4-02 気になる視線

 

「なんか最近、誰かに見られている気がする」


 この世界では、男だっていうだけで注目されるけど、さすがにそれには慣れてきた。でも最近気になるのは、何かこれまでと違う。


「それはお兄ちゃん、やっぱりコマーシャル効果じゃないの?」


「……なんていうかな。そういうのも当然あるんだけど、興味本位のそういった視線とはちょっと違う感じなんだよね」


「どう違うの?」


「じーっと見つめられているような、一挙手一投足を見張られているような? そんな感じ?」


「見張られているか。もしかして写真週刊誌とかかな? でも、未成年の男性に対する取材って、かなり厳しい規制があるはずだよ」


 だったら、マスコミじゃなさそうだね。


「うーん。じゃあ、なんだろう?」


 最近やけにたくさんの視線を感じる。登下校の時や休日に外出した時に、ふと気が付くと、見られているなって思うことが多くなった。


 コマーシャルに出るようになったとはいっても、所詮は新人モデルの一人に過ぎないし、仕事も六角プリン関連だけだから、知名度もそれほど高くないはず。


 この世界は、男性が少ないとはいっても、多人数の重婚が可能だ。だから、男性アイドルですらいつまでも独身のままなんてことはなく、ファンからも結婚を許容されていると聞いている。


 写真週刊誌が俺を追っかける理由なんて、どこにもないはずで。


「じゃあ、つきまといの可能性は? いわゆるストーカーだね」


「ストーカーねぇ。俺は基本的にあまり一人では移動しないし、もしそんな人がいたら、周りの誰かが気付きそうなものだけど」


「視線を感じるのって、主に登下校時なんでしょ? ストーカーが学生だったら、案外気付かないかもよ。みんな同世代で制服を着ているわけだし」


「でもさ、学生で登下校時に追っかけなんてしていたら、同じ学校の生徒ならともかく、他校の生徒だと学校に遅刻しちゃうんじゃない?」


「それもそうか。うーん。でも視線が気のせいでないなら、やっぱり原因は突き止めておいた方がいいと思う。何かあってからじゃ遅いし。結衣も次から気にしてチェックしてみるね」


「うん、よろしく。気のせいだったらそれでいいしね」


 *


「……というわけ。ダイちゃん、どう思う? お兄ちゃんの気のせいかな?」


《ストーカー対策が必要であれば、マスターに【視線チェッカーEX】をインストールすることをお勧めします》


「【視線チェッカーEX】? そんなのあるんだ。それをインストールするとどうなるの?」


《通常版の【視線チェッカー】は、視線を送ってきた相手のリスト一覧と、個別に簡単なプロフィール、そして見つめていた時間を計測できます。》


「ふむふむ。じゃあ、EXは?」


《EX、つまりエクストラ強化版では「視線受信ゲージ」が設定され、単位時間あたりに受けた視線や熱意の量を数値化し集計するとともに、グラフなどによる視覚化が可能になります。またストーカー対策として、登録者がマスター周辺の指定範囲内に侵入すると、アラームがなるように設定できます》


「へぇ。それは便利だね。でもさ、今のお兄ちゃんって、不特定多数の視線を受けまくりでしょ? そういうのも数値化されるなら、すごいリストになっちゃうんじゃない? 見るのが大変そう」


《ソート表示機能があるので、表示に際して足切りができます》


「それは優秀。じゃあ、ダイちゃん。それをお兄ちゃんに勧めてきてくれる?」


《【視線チェッカーEX】には【感情センサーG】という関連スキルがあります。同時インストールが推奨されますが、それはどうしますか?》


「それはどんな機能のスキルなの?」


《視線を送ってきた相手の感情を、色イメージやグラフィックで描画します》


「えっ! それって、人の感情が読めちゃうってこと? そういうのは諸刃の剣っていうか、デメリットもあるんじゃない? お兄ちゃんは嫌がりそう」


《嫌がる理由とは?》


「だって、人の感情なんてすごく流動的で変わりやすいものでしょ? いちいちそれが分かっちゃったら、この人、今こんな風に感じているんだって常に相手の顔色をうかがうことになる。そういうのって、却ってストレスになるよ」


《なるほど。理解しました。【感情センサーG】にリミッテッド版があるのは、そういった理由でしたか》


「リミッテッド版なんてあるの?」


《【感情センサーGL】。描画の際に制限を課し、緩やかな表現に修飾します》


「具体的にはどうなるの?」


《マスターに対する友好的な感情は、マスターが好ましいと思うものに具現化します。その一方で、敵対的な感情は、マスターが苦手なものに具現化するので、直接的な感情表現に比べて心象ダメージを大幅にカット可能。そう、取説にあります》


「なんか面白そうだけど、インストールするかどうかはお兄ちゃん次第かな? もし気に入らなかったら、アンインストールってできるの?」


《可能です》


「じゃあさ、ダイちゃんが上手く話してみてよ。私としては、お兄ちゃんが安全になるなら、それでいいから」

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