3-04 モクドバーガーに行こう!

 

「俺が混ざっちゃって本当によかった?」


 学校を出て最寄り駅まで行く途中、結衣の友達の一年生二人に、念のためもう一度確認してみた。上級生の飛び入り参加なんて、イヤじゃないかなと思って。


「高校の話とか、ちょうどいろいろ知りたかったので、よかったどころか大歓迎です!」


 そう即答してくれたのが、相良さがら陽花はるかさん。


 結衣と同じ学年とは思えないほど大人っぽい子で、ワンレンロングが良く似合っている。いや。結衣が年齢の割に子供っぽいのかな?


「そうなんです! 高校は勉強も大変になるし、ひとクラスあたりの生徒数が増えて、クラスの様子も中学とは違う感じになるって姉から聞いています。だから、男子生徒側の意見も聞いてみたいなって思っていたところなんです」


 続いて元気よく返事をしてくれたのが、田原たわら早苗さなえさん。こちらは結衣と同じくらいに小柄な子だ。以前から登校時に時々一緒になることがあり、既に顔馴染みである。


 あれでも、姉って?


「姉? 田原さんって、この高校にお姉さんがいるの?」


「はい。た、武田先輩と同じクラスなんですけど……」


 同じクラス! マジか。


「ああっ! 田原さん。田原早希さきさんがそう? うわっ。全然知らなかったよ」


 知り合って一年近くにもなるのに、全く気づかなかった。


「そういえば、今まで姉の話をしたことってなかったかもですね」


「言われてみれば、お姉さんと結構似てるね」


「えっ? そうですか? 姉の方がもっとこう、キリッとしていると思うんですけど」


「そうだね。雰囲気は全然違う。だから顔立ちはわりと似ているのに、姉妹だってずっと気づかなかったのかも。お姉さんはキビキビしたイメージだけど、早苗ちゃんは、いつもふわんとした感じだよね。髪型のせいかな?」


「ふわん?」


 早苗ちゃんは、明るめのふわふわした髪を肩くらいで切り揃えている。その髪が日に透けるとキラキラして見えて、まるで……


「綿菓子みたいな感じ?」


 なんかパクって食べたら溶けちゃいそうなんだよね。


「それは……美味しそう? ですね」


「綿菓子好き? 俺は好き。縁日に行くと必ず買っちゃうくらい。元は固いザラメなのに、機械を通すとあんなにふわふわして口の中でシュッと消えちゃうのが不思議で」


「はうっ! 『俺は好き』を頂きました〜っ! 聴覚に焼き付けろ。永久保存永久保存……」


「早苗ちゃん?」


「あれ? 何の話をしてましたっけ?」


「えーっと。お姉さんがいる話? あるいは綿菓子かな」


「そ、そうでした。綿菓子……あっ、そうだ! 綿菓子といえば、裏参道の梅下通りに、人気のキャンディ・ショップがあるんです。そこが最近綿菓子を始めて大評判らしいですよ」


「キャンディ・ショップで? それは気になるね」


「それも普通の綿菓子じゃなくて、超巨大サイズで。こ〜れくらい大きくてカラフルで、色んな味がするそうです」


 そう言って早苗ちゃんは、両腕で大きな三角を作った。それはかなり大きくて、彼女の顔の三倍以上ある。確かにデカい。


「そんなに大きいと食べるのが大変そう」


「ところがどっこい。この大きさで低カロリー。200キロカロリー以下に抑えてあって、それなのにいろいろなフルーツ味がして、飽きないらしいです」


 これはいいことを聞いた。カラフルな綿菓子なんて、いかにも女の子が喜びそうだ。裏宿にお店があるのもポイントが高い。デートに使えるかもしれないから、後でお店をチェックしてみよう。


「飽きないのはいいね。他にも見た目の可愛いさなんかで、女の子に評判になっているお店ってあるかな?」


「えっとですね……」


 そんな情報収集を兼ねた雑談をしていたら、あっという間に駅前に着いた。じゃあ、モクドバーガーへ行こう!



 *


「プリンシェイクのMサイズふたつと、モクモクポテトのLをひとつお願いします」


「はい♡整理番号が呼ばれるまでお待ち下さい♪」


 結衣と早苗ちゃんが二階に席を取りに行ってくれたので、その間に、結衣の分も合わせて注文を済ませておく。


「武田先輩も、プリンがお好きなんですか?」


 待ち時間に、一緒に並んでいた相良さんがそう聞いてきた。


「うん。かなり好き。よくお店に食べに行くし、コンビニでもつい買っちゃう」


「(あうっ! スマイル爆撃の直撃クリティカルヤバッ!)き、兄妹揃って、プリン好きなのには何か理由が?」


「なんだろうね。口当たりの良さや、ふわっと香るバニラの香り、卵黄の美味しさっていうのかな? そういうのが好きなんだと思う。でもプリン以外にも、甘いものは全般的に好きでよく食べるけどね」


「えーっ! 体型とか気にしないんですか?(なにこのご褒美状態! 近い! 距離が近過ぎる! 間近で見ると益々イケメン!)」


「特に気にはしてないかなぁ。燃費が悪いのか食べても体型が変わらないんだよね」


「それはうらやましいです。そういえば結衣もスリムだから、体質ですか?」


「どうだろう? うちの母親はスタイルはいいけど、食後には必ずエクササイズをしているみたいだから、単に今の時期代謝がいいだけとか?」


「それでも食べても太らないのはいいですね」


「相良さんも、そんなこと気にするんだ。意外だな。凄くスタイルがいいのに」


「しますします。私、背が高いので太ると迫力が出ちゃうんです」


「そういえば身長あるね。ローファーでこれくらいなら、ヒールを履いたら俺とあまり変わらないくらいになる?」


「そうなっちゃいますね。ヒール履きたいんですけど、それが気になっちゃって」


「気にする必要なんてないよ。相良さんなら、モデルみたいでカッコいいと思う」


「うわぁ。武田先輩にそう言ってもらえると、すっごく自信になります。背の高い女性って……その、先輩だったら、恋愛対象になりますか?」


「俺はなるかな。好きになるかどうかって、本人次第というか相性? それが一番大事だと思うから」


「よかった。(高望みかもしれないけど、これはチャンス! めっちゃチャーンス到来! この機会をきっかけに頑張ってみよう!)」

 

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