3-02 新入生レクリエーション
始業式の日を迎え、俺たちは高校三年生になった。
同級生の女子たちは、新学期だというのに既に受験体制に入っている。学校も開始早々から演習に次ぐ演習授業で、まるで予備校みたいになっていた。
でもそんな中で、俺たち男子生徒たちは空きコマも何コマかあって、女子に申し訳ないくらいのノンビリムード。
ちゃんと出席して課題を提出していれば、推薦で確実に一流大学に行ける。だから、受験学年のはずなのに高二の時より暇なくらい。
そして、そんな俺たちを遊ばせておくのはもったいないと、学校側が用意したイベントがコレ。
〈新入生レクリエーション〉
入学から一週間、高校三年生の男子が新入生の相手をする。
この時だけは、女子クラスも含めた一学年全六クラスに、均等に担当の男子生徒が配置される。レクリエーション係としてだ。高三男子は全部で十三人だから、ほぼひとクラスに二人ずつ振り分けられた。
期待を持って入学してきた新入生に、実際に男子生徒と交流する場を与え、向学心を奮い立たせるのがその大きな目的なんだって。
「1-Aだけ三人なんですね」
このイベントのプログラム冊子が配られたので、早速担当表を見ると、1-Aだけ担当者が一人多い。
「十三人を六で割ると一人余るでしょ? A組の子にはちょっとしたご褒美ってことね」
昨年に引き続きクラス担任となった佐藤先生が、レクリエーション開始前に高三男子を集めて、冊子の配布とイベントの説明をしてくれた。
そっか。一年生にも当然男子生徒はいる。だから1-Aは一時的に……えーっと、男女比8: 20! つまり2:5。この世界の女性から見れば、あり得ないくらい男性が多い環境かも。
「参考のために、後ほど昨年のVTRを流しますが、本日行うのはルールが単純なゲームばかりです。担当メンバー同士で協力して、アナウンスに従って進行して下さい。もしトラブルが起こったら、すぐに会場にいる教師に連絡すること」
そして、比較的女子生徒に愛想のいい俺は、おそらく意図的に、あまり女子生徒に対してリップサービスをしない結城・上杉と一緒に1-Aの担当になった。
*
「初めまして。3-Aの武田
〈キャー!〉
〈ヤバッ、いきなり激ヤバなんですけど!〉
〈これが噂に聞く、ロイヤルクオリティ……薔薇が! 無数の薔薇の花が!〉
〈半端ない……キラキラが半端ないよ。この高校を受験してよかった!〉
何やら悲鳴めいた声も聞こえるけど、挨拶を結城にバトンタッチして、俺は教壇から一旦降りた。
「結城
〈キャー!〉
〈はーい♡頑張りまーす!〉
おっと短い。それだけ? でもみんな喜んでるみたいだし、これはこれでいいのかな。
「上杉
〈キャー! 背が高〜い!〉
〈何部ですか〜〉
〈部活のオススメは?〉
俺は忙しさに紛れて部活動はしなかったけど、上杉の所属する剣道部は、この地区では結構強い方らしい。その他にサッカー部も頑張っていると聞くし、文化部では合唱や書道が有名だ。
結城は俺と同じ帰宅部だから、部活関係の質問については上杉にお任せかな。
*
レクリエーション初日の今日は、クラス内の親睦を深めるために、校内でのゲームが予定されている。
〈ピン・ポン・パン・ポーン! 新入生の皆さんは、レクリエーション係の誘導に従って、体育館に集合して下さい〉
「じゃあ、これから体育館に移動します。出席番号順に二列になって、俺たちの後について来て下さい」
「「「「「はーい♡」」」」」
そうして集まった体育館で最初に行われるのが、クラス単位で行う「猛獣狩りゲーム」だ。
最初のゲームリーダーは俺。
初対面の新入生に向かって、身振り手振りを交えながら大きな声で呼びかける必要があり、かなり恥ずかしい。だけど、ここは盛り上げる場面だから、そんなことも言ってられない。
ノリだ。ノリが大事! テンポよく、勢いをつけて。頑張れ俺!
全体に向けてゲームの説明があった後、気持ちを奮い立たせて、すぐにゲームを開始する。
じゃあいくよ!
「猛獣狩りに、行こうよ!」おりゃ!
「「「「「猛獣狩りに、行こうよ♪」」」」」
「猛獣なんて、怖くない!」どうよ!
「「「「「猛獣なんて、怖くない♪」」」」」
「槍だって、持ってるし!」槍のポーズ!
「「「「「やりだって、持ってるし♪」」」」」
「鉄砲だって、持ってるもん!」鉄砲の構え!
「「「「「鉄砲だって、持ってるもん♪」」」」」
「あっ! …………『キリン』だ!」
キ・リ・ンは三文字。
その文字数と同じ人数のグループを周りの人と素早く組んで、グループが出来たら輪になってしゃがむ。あぶれた人が負け。そんなルールだ。
今は三人グループ……のはずなんだけど。
わーーーーーっとその瞬間、勢いよく俺たち男子に殺到する女子生徒たち。
うおっ! 待て待て待て! ちょっと待って!
VTRを見たときに心構えはしていた。にもかかわらず、女子生徒たちの容赦ない全方向タックルを受け、踏ん張りきれずによろめいてしまう。
どうやら昨年と同じく、中学からの内部進学者の多くが、遠慮なく俺たち高三男子に群がっている模様。
「じゃあ、君と君。はい、三人ね。しゃがんで」
結城が素早くグループを作ってしゃがんでしまう。要領良過ぎだってば!
でもそうだよ! あれだよ! ここを生き残るためには、あのスピード感が大事。
結城の周りにいた女生徒たちが、次のターゲットに行かなきゃとばかりに、こちらへ向かって走り込んでくる。や、やばい! 急げ!
「じゃ、じゃあ君。と、こっちの君! しゃがんで!」
俺もなんとか二人を選んで座ることに成功する。
そして案外要領が悪いのか、上杉がかなりもみくちゃにされた後、ようやく一回戦が終了した。
そしてあぶれた人たちが次のリーダーになって、ゲームは続いていく。
「アフリカゾウ!」
「ベンガルヤマネコ!」
「アルマジロ!」
その後も新入生たちの果敢なタックルを受け続けて、かなり消耗してしまった。だけど彼女たちの方はといえば、めちゃめちゃ盛り上がったみたいで、みんないい笑顔をしている。
……これなら、今日は大成功かな。
結衣もあの体育館のどこかにいたはずなんだよね。見かけたら声くらいかけようと思っていたけど、全然そんな余裕はなかったな。家に帰ったら感想を聞いてみるか。
そう考えながら、今日配布されたプログラム冊子をなにげに見直した。そしてそこにある、新入生の時間割が目に留まる。
あれ? これなら。家まで待つ必要なんて、なくない?
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