第4部

 本日はお日柄もよく編

4-01 祭神

 

「来月さ、うちでお祭りがあるんだ。縁日もやるし、みんなもよかったら遊びに来てよ」


 結城の家の神社でお祭り。それに縁日だって。それはちょっと気になる。


「お祭り? いいね。最近そういうの行ってないし」


「いつあるの?」


「6月の最初の土日」


「結城んちの神社って、誰を祀ってるんだっけ?」


「そりゃあ、超メジャーよ。幽冥主宰かくりごとしろしめす大神おおかみ


 えっ、誰それ? 聞いたことない神様なんだけど。


「いや、知らない。そんなにメジャーなの?」


「別名がたくさんある神様なんだよ。大己貴神おおなむちのかみ八千矛神やちほこのかみ葦原色許男あしはらのしこおのみこと宇都志国玉神うつしくにだまのかみとか」


「全部知らない」


「古事記では大国主おおくにぬしのかみって呼ばれてる。いわゆる大国主おおくにぬしのみことだね」


 それなら聞いたことある……かな?


「その神様って、確か出雲大社の神様じゃなかったっけ?」


 えっ! それって凄くない?


因幡いなばの白兎に出てきた神様?」


 それも有名な気がする。


「大黒天だよね?」


 大黒天って七福神の? 


「そうそう。みんな物知りじゃん。全員正解」


 なんでみんな、そういうことに詳しいの?


 この世界ってファンタジーっぽいところがあるから、プリン神とかそういう神様ばかりだと思ってた。もしかして、メジャーな八百万の神様も実在するのかな?


「で、結局なんのご利益がある神様なの?」


「それはもう盛りだくさん。いろいろだよ」


「例えば?」


「まずは国造りの神として有名だし、女性への愛のためにいろんな試練に打ち勝った神様だから、農業、商業、医薬や禁厭まじないに、縁結び。あと『見えない世界の総支配神』なんていうのもある」


 ふぅん。随分と多才な神様なんだね。女性への愛のために試練に打ち勝つとか、イケメンかって。


「最後の『見えない世界』って何?」


「神の世界や死後の世界に、闇夜の世界、運命や夢なんかもコミコミで。どれも見えない世界でしょ?」


「分かるような分からないような」


「それはまあ、置いておいて。一般的に知られている御利益は、縁結びや子宝、夫婦和合、招福、医薬、病気平癒、商売繁盛、五穀豊穣とか、いろいろ取り揃えているから、なんでもどんとこいだよ」


「縁結びもあるのか。そういうのって、女性が喜びそうだね」


「うん。実際に縁結び祈願を目的とした女性の参拝者は多いね。縁結びグッズも、古典的なのから今風のまで、沢山の種類を揃えているから、是非人数分買って行ってちょうだい」


「ちゃっかり営業かって!」


「いやあ。本当に来てくれるとありがたい。女の子をたくさん引き連れた男子が何人も境内を歩いてると『この神社、本当にご利益があるのかもよ』って、ぶっちゃけ良い宣伝になるんだよ」


「おいおい。神様がサクラ使っていいのかよ」


「いやいや。何も嘘をついているわけじゃないもの。学友の仲良しカップルが、縁日を冷やかしながら歩くだけ。ね? 今回のお祭りは『大国祭』だから、屋台の他に露天商もたくさん出ていて、デートにはぴったり」


「随分と商売っ気あるね。露天商って何を売ってるの?」


「もういろいろ。農産物・日用雑貨・美術工芸品とか」


 へぇ。そんなにお店が出るなら、見て回るだけでも楽しそうだ。


「つまり蚤の市みたいな感じ?」


「うん、そんな感じ。それと今回のお祭りは、大国主神ーーつまり大黒天の御利益を受けられるようにって、参拝の仕方がちょっと変わってる。賽銭箱の手前に大きな『打出の小槌』が置いてあるから、それを振ってお祈りしてみて。きっといいことがあるよ」


 打ち出の小槌か。女の子ってそういうの好きそう。確かにデートするのにいいかも。


「結城、そういうお前は当日何してるの?」


「俺? 俺はもちろん売り子のバイトですよ。かき入れどきなんで、売店も大忙しなわけ」


「バイトかあ。それは忙しそうだな」


「客引き用に、なるべく表に出ろって言われてる。でもまあ今回は、片桐・平野・脇坂の三人がアルバイトに来るから、交代で休憩は取れそうだけどね」


「へ? なんであいつらがバイトに?」


「巫女服姿の女の子のアルバイトが何人もいるって言ったら、やりたいってさ」


「やっぱりそこか」


 好きなんだね、巫女服。確かに、和装とか巫女服とか着た日本女性って、非日常的な可愛さがあるから、わからなくもないけど。


 6月のデート。それも屋台巡りか。楽しそうだよね。三人の都合を聞いてみようっと!

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