秋から冬へ

5-19 キャラクターグッズ

 今日は頼子さんに呼ばれてエグザの会議室に来ている。極上六角プリンの販促に関する話みたいだ。


「キャラクターグッズですか?」


「そう。販促グッズを作る際に、プリンだけだとビジュアル的にかなり弱いのよね。もっとこう、消費者の視覚に訴えるような、キャラを見たら商品名が浮かぶような、アピール性の強いキャラクターを作ろうという話が出ているの」


「それって、いわゆる『ゆるキャラ』みたいな?」


「そんな感じ。でもただプリンに手足を生やしただけじゃ個性を出しにくいから、動物キャラっぽくしたいのよ。ほら、猫やクマの有名なゆるキャラがいるでしょ? あんな風に」


「確かに生き物をアレンジした方が印象に残りますね」


「でしょ。そこでアンケート。結星くん的には、プリンのイメージのに近い生き物って何かしら?」


「えっと生き物なら何でも?」


「何でもよ。採用されるかどうかは分からないけど、アンケートだから好きなのを言ってみてくれる?」


「そうですねぇ……ちょっと考える時間をもらってもいいですか?」


「もちろん。結星くんが一番イメージに近いと思うもの。それはいったい何かしら?」


 生き物か。プリンの形から連想すると、下半身安定の……ペンギンがまず浮かぶ?


《ペンギンは、体色がミスマッチではないでしょうか?》


 色。そうか。商品が食べ物だから色は凄く大事かも。青っぽい寒色系よりも赤や橙、黄色みたいな暖色系の方が食欲をそそると聞いたことがある。


 でもいかにもプリンみたいな黄色っぽい生き物っていうと……そうだな。キリンはどうかな? キリンは黄と茶の二色だし、色合い的には悪くないかな?


《キリンは斑紋が大きいため、実物はほぼ全面茶色い動物です。それに脚や首が長くてプリンのイメージからは遠いのではないでしょうか?》


 そう言われるとイマイチな気がしてくる。これは結構難しいな。黄色い生き物。黄色、黄色。虎はどう? あとライオンやクマ、ウサギなら黄色でもおかしくないよね。うーん。でもなんか、どれもピンとこないような。


 何かコレ! っていうのを忘れているような気がするんだけど……。


《哺乳類以外にも目を向けられてはいかがでしょうか?》


 哺乳類以外か。……えっと、例えば黄色いカエルとか? 持っていたら金運が良くなりそう。でも両生類は生臭いようなイメージがあるから、お菓子にはちょっとかも。そうすると魚も嗅覚的に合わないかな?


 体臭が少ないと言われるのは爬虫類。なら、黄色いカメレオンなんて可愛い……。


《鳥類が抜けています》


 あっ、そうか。鳥類。何で思い浮かばなかったんだろう。そうそう、有名な黄色い鳥がいるじゃないか。


 カナリア! カナリアイエローっていうくらいだから、イメージ的にはぴったりだよね?


《ざ、材料にも目を向けてみては?》


 なるほど。その手があったか。


 プリンの材料に牛乳は欠かせない。牛の乳。黄色い牛? 黄金牛的な? なんか凄くありがたそうなイメージ。でもちょっと保留かな。デザイン次第かもしれないけど、牛はメインターゲットの女性消費者に受けるかどうか分からない。


 あとの材料の中では、砂糖やバニラビーンズは植物だから残りは……卵か。


 卵と言いえば鶏。黄色い鶏。うーん。風見鶏的な? お洒落な気はする。でもこれもキャラクターとしてはあまり……。


《卵を産むのは鶏ですが、卵からいきなり鶏にはなりません》


 ふむ、確かに。卵から産まれるのは……そうだヒヨコだ! カスタードイエローのヒヨコ。おおっ! 色なんかまさにぴったりじゃないか! 雛だからフワフワで小さくて粒らな瞳。可愛らしさも備えている。女性受けしやすいデザインも作りやすそう。


 何で失念していたんだろう? まるで記憶がロックされているかのように思い浮かばないかった。


「えっと、ありきたりな発想かもしれませんが、ヒヨコなんてどうでしょう? それが自分の抱くプリンのイメージに一番近い気がします」


「どんな点でそう思ったの? 具体的なポイントを教えてくれるかしら?」


「まず色ですね。黄色い動物は沢山いても、茶色に近いかビビッドな黄色なのが多くて、プリンみたいな優しい色合いで、かつ黄色一色の生き物としてヒヨコが浮かびましたました」


「まずってことは、他にも理由があるのよね?」


「はい。質感というのかな? フワフワとした柔らかい印象がいいかなって。あと可愛いのも選んだ理由のひとつです」


「そうね。ありきたりではあるけど、ヒヨコなら親しみやすさがあるわね。支持は受けやすいかもしれない。じゃあ、企画会議に参考意見としてあげておくわ」


「ヒヨコが採用されなくても、どんなキャラクターが出来てくるのか楽しみです」


「正式に決まったらお知らせするわ。後々、販促キャンペーンで幾らでも目にすることになると思うけどね」


 *


「話は変わるけど、先日のスイーツサテライトは、とても好評だったのよ。反響が大きかったから、地方で行われる食のイベントへのゲスト出演の依頼が沢山来ているって潤が言っていたわ」

 

 そうなんだ? この後、陽春プロモーションに行くことになっているから、もしかしてそこで話があるのかな?


「ゲスト出演というと?」


「大きなイベントになると、来場者サービスとして、お笑い芸人やミュージシャンが呼ばれることが多いのよ。結星くんの場合は、やっぱりトークショーになるかしら」


「トークショーと言われても、普通の高校生ですから、この間喋った以上の話は無理ですね」


 あの時はエグザのオーディションやCM撮影の話をさせてもらった。俺的にはそれで精一杯だ。プロとしては失格なのかもしれないけど、人前で自分のプライベートを切り売りするみたいに話すのは、どうしても抵抗がある。


「あれで十分よ。サイトに上げているCM動画の視聴回数も目に見えて伸びたし、エグザのキャンペーン係としては十分に合格」


「それならよかったです」


「お父様がいらしたのは予定外の偶然だけど、親子の共演というのも評判が良かったのよ。そういえば、お父様はまだ日本にいらっしゃるのかしら?」


「いえ。もう出国しています。また時々日本に来るつもりだとは言っていましたが、次がいつになるかは分かりません」


 父さんが出国するときは凄い格好をしていた。念のためと言って、またあの野人スタイルに戻ったわけだけど、自前の髭は剃っちゃったから、購入したモジャモジャのつけ髭をつけて出て行った。


 もしかして俺も海外に行く時は、あんな格好をしないといけないのかな? もしこの世界に新婚旅行の習慣があるなら、その時は覚悟しないといけないのかもしれない。


「そう。残念だわ。またお会いしたかったのに」


 ん? それは仕事関連で? それともプライベートで?


 頼子さんの表情を見ると、仕事って感じではなさそう。ふむ。母さんのライバルを作るのは気が引ける。だけど、もし放っておいても、あの父さんなら海外でどんどんお嫁さんが増えていきそうな気もする。頼子さんは信頼できるいい人だし。なら。


「もし父がまた帰国するようなら、声をかけましょうか?」


 ちょっと協力するだけならいいよね。あとは本人次第ってことで。


「本当に? 是非お願いできるかしら?」


「ええ。頼子さんとは既に面識もあるし、仕事上での共通点もありますから、会いたがっていることを伝えるくらいならできると思います」


「ありがとう。ダメ元で構わないから、よろしくね」


 その後で会った潤さんにも、似たようなことを言われて、同じように約束をした。父さん、ちょっと日本にいただけなのに、モテっぷりが半端ないです。

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