5-08 お留守番
「いってらっしゃーい!」
「楽しんできてね」
仲睦まじげな両親の旅立ちを結衣と二人で見送った。
さてこれからどうしよう? 結衣と二人で留守番なんて、まるで、この世界に来た頃に戻ったみたい。あの時は学校に転入するという状況だったから、かなり慌ただしかった。でも今は。
「夏休みだし、俺たちもどこかへお出かけする?」
「そうねえ。それもいいけど、できれば友達を家に呼びたい!」
なるほど。それも楽しそうではある。
「うん、いいよ。でも今日呼べる? 当日に誘って来てくれるものかな?」
「じゃあ聞いてみるね!」
*
「よしっ! まずは買い出しだ」
「必要なのは、小麦粉、卵、和風だし、長ネギ、紅生姜、あと天カスかな?」
忘れないようにメモを取りながら確認する。
「お兄ちゃん、肝心なのを忘れてる」
「えっと。あっ! タコか」
いけね。それがなきゃ、まんまるいお好み焼きになっちゃう。
「そう。あと調味料も買い足すでしょ。変わり種のタコ焼きも食べたいから、他にもいろんな具材を買うつもり」
結衣がタコパーータコ焼きパーティをしたいというので、これから食材の買い出しに行く。
暑いのにタコ焼き? って最初は思ったけど、夏祭りで食べるタコ焼きは美味しいでしょって結衣に言われて、十分アリだなって思い直した。
「変わり種って何?」
「えっと、コーンに、ソーセージ。ベーコンとチーズに、海老とキムチ、ミニトマトに明太子。そんな感じ? キノコやキャベツを入れてもいいかも」
「随分たくさんあるね」
「ダメ?」
「ダメじゃないよ。この際、全部買っちゃう?」
「わーい。やった!」
結衣が仲良しの田原さんと相良さんを誘ってみたら、ちょうど何も予定がなかったそうで、即OK。四人でタコパをすることになった。俺以外は女子だから、そんなに量は食べれないかもしれないけど、余ったらお土産にすればいいしね。
そうだ。お土産を入れるパックもあった方がよさそう。
「飲み物も多めに買った方がいいよね」
暑いからそうだね。
「うん。ショッピングカートを持っていくようかな」
無理すれば持てなくはないだろうけど、やっぱり楽な方がいい。
そして、駅前にあるスーパーへ。予定通り買い物を終えての帰り道。カラカラとカートを引きながら公園の脇を通り過ぎようとしたら、意外な人にばったり出会った。
「武田? こんなところで会うなんて奇遇だね。なんでここに?」
「それはこっちのセリフだよ。俺たちはこの近所に住んでるから」
「あっ、そうなんだ。じゃあ、そこにいるのは妹さんか」
「結衣です。結城先輩ですよね? いつも兄がお世話になってます」
「こちらこそ、お世話になってます」
二人がペコリとご挨拶。
「で、結城はなんでこの公園に?」
「最近、リアルクロスゲームを始めてさ。ここには期間限定のレアモンスターをテイムしに来たんだ」
あっ、なんか聞いたことがある。最近評判になっているゲームだ。
「へえ。それって面白い?」
「まあまあかな。運動不足解消にはいいかなって感じ。なにしろマップが広いからね」
リアルクロスゲームは、ゲーム内と現実のマップがリンクしていて、現実マップに設定されたマークポイントに行くと、ゲーム内のアイテムやモンスターが獲得できる。そんなゲームらしい。
「夏休み期間は、鉄道会社と提携していて、スタンプラリー感覚で遊べるんだ。コレクション好きならわりとお勧め」
「ものを集める趣味はないかな。じゃあ、今日はまだこれからあちこち行くの?」
「行くつもりだけどなんで?」
「これからうちでタコパをするから、お昼がまだなら一緒にどうかなって」
「それは魅力的なお誘い。他にも誰か来るの?」
「結衣の友達が二人。オープンキャンパスに付き合ってもらったお礼も兼ねて呼んでる」
「そこに俺が参加しても?」
「いいと思うよ。だよね、結衣」
「うん。二人とも、人が増えるのは歓迎だって言ってたし、先輩なら絶対に大丈夫。だって、お兄ちゃんのお友達だもの」
「いやぁ。いい妹さんだねぇ」
「俺もそう思う」
*
「こんにちは。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」
「これ、つまらないものですが、私たち二人から」
「二人とも改まってどうしたの? もっと気軽に、いつも通りでいいのに」
「そ、そう? いえ、男性のいるお宅にお邪魔するのって初めてで、どうしたらいいか分からなかったの」
「そうなんです。だから凄く緊張しちゃって」
「男性っていっても、あのお兄ちゃんだよ?」
「だ、だからじゃない!」
「そっか。結衣はいつも間近で見ているから、慣れちゃってよく分からないのかもね」
「そうそう。実はもう一人参加者が増えたんだ」
「本当? それはよかったかも、人数が多い方が緊張しづらい気がするし」
「誰が来るの?」
「もう来てるんだけどね。お兄ちゃんのお友達の結城先輩だよ」
「えっ? ユウキセンパイ?」
「それってもしかして、あの結城廉先輩!?」
「そう。よかった。実は二人とも顔見知りだったりする?」
「そ、そういうわけじゃなくてね」
「結城先輩は、結構有名だから」
(ヤバい。私、絶対に早希姉にしばかれる)
(それって、やっぱり結城先輩絡みで?)
(そう。結城先輩は早希姉の本命で、やっとOKをもらったのに、まだデートとか一緒にお出かけはしていないはずなの)
(じゃあ先に早苗がイベントクリアしちゃったみたいな)
(そうなの。ヤバイよ。マジヤバい。必死で言い訳を考えないと。でも最終的には土下座かな?)
*
「早苗ちゃん、陽花ちゃん、手伝ってくれてありがとう。追加の具材は、とりあえずこれでいいと思います」
「そうね。じゃあ、始める?」
「うん。お兄ちゃんと結城先輩がずっと焼き係をしてくれるみたいだから、私たちはのんびり座っていればいいみたい」
「えっ! そんなの申し訳ないっていうか。ゆ、結城先輩の手作りタコ焼き……グハッ」
クリティカルヒットが早苗を襲った。もちろん攻撃者は姉である早希の幻影である。
「早苗、大丈夫。タコ焼きの身元は言わなきゃバレないよ」
その様子を見て、隠蔽工作を進める親友陽花。
「身元? 二人ともタコの産地を知りたいの? うーん。どこのだったかな? 明石? うーん違う。海外だった気がする。モロッコとか?」
「大丈夫、結衣、大丈夫だから。身元不明でも私たち全然平気」
「お兄ちゃんはどうだか分からないけど、結城先輩は、タコ焼きを焼くのは慣れているから任せてっていってた。ガンガン焼いてくれるって。楽しみだね!」
「グ、グハッ! そ、そうだね! こうなったら、もう目一杯楽しんじゃう!」
「そうだよ。こんな機会早々ないもの。後のことは後で考えよう。大丈夫。一緒に考えてあげるから」
「おーい。最初のがもうすぐ焼けるよ。どんどん食べてね」
「うわ。結城がいつになくアクティブで驚き。めっちゃ上手いね」
「まあね。タコ焼きには、かなり拘りがあるから。はい、みんなお皿を用意してね」
「わーい」
「じゃあいいかな? 手と手を合わせて……いっただっきまーす!」
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