたい!」


「じゃあ、試しにモーニングコールをポチッてみるね」


「やったあ!」


 夕子がチャンネル1の再生ボタンを押すと、すぐに柔らかい結星の声が聞こえてきた。


《朝だよ、起きて。——ユウ、もう起きなきゃ——まだ寝てるの? 仕方ないなぁ——俺のこと好き? なら起きて》


「す、好き! だがらもう一生起きてる!」


「お姉ちゃん、鼻血でてるよ。はい、ティッシュ!」


「ふぁ……りがとう」


 妹に渡されたティッシュで鼻を押さえながら、ドキドキハートビートが止まらない夕子。大好きな結星の声をリアルに再現した録音再生機能に喝采を送りつつ、いきなりのクリティカルに、早くもノックアウト寸前だ。


「最近あまり出さなくなったと思ったのに。付き合うようになって免疫がついたんじゃなかったの?」


 少し呆れ声の妹も、何故だか顔が赤い。


「こ、これは無理。だって無理だもん!」


「まあ確かに、凄い破壊力だね。でもこれをモーニングコールにするんでしょ? 毎朝流血じゃマズくない? 枕がスプラッタな事態になりそう」


「だ、出さないように頑張る。これなら絶対に起きれるし! 頑張る!」


「枕元にティッシュを箱で積んでおくことを推奨」


「もう積んである!」



 結星からプレゼントされた目覚まし時計を枕元にセットして、いそいそと着替え始める恭子。就寝用の下着に交換するために身につけているものを全て脱いで、大きな姿見の前で自らのスタイルをチェックする。


「さすがに成長は止まったかな? これ以上大きくなると維持するのも大変だから、止まって欲しい」


 大き過ぎるのもいいことばかりではなく、走れば痛いし、じっとしていても肩が凝る。うつ伏せでは息苦しくて寝られない。


 下着も特注品だったが、これに関しては母親の経営する衣料品メーカーの製品モニターをしているので、入手に困ることはなかった。


 豊か過ぎるバストの形崩れを防ぐためのナイトブラは、彼女に取って必須アイテムだ。もし身につけなかったら、重力に引っ張られて、それはもう大変な状態になる。


 美しくバストの形状を保ち、心地よく支えながら適正な位置に収める。就寝用のブラとショーツを身につけたら、部屋着兼パジャマ代わりの大きなTシャツを被れば着替えは終了。


「今日はのまま寝ちゃおうかな? 白猫ちゃんのお休みコールをリピートしながら」


《ココ、お休み》


「お休み、結星くん」


《今日も一日お疲れ様》


「結星くんに会いたい」


《ちゃんとパジャマ着た? 寝冷えしないようにね》


「着たよ。結星くん抱き枕を抱っこして寝る」


《じゃあ、お休み。俺と一緒に楽しい夢を見ようね》


「お休み! 本当に結星くんの夢が見れたらいいな♪ じゃあ、そのためにもう一回!」


《ココ、お休み》


「お休み、結星くん♡……」



 志津は自らにノルマを課していた。


 チャンネル1を聴くためには英単語集中特訓2時間。

 チャンネル2を聴くために化学小問特訓2時間。

 チャンネル3を聴くために数学大問超重量級過去問4題。


 その答え合わせが今やっと終わった。


「いよいよチャンネル3。やだっ、ドキドキする!」


 チャンネル1に萌えた。チャンネル2では夢の世界に飛びそうになった。絶対に一人で聴いてねという断り書きがあったチャンネル3。今日はこれを聴くために、めっちゃ集中した。


 白いアザラシを撫で撫でしながら、頑張った自分へのご褒美である再生ボタンを押す。


「俺ね——シズの笑顔が好き。泣いた顔も可愛いし、困った顔もやっぱり可愛いけど、笑っているシズの顔は可愛い過ぎて目が離せない。——だから我儘を言っていい? しんどい時や辛い時、泣き言を言っても構わないから、1日1回は笑って欲しい。会えなくても、シズの笑顔を見たいな——そう思う俺のために。シズ、好きだよ」


「ふぇ……わ、笑いたいけど、なんか泣きそう。あっ、でも泣いてもいいんだ。だったら今は……ふぇ……泣いちゃうから!」




*——皆様の応援に感謝です! ありがとうございました♪——*

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る