5-28 ボランティア清掃 前編 


 結衣が熱心にパソコンで何かを検索をしている。いったい何かな?


「さっきから何を調べてるの?」


「えっとね、ボランティア活動の募集を探しているの」


 ボランティア活動といえば、地域の清掃や街頭募金、スポーツイベント補助などが思い浮かぶ。公共性のある社会貢献活動を指すんだけど、その種類は案外多い。


「いいことだと思うけどなんか唐突じゃない? なんで急に興味を持ったの?」


「実は『学業だけじゃなくてボランティア活動も内申で評価されるから、時間のある低学年の内に参加しましょう』って担任の先生に言われたの」


「年末目前のこんな時期に?」


「……4月に。てへっ。忙しくてつい忘れちゃってたの。だから、学校が紹介してくれるボランティア先は、とっくに募集が終了していてダメだったんだ」


 ありゃりゃ。また結衣のうっかりさんか。


「それで自分で探しているわけか。よさそうなのはあった?」


「それがね、ボランティア活動自体はあるんだけど、土日限定だと申し込み締め切りが過ぎちゃったのや、もう定員が埋まっちゃったのばっかり」


 ふーむ。高校生対象の募集は夏休みに多そうだし、中途半端なこの時期に単発で申し込むのは厳しいのかもしれない。


「そっか。そういうことなら、俺もちょっと周りに聞いてみるよ」


「本当? ありがとう、お兄ちゃん!」


 結衣にはオープンキャンパスにだいぶ付き合ってもらったから、うっかりしたのは俺にも原因があるかもしれない。情報集めくらいは手伝ってあげないとな。



「何かいいのないかな?」


 ということで、ダメ元で翌日クラスで聞いてみたところ。


「あるよ。まさにちょうどいいのが。絶賛募集中で軽労働。現地集合で交通費は出ないけど、その代わりに出来立てホヤホヤのおやつが付いてくる」


「マジ? ちなみにどんなの? 場所は?」


「ボランティア活動の内容は境内の清掃。場所はうちの神社です!」


 ほぅ。結城の家の神社なら安心だ。これは是非お願いしたいかも。


「清掃って廊下に雑巾掛けみたいなことをするの?」


 なんとなくお寺の小僧さんのイメージ。さすがにこの時期に水仕事は辛いかもしれない。


「作業場所は屋外で、落ち葉集めをするだけ。ただその量が半端ないわけ。この季節は枯れ葉がね、ワサワサあってそりゃもう大変なのよ」


「なるほど。あの広い境内で落ち葉を片付けるには、確かに人手がいりそう」


「そう、落葉樹が結構多くてね。単純作業だけに、作業時間を短くするには人海戦術が決め手になるんだよ。で、参加するのは何人?」


「頼みたいのは結衣一人なんだけど」


「じゃあもちろん武田も来るよね?」


「うーん。どうしようかな」


 結衣だけ頼むのは申し訳ない気もするけど、高校生にもなって兄貴が妹のボランティア活動先についていくのも変なような。


「最後のオヤツって、集めた枯れ葉を焚いて作る焼き芋だから。予算をケチらず良い芋を仕入れてあるから、これがめっちゃ美味いのよ。それに食べ放題!」


「行く!」


「よしよしっ! 武田はやっぱりこの手だな」


 結城がなぜか小さくガッツポーズしているけど、枯れ葉で焼き芋。なら即決でしょ。そんなの見逃せないよね。


「そしたら、妹さんの友達にも声をかけてもらえるかな? 人数は多いほどいいから。武田も参加することを必ず伝えてから勧誘してね!」


「分かった。結衣にそう言っておく」


「これぞ芋蔓式……いや芋釣る式! 今年は楽できるかも?」


「なんか言った?」


「なんでもない。武田の集客力に期待してるってこと!」




「ボランティアの皆様。本日は当神社の清掃活動にご参加頂きありがとうございます。これから清掃作業の内容と作業班について説明致します」


 去年の今頃は大型台風が来て大変だったけど、今年は秋晴れの日が続いた。今日も凄くいい天気で、気温がやや高く絶好の清掃日和だ。


 なんかウキウキしてくるね。天高く馬肥ゆる秋。焚き火で焼き芋なんて楽しみだな。


 最近はスーパーでも焼き芋を売っているけど、いわゆる街を巡る焼き芋屋さんはめったに見かけなくなった。俺的にはそれが凄く残念。石焼き芋って、なんであんなに美味しいんだろうね? でも、枯れ葉で焼く芋もきっと美味しいはず。


 結衣がクラスメイトを誘ってみたら、彼女たちもちょうどボランティア活動先を探していたそうで、大勢来てくれることになった。みんな内申を上げるのに熱心なのか、あるいは結衣みたいなうっかりが多いクラスなのかな?


 表参道や拝殿周辺の清掃には業者さんが入るそうなので、俺たちの作業場所は広々とした池庭と森になる。


 見知った顔が大勢いるから、グループ活動はしやすそう。参加者は俺たち学園生の他には、毎年清掃に参加しているという地域の人たちや、結城のお姉さんたちの知り合いがほとんど。


 学園生は、俺と結衣、結衣のクラスメイトの女子、そしてC組男子の脇坂と平野だ。


 C組の二人ーー特に脇坂は、どうやらお正月以降、アルバイトの女の子たちとかなり仲良くなったらしい。脇坂は、その時一緒に働いたらしい巫女さんたちと一緒にいて、一方の平野はというと、楽しそうに杏さんと談笑中だ。


 C組男子三人組の残りの一人である片桐は、今日は都合がつかなくて不参加らしいけどね。


 手短に説明が終わって、まずは各班に分かれて掃除道具を取りに行くことになった。

 

「「結星くん! 今日は同じ班だからよろしくね!」」


「モエマド……じゃなくて、ともえさんとまどかさん、こちらこそよろしくお願いします」


 どうやらモエマドの二人と同じ班になったよう。


「モエマドでいいわよ。どっちがどっちか区別がつかなくて、そう呼ぶ人も多いから」


「確かにお二人はよく似てますよね。今日みたいに同じ服装をしていると迷うかも」


 一卵性の双子でも、ある程度の年齢になると多少の差が出てくることが多いけど、この二人はほぼそっくりだ。髪型もよく見れば違いがあるのかもしれないが、俺に区別がつくほどの違いはない。


 服装を揃えられたらおそらく区別がつかないかも。そして今日はジャージの上にダウンと全く同じ格好だ。


《主人公補正【慧眼けいがんリミテッドー双子識別】が自動インストールされました。このスキルはパッシブスキルです。ON/OFFの切り替えを任意で行えます。初期設定デフォルトはONになっています》


 なんか変なスキルが……。あるんだね。そんなスキルが。とりあえず今は会話中だからデフォルトのまま放置。


「迷うってことは、よく見ればどっちが巴で、どっちが円か結星くんには分かるってこと?」


「どうかな? あまり自信はないですね」


 区別がつかないーー俺がそう思ったからスキルが出てきた?


《主人公補正です》


 主人公になるには、二人を見分けられないといけないの?


「じゃあゲームしよっか」


「ゲーム?」


「そう。モエマド当てっこゲーム。私たちが声をかけたら、どっちかの名前を呼んでくれる? 正解したら、1ポイント、間違ったらマイナス1ポイント。高得点なら豪華景品がつくよ」


《当然です》


 この話の流れもその関係?


《偶然です》


「豪華景品ってなんですか?」


「それは後のお楽しみ」


「逆にもしマイナスになったら?」


「お仕置き? 焼き芋全部没収とか?」


「それめっちゃガッカリです」


 俺の今日のモチベーションの元なのですが。


「じゃあ、没収はやめておいてあげる」


 そうやって始まったモエマド当てっこゲームだけど。タイミングよく出てきたスキルを使ったらズルいかな? 


 でも見てみたいな。正解を当てられてびっくりした二人の顔を。だって、きっと二人とも当てて欲しいと思ってる。そんな気が凄くしたんだ。

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