4-12 日曜日① 妹と縁日

 

「縁日! 結衣も行く!」


 縁日のお土産を結衣にあげたら、目をキラキラさせて自分も行きたいと言い出した。


「行ってくれば? 屋台が沢山あって楽しかったよ」


「うん! 早苗ちゃんを誘ってみる!」


 林檎飴を齧りながら、早速メッセージアプリを開く結衣。


「みんな検定試験を受けるから行けないって」


 でも、すぐにしょんぼりして萎れてしまった。


 なんでも、明日の昼から英語の外部検定試験があるそうで、結衣以外の同級生はほぼそちらに行ってしまうとのこと。


 ……もしもし。


 そんな大事そうな試験、なんで結衣は申し込んでいないのかな? と、自分は棚に上げて聞いてみたら。


「まだそういうのは早いかなって思ってたの」


 ふむ。結衣は現状認識が甘いタイプみたいだな。つまり俺と同じか。


 なんて言っていられないかも。


 男性優遇措置がある俺と違って、結衣は間もなく厳しい受験競争に晒される。いや、もう競争の只中と言ってもいいくらい。


 お兄ちゃんとしては、一応注意を促しておこう。


「結衣ももう高校生になったわけだから、周りの動向を自分でちゃんとチェックして、受験の準備をして行かないとな」


「うん。結衣、これからは気を付ける」


 反省しつつ、すっかり凹んでしまった結衣に対して、つい甘くなっちゃうのは仕方ないよな。だって兄妹だもん。


「じゃあ明日は、俺が縁日の案内をしてやるよ」


「いいの?」


「その代わり、次の検定試験はしっかり準備して受けるように」


「分かった! 結衣、ちゃんと頑張る」



 *



「えっへっへ。お兄ちゃんとデートぉ〜!」


 一夜明けて。レモンイエローのパーカーに白いショートパンツスタイルの結衣は、今日も明るく元気いっぱい。


 俺はというと、昨日は顔を晒してかなり注目を浴びてしまったみたいなので、今日はキャップを被って、ちょっとだけ誤魔化してみた。


「昨日以上に人が多そうだから、はぐれるなよ」


「うん。しっかり掴まっておくね」


 そう言って、結衣が腕にギュッと抱きついてきた。うん。昨日とはかなり感触が違う。結衣の成長期はこれからだな! 


「じゃあ、屋台巡りに行こうか」


「私、食べたいものが沢山あるんだ。バナナチョコでしょ、たこ焼きでしょ、杏飴も食べたいな。だから、半分こして、ちょっとずついろいろ食べようよ」


 その言葉通り買い込んだ戦利品を、まだ比較的空いているイートインスペースで広げて食べ始めた。遅めの朝ごはんってやつね。まずは腹ごしらえしないと。


「むむ。このビックリおおたこ焼き、当たりだね」


 通常よりもサイズの大きなたこ焼きは、表面はカリカリと香ばしいのに、噛むとトロリとしていて柔らかい。マヨネーズとソースに後押しされた旨味のあるタコの味が口の中にブワッと広がった。


「美味いなこれ。帰りに母さんへのお土産に買って行こうか」


「うん。お店の場所を覚えておかなきゃだね」


 食べ終わったら、射的やダーツ、風船掬いなどの遊戯系の出店で遊ぶつもりでいる。軍資金は割と多めに持ってきた。たまにはこうやって散財するのもいいよね。


「お兄ちゃん、デザートにあれどう? アジアン風カキ氷」


 まだ食べている途中なのに、イートインスペースの脇にあるカキ氷屋をロックオンする結衣。でも確かにあれは気になるな。


「いいね。暑くなってきたから、ちょうどいいかも。買ってくるから、結衣はこのままここに座ってて」


「うん!」


 カキ氷屋を目指して歩いていると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。


「王……じゃなくて、武田くん!」


 振り返ると、見知った顔が三人。


 クラスメイトの秋月と深水。その二人に両側から挟まれた上杉だ。そしてこのキャップには、偽装効果が全く期待できないことも判明してしまった。


「おはよう。三人で仲良くデート?」


 聞くまでもないとは思ったけど、一応ね。


「ああ。縁日の話をしたら、行きたいって言われたから」


「武田くんはデートじゃないの?」


「デートは昨日。今日は妹と来てる。ほら」


 振り返ると、こちらに大きく両手を振る結衣の姿が見える。


「あ、本当だ。結衣ちゃんだ」


「結衣ちゃ〜ん」


「ってことは、武田くんも連チャンなんだ」


 武田くんも? 他に連日来ている人がいるってこと?


「私たち、これからお参りに行くの。どうだった? 噂に聞く打ち出の小槌は」


「あれね。思っていた以上に大きくて、重かったよ。女の子一人じゃたぶん持ち上がらない。それに、注意書きにも二人で持って振ってねって書いてあった」


「そうなんだ。それは楽しみだな。賢人くん、一緒にお願いね!」


「ああ」


「賢人くんは、昨日も打ち出の小槌を振ったんだよね?」


「ああ。確かに大きかったが、それよりも持ち手が短くてバランスが不安定だったから、四人で持つのは大変だった」


 四人で? ああ、なるほど。昨日は別の女の子たちと来たってことか。でも。


「それぞれ順番で振らなかったの?」


「そう言ったんだが、その順番がなかなか決まらなくて、結局全員で持つことになった」


 うわぁ。それは大変そう。


「そうだったんだ。でも、私たちは大丈夫だよ。ね、蘭ちゃん」


「うん。予め順番を決めてあるから。賢人くん、先に千花と一緒に振って、次は私と一緒にお願いね」


 なるほど。俺の彼女たちと同様に、事前に順番を決めてあるわけね。秋月と深水は日頃から仲がいいみたいだし、うまくやってるんだ。


 こういう話を聞くと、結婚相手を選ぶ際には、女の子同士の連携や協調、あるいは相性っていうのかな? そういうのも凄く大事な気がしてきた。


 やっぱり。気軽に楽しいハーレムなんて……作れないよなぁ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る