5-11 キャンペーン係
「じゃあ、ざっと説明するわね。8月中旬に開催されるイベント『第一回ワールドフェス・スイーツサテライト』のプリン部門に、エグザが協賛・参加します。結星くんは、そのスペシャルゲストです」
今日は、近々ある仕事の内容を確認するために、陽春プロモーションにやって来ている。
「そのイベントはどこであるんですか?」
「未来都市エリアにあるフューチャリング・フォーラム、FF21の大展示ホールよ。そしてこれがそのフロアマップになります」
正面のモニターに映されたマップは、大展示ホールというだけあってかなり広い。これを見ただけでも、相当に大規模なイベントだということが分かる。
「随分と大きな会場ですね」
「そうね。海外の食品関係の大手資本が関わっているのに加えて、第一回だから派手にやるんじゃないかしら?」
フロアマップを見ると、スイーツの種類ごとにまとめられた「サテライト」と呼ばれる展示ブースが数多く設置されている。まさにスイーツの祭典だ。
えっと、プリンのはどこかな?
「……あった。プリン・サテライトはここかぁ。へぇ。プリン単品にしては、随分と広いですね」
プリンサテライトがあるのは、イベントステージに近いメインストリート脇という、とても目立つ場所だ。プリンはメジャーなお菓子なので、出店店舗数が多いにしても、かなり広めのスペースが割り当てられていた。
「最高の立地でしょ? 私もこれを見て驚いたんだけど、どうやらこれは特別待遇で、メインスポンサーの意向らしいわ。そのスポンサーが、少し前にプリン関連の団体を立ち上げたらしくて、その団体のデビューというか後押しをしたいらしいの」
「プリン関連の団体? そんなのあるんですか? なんか気になりますね」
「私は初耳だったんだけど……えっとこれだわ。WCLPP『プリンの愛好と普及を推進する世界委員会』ですって。結星くんは聞いたことある?」
……なんかそれ、つい最近耳にしたような?
「たぶんですけど、名前だけは」
たぶんそう。きっとそう。
「じゃあ、やっぱり私の勉強不足ね。頼子さんが知っていたのは仕事柄納得だけど、結星くんまで知っているとなると。この団体の代表者が、どうやら日本人らしいの。第一回が日本で開催されることになったのは、それが関係しているみたい。確か名前がどこかに……」
日本人。プリンの愛好と普及なんちゃら。そして名前。
「あった! K.TAKEDA。この人よ。でも、この人物の経歴が今ひとつ掴めないのよね。苗字だけでも、TAKEDA……武田? それとも竹田? 他にも岳田、丈田、猛田、建多とか案外多いし、下はイニシャルがKでしょ。ケイコ、キョウコ、カレン、カオリと、検索しても候補が多過ぎて絞れなかった」
そっか。普通は、こういった団体の代表なら女性が務めていると思うよね。ちょっと自信がないけど、その人物に心当たりがあるって言ったほうがいいかな?
《同一人物で間違いありません。「プリンの愛好と普及を推進する世界委員会」の代表K.TAKEDAは、武田降星氏です》
やっぱり。これで確定。
「あの、本人に確認を取ったわけではないのですが、たぶんこの人物を知っています」
「本当? あっ、TAKEDAって武田? もしかしてご親戚とか?」
「はい。武田降星。つい最近帰国したばかりの、俺の父親だと思います」
*
ニュース! ニュース! と騒ぐ潤の話を聞くために、家飲みに招いた頼子は、潤から告げられた新事実に驚きを隠せなかった。
「代表って男性なの? それも結星くんのパパ! うわぁ、予想外過ぎ」
「でしょ、でしょでしょでしょ!」
「もうめっちゃ気になるんだけど、どんな方か分かる?」
頼子は六角プリンやその関連商品を商業展開するにあたり、ワールドフェス・スイーツサテライトのメインスポンサーがバックにいるWCLPPの代表と、この機会に面識を持ちたいと考えていた。
でも何故か連絡を取ろうにも、相手側のブロックがやけに固く、今まで実現させることができないでいたのである。
「経歴が出てこないのも当然で、ずっと海外の貿易関係の会社にお勤めだったんですって。たぶんあの大手資本グループの関連会社かな? 日本に帰ってきたのは十年ぶりらしいわ」
「つまりそれは、武田降星氏が海外セレブと結婚してるってこと?」
頼子が思案げに尋ねる。
「その辺りは、結星くんも事情をよく知らないみたい。お父様の年齢は確か39歳。パートナーの女性は、海外に在住している人が多くて日本人は一人だけ。全員合わせても、結星くんのお母様を含めて5人しかいない。……ぶっちゃけ狙い目かも」
「やだ。いくらなんでも気が早過ぎない? 人柄とか相性とか、実際に会ってみないと分からないでしょ。それに私の場合、大事な仕事先の関係者になるから、気軽にコナをかけるわけにもいかないかなぁ。めっちゃ残念だけど」
結星の父親というのは気になるが、仕事と私事がごっちゃになるのはマズイ。頼子はそう思っていた。この時までは。
「うふ。そうも言ってられないかもよ。結星くんが言うには、見た目が結星くんとそっくりなんですって」
「えっ? 見た目って容姿って意味よね? あの顔が世界に二つもあるの?」
「そう。凄くない? 凄いよね。男盛りの結星くんってことでしょ? 見るだけでもきっと垂涎ものだと思うけど、一緒にお写真を頼んじゃったり? あわよくばお茶したり? どう、やってみない? もう私、お会いするのが楽しみで楽しみで。ということで、当日は結星くんの付き添いとして私も会場に行くからよろしくね!」
潤のテンションは既に高く、そしてそれは、頼子にとっても非常に魅力的な提案であった。
「職権乱用? でも潤だけなんてズルい! それなら私も便乗させてよ。なんとか当日のフリーな時間を捻り出すからお願い。イベント関連の話題なら沢山あるし、一緒に歓談やお茶をするのはちっとも不自然じゃないわ。そうよ、だってそれもプリンの愛好と普及のためですもの!」
「で、本音は?」
「チャーンス到来? もしかしてもしかすると、都市伝説的な素敵な出会いがあるかも!」
「だよね。そうこなくっちゃ!」
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