5-29 ボランティア清掃 後編 

 季節は晩秋。紅葉の季節も終盤になる。


 この庭にも紅葉もみじ銀杏いちょうに木が何本も生えていて、見事に赤や黄色に染まっている。そしてその周辺に地面を、枯れ葉が絨毯のように埋めていた。


「綺麗だけど、今の時期にこんなに落ち葉があるなら大変ですね」


「そうなの。いくら掃除してもキリがないのよ。でもやらないわけにもいかなくて」


「皆さん! まずは遊歩道の清掃からお願いします。敷石の隙間から生えているような雑草は根本から抜いちゃって下さい」


 軍手をはめ、道具入れから持ち出した竹箒で、早速遊歩道の石畳の上を掃き始める。大きめの石ころは転ぶ原因になるので危ないからよけておく。枯れ葉がある程度の山になったらゴミ袋へ。


 ボランティアの面々は、広い庭園のあちこちに散らばってワイワイと、そしてテキパキと作業を進めていた。だから次々にパンパンになったゴミ袋が積まれていった。


「その山はもうゴミ袋に入れてもよさそうだね、結星くん!」


「えっと……円さん!」


「ピンポーン! これで3ポイント目。今のところ全部正解! 凄いね、いったいどこで見分けてるの?」


「……それは、なんとなく?」


 そう。見ればなんとなく分かる。新しいスキルは、文字が浮かんでくるわけでも、声が聞こえてくるわけでもなく、かなり感覚的なものみたいだ。


「廉と同じことを言うのね。もしかして見分け方を教わった?」


「いえそれは特に聞いてないです」


 今はまだスキルのおかげ。でもこれ、何回も繰り返していたら自力でも二人を見分けられそうな気がしてきた。双子といっても別の人格を持っているわけだから、ほんのちょっとずつだけど差異がある。ただそれが分かりにくいだけで。


「結星くん、袋が随分と溜まったから、一緒にゴミ捨て場に行ってもらえる?」

「はい、巴さん!」

「当たり! 結星くんったら当て過ぎ。これじゃあゲームの意味がなくなっちゃう」


 そりゃあ当てにいってますから。


「お仕置きが怖いんで」

「だから、焼き芋没収は冗談だってば。でも、そんなに好き?」

「うん、めっちゃ好き!」


 本気で楽しみにしてるから、今日は手を抜かない!


「だ、だいぶ慣れてきたと思ったのに、これはキク。でもイイ!」


 巴さんは文句を言いながらも、顔は笑ってる。


 こうしてゲームは俺の完勝で清掃タイムを終了。そしてこれからが、俺にとっては本番になる焼き芋クッキングの時間だ。


〈まーきまき まーきまき たーベ放題! おーいしくやーけちゃえ 食べ放題!〉

〈るーんるん、食べ放題〜♪〉


「結衣、なにその歌?」

「お芋が美味しくなるように、願いを込めて巻いてるの!」


 焚き火で焼き芋といっても、燃え盛る火の中に直接芋を突っ込んでしまうと、真っ黒な炭になる。だから、まずは芋の下準備から。

 洗ったサツマイモを、濡らしたキッチンペーパーで包み、さらにその上から、隙間ができないようにアルミホイルをしっかりと巻く。銀色の芋がどんどん山積みになっていく。


「妹ちゃんは相変わらず面白いね」

「結城先輩も歌いませんか? 美味しいお芋がもっと美味しくなりますよ」

「そういうのは、妹ちゃんと愉快な仲間たちに任せた!」

「だって、みんなで歌おう!」

「ごめん、それは無理〜。可愛い結衣がやったからもう効果絶大だって!」


 結城も結衣のクラスメイトに随分と馴染んだみたいだ。結城は人見知り系だから最初は素っ気ないけど、慣れるとそうでもない。


「着火します! 火がついた枯れ葉が舞うことがあるので、焚き火にはあまり近づかないで下さい」


 枯れ葉や枯れ枝を集めて作った山に火をつける。勢いよく燃え始めるけど、まだ芋は入れない。投入するのは、火が落ち着いて熾火おきびになるのを待ってから。


 熾火になったら、灰の中に埋めるように芋を入れて、あとは途中でひっくり返しながら、40分から1時間程度かけてじっくり火を通せば出来上がり。火の番を残して、他のみんなで後片付けを済ませる。


 さていよいよ、お食事タイムだ!


 火バサミで灰の中から芋を取り出していく。火中の栗ならぬ火中の芋。火傷には注意が必要だ。熾火といっても、その温度は200度くらいあるんだって。


「これから焼き芋を配りますが、熱いので気をつけてお召し上がり下さい。飲み物はこちらにペットボトルのお茶を用意してありますので、各自取っていって下さい」


 わーい! 


 まずはアルミホイルを剥き剥きする。続いてキッチンペーパーも剥がすと、アツアツの焼き芋が見えてきた。じゃあ、早速割ってみよう!


 芋は柔らかくなっていて、力を入れなくても簡単に割れた。


 うわぁ。見た瞬間に美味しいと分かる、透明感のある濃い黄色。まさに黄金の芋! 口にすれば、ネットリかつホクホク。そして甘ーい! 水分が程よく抜けていて、めっちゃ濃厚な味になっている。


「焼き芋どう? 美味いでしょ」

「最高。こんな焼き芋、初めて食べたかも」


 お世辞でなく、本心からそう思う。


「毎年やってるから是非食べに来てよ。なんなら兄貴と呼んでもいいよ」

「兄貴?」

「武田は随分とモエマドの二人に懐かれたね。だから兄貴。相性バッチリなんじゃないかな? 二人まとめてもらっ……って、痛えっ! なんで叩くんだよ」


 遠慮なく結城の頭をポカリとしたのは。


「巴さん!」

「当たり! って、ゲームはもう終了。このアホな弟の言うことは気にしなくていいから!」

「ほら、二人を間違えないスポーツ得意なイケメンなんて他にはいないよ。この波に乗れって……痛っ! 暴力反対!」


 あまり痛そうには見えないけど、あれは演技? それとも軽く叩いて絶大な効果を上げる叩き方でもあるの?


「もう、廉は大袈裟なんだから!」

「俺は姉ちゃんたちの行く末を心配して……うわっ、ちょっちょっと待ってよ」


 結城がモエマドの二人にどこかに拉致られていった。姉弟喧嘩? なんか派手だなぁ。


「お兄ちゃん、お茶取ってきたよ」

「おっ、ありがとう! 結衣は気がきくな」

「でしょう。お芋って美味しいけど、口の中の水分がもっていかれちゃうんだよね」


 確かに。そろそろ喉が渇いたと思ったところだった。


「結衣は今日のボランティアを経験してみてどうだった? 学校にレポートを提出するんだよね?」

「楽しかった! こういう広い場所で、みんなでワイワイやるのっていいね!」

「うん。俺も便乗して来てよかったって思った。これも結衣のうっかりのおかげかな?」

「それは言わないの〜!」


 身体を動かして、しまいには最高の秋の味覚を十分に堪能して、今回のボランティア活動は終了した。めっちゃ美味しかったです!


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