4-05 大国祭

 

 六月最初の土曜日。今日は、四人揃ってのお祭りデートだ。


 このところ雨が続いていたから天気がちょっと心配だったけど、週末は見事に晴れた。青い空に白い雲。絶好のデート日和になったな。場所はもちろん、結城の家の神社になる。


 昼前のせいか、既にワサワサとかなりの人出になっている。四人並んで歩くのは、さすがにちょっと難しい感じだ。どうしよう? なんて俺が戸惑っていたら。


「結星くん、並んで歩く順番は三人で相談して決めてあるから大丈夫だよ」


 ニッコリ笑顔で見上げてくる彼女たち。私服姿で軽くメイクしているのか、いつもより女の子度が増していて、ますます可愛い。どうやら彼女たちは、この状況を想定して相談してきてくれたよう。


 俺が迂闊なの? それとも、みんなが気配りができる子なのかな? 多分両方だね。何人もお嫁さんを貰うつもりなら、俺ももっと考える癖をつけなきゃって、改めて考えさせられた。


 実際には、並んで歩くペアを変えながら、前に二人、後ろに二人になるようにローテーションしていくらしい。


「まずは混みそうなお参りにいっちゃう?」

「そうだね。たぶん並んでいるだろうし、先に済ませた方がいいかも」


 というわけで、このお祭りの名物だという〈打ち出の小槌〉を振りに、お参りに行くことにした。どんなだろうね、その打ち出の小槌とやらは。結城は来てからのお楽しみだと言って、詳しくは教えてくれなかった。


 そう言えばこの間【感情センサーGL】をONにして、彼女たち三人を観察させてもらったところ、全員に可愛らしいひよこが見えた。

 それもなぜかカラーひよこ。苺ミルクみたいなピンク色のファンシーなひよこが、彼女たちの頭上にピヨピヨと浮かんでいた。


 ちなみに、母さんは結衣と同じ黄色いひよこ。クラスの男子は、全員若草色のカラーひよこだった。なんだろうねこれ? 親しい人の頭上にはひよこが見えるみたい。


 感情センサーというからには、何か相手の感情的なものを表しているはずなんだけど。


 親愛は黄色で、恋愛はピンク、友愛は若草色とか? でもそれ以外の人ーー通学路で見かけるような通りすがりの人は、大抵は食べ物が浮かんで見えた。それも俺の好物が多い。


 食べ物は当然単色じゃなくて、いろいろな色が混ざっているから、それがどんな感情なのかよく分からない。どうにも判断が難しいスキルだね。今は面倒だからOFFにしている。ONにしっぱなしだと、必要以上に食欲を刺激しちゃうから。


 お参りはやっぱり列ができていたので、並んで順番を待ち、やっと俺たちの番がきた。


「これ結構重いね。一人じゃ無理かも。持ち上がらない」


「じゃあ、手伝うよ」


「お願いしてもいい?」


 一人で小槌が持ち上がらない場合は、無理せず二人以上で持って下さいという立て看板が出ている。


 それもそのはず。


 打ち出の小槌は、予想を越える特大サイズだった。小槌というよりも小ぶりな太鼓みたいな大きさで、女の子なら一抱えするくらいもある。


 中は空洞になっているみたいだけど、素材に木が使われているからか、それでもかなり重い。俺なら一人でも持ち上がりそうだけど、女性や子供、お年寄りなんかには厳しいと思う。


「じゃあ、シズが先に握ってくれる?」


 そしてこの打ち出の小槌。頭の大きさに比べて、持ち手の柄の部分がかなり短い。だから、二人で持とうとすると、身体が密着した上に、どうしても互いの手が重なり合ってしまう。


 なにこの絶妙なカップル仕様。


 結城が打ち出の小槌を振るといいことがあるよって言っていたのはこれかな? 確かに仲良くなれそう。こういった工夫が、縁結びに一役かっているのかもしれないね。


「先に? どうやって持てばいいかな?」


「俺が上から手を被せるから、そっと柄を握っててくれる?」


 そう言って、シズの手をすっぽり包み込むように柄を握った。……華奢だな。女の子の手って、俺とは全然違う。指が細くて、強く握ったら折れちゃいそうだ。


「痛くない?」


 すぐそばにシズの顔がある。


「だ、大丈夫」


「じゃあいい? 持ち上げるよ」


 なんてやっていたら、周りからひそひそと声が聞こえてきた。


 〈うわぁ。カップルだ〉


 〈いいなぁ。あれやってみたい〉


「願いごとを唱えながら振って下さいだって」


 掲示されている祈願の仕方にそう書いてある。そして、予め願いごとは決めてあった。合格祈願は先日済んでるし、四人で来ているなら、もうこれしかないよね。


「シンプルに行こう」


「じゃあ、せーの」


「「縁結び!」」


 縁結びは、好きな人と結ばれることや、結びつきを強くして、いずれは婚姻に至りますようにっていう意味があるんだって。どうか、ご利益がありますように!


《絆大作戦♡カップル1vs1が設定されました。エフェクト映像を表示します》


 はい? 何作戦だって?


 場にそぐわない日記帳のアナウンス。その直後、前方の虚空に蛍光ピンク色に光る大きなハートマークが二つ現れた。それぞれの♡マークは、二メートルくらい離れた位置にある。


 そして二つの♡から、電光掲示板みたいな光の点がポツポツと互いに向けて出て行って、一直線に繋がるか……と思ったら、その少し手前でピタリと止まった。


 あれ? そこで止まっちゃうの?


《両想い度100% 絆達成度75% 達成条件が不足しています。ご縁がつながるまであと一歩》


 絆の達成条件? 縁結びをするには、まだやらなきゃいけないことが残っているってことかな? でもそれなら、思い当たることがあった。


「結星くん?」


 動きが止まった俺を不審に思ったのか、シズが不思議そうな表情で首を傾げている。


「両想い100%だって。そういう声が聞こえたんだ」


「本当に? 神様の声なのかな? それなら凄く嬉しい」


 シズの嬉しそうな笑顔がめっちゃ可愛いけど、後ろに行列ができているので、あまり余韻を楽しんでいるわけにもいかないのが惜しまれる。


 続いて小早川さん、有馬さんとも同じように打ち出の小槌を振る。カップルということで、周りがやけに注目しているし、人前で手を握るのは正直言ってまだ恥ずかしい。


「小早川さん、大丈夫? 持ち上げてもいいかな?」

「……だ、……ぶれす」


 でも、俺以上に恥ずかしがって、顔を真っ赤にして狼狽える小早川さんは初々しくてめっちゃ可愛い。


「結星くん、思いっきりギュって抱き締めて。遠慮しなくていいから、ギュって」

「こんな感じでいい?」

「うん」


 そして、並んで小槌を持つのではなく、二人羽織方式で覆い被さるように抱き締めてなんていう大胆なお願いをしてくる有馬さんには、もう全面降伏するしかない。

 あのムギュッっていうのには、物凄い視線奪取力というか破壊力がある。どうしても目を奪われちゃう。視線を剥がすのが難しいのは、もう仕方ないよね。


 衆人環視の中とはいえ、彼女たちの仕草や表情が可愛くて、つい俺も積極的になっちゃった。


 そして絆大作戦♡カップルの方は、1vs1が、1vs2、1vs3と順に変化していった。今は向かって左側の♡マークから、右に縦に3つ並んだ♡マークに向けて、放射状に3本の直線が伸びている。


 三人とも、両想い度100%で、絆達成度75%。全員同じ条件が足りないってことは、やっぱりあれだよね?


 三人の家族と顔合わせをして、正式なお付き合いの承諾をもらうこと。たぶんそれが足りない条件だ。

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