第3部

新学期 編

3-01 いよいよ高校生

 

 プリンクエストについては一旦保留。あのあと、みんなでスキーを楽しんで旅行から帰ってきた。


 もう始業式も目前だ。


 四月の二週目には形ばかりの入学式があって、いよいよ結衣が新入生として入ってくる。といっても、附属中学校からの持ち上がりだから、特別に準備するものはあまりないんだけどね。


 でもそれにしては、結衣はなんだか凄く嬉しそうだ。


 今も妙にご機嫌で、ノリノリで即興ソングを歌いながら「プリン研究」と称して自家製プリンを作っている。


 〈お・い・し・い プリンプリン♪〉


 〈ふんわりバニラがかおリンリン♪〉


 〈「最強プリン」がやってくる♪ イェイ!〉


 〈アット ザ トップ オブ ザ スイーツ ワールド!〉


 〈ドリームプリン カム トゥルー スーン!〉


 〈一口食べれば〜はい、どうぞ! お口がとろけるぅ♪ ワンダホゥ〉


 〈世界に広がる〜プリンのサークル♪〉


 〈至福のプリンを作ろうよ♪〉



「結衣どうしたんだ? 変な歌を歌って」


「変じゃないもーん。こうやって作ると、すっごく美味しく出来るんだから」


 俺の冷やかしに結衣がほっぺたを膨らませる。そんな結衣の姿はまるで子供みたいだけど、リスみたいでかなり可愛い。


「ごめんごめん。すっごく美味しいプリンか。それは楽しみだな」


「お兄ちゃんにあげるなんて言ってませーん!」


「えっ? そうなの?」


 さっきから、すっかり食べるつもりで待ってるんだけど。


「どうしよっかなぁ。結衣の作ったプリン、そんなに食べたい?」


「うん、もちろん!」


「素直でよろしい。じゃあ、お兄ちゃんにはデラックスデコレーションデカプリン、略して3DPスリーディーピーを作ってしんぜよう」


「やった!」


 3DP……よく分からないけど、きっと凄いのが出てきそう。


「……お兄ちゃん、プリン好き?」


 へ? 何を今更。


「うん。知ってるだろ? 凄っい好きだよ」


「おうっ! 相変わらずのスマイル爆撃。じゃなくて……お兄ちゃんがプリン好きなのは、よーく知ってるよ。うん知ってる。プリンが好きなのは嬉しい。でも無茶したらダメだよ。身体は大事にしてね」


「えっ?」


 唐突に身体の心配? それってプリン好きとなんの関係が?


「あっ……ちょっと言い方が変だったかも。新学期も元気に登校しようねって言いたかったの」


「新学期の話? 結衣は高校に上がるのがそんなに楽しみ?」


「うん。これでやっと、お兄ちゃんと一緒に通えるから」


「それが理由? 今までも朝は一緒だっただろ?」


「まあそうなんだけど、今度から校舎が同じだから、途中で別れないで済むでしょ?」


「うーん。でも結局昇降口で別れるから、距離的にはそう変わらないような……」


「そこは気分の問題です。結衣はお兄ちゃんを見送るのが苦手なの!」


 結衣は案外、寂しがりやだな。兄として慕われているなら嬉しいけど。


「そっか。なら、今度は俺が結衣を見送ってやるよ」


「本当? 約束だよ」



 そのあと食べた3DPは、プリンの他にバニラとチョコの二種類のアイスクリームが、てんこ盛りの生クリームに埋もれているという、かなり大胆な代物だった。

 でも生クリームは甘さ控えめ、そしてその上にかけられたカラメルシロップがほろ苦と、絶妙なバランス。


 結衣はプリン作りに関しては、才能があるのかもしれない。


 *


 夕食が終わり、武田家の面々はそれぞれが自室に引き上げた。どうやら結星はいつものVRゲームにログインしたようだ。母親の結子は、音楽を聴きながら食後のエクササイズをしている。そして結衣は。


「ねえダイちゃん。今の状況はどんな感じ?」


《既に問題の日記帳所有者ダイアリーホルダーの所在は捕捉しています。その動向から判断すると、早々に学園に現れる可能性が高くなってきました》


「あーあ。やっぱり阻止できなかったか。できればこっちには来ないで欲しかったんだけど」


 《どうやら、相手の願望実現に向けた「魂のエネルギー」がかなり大きいようです。強引な手法を取ることに躊躇がないようなので、こちらへの干渉を完全に阻止するのは無理だと予想されます。》


「えーっ。そんなの困っちゃう」


《もう少し私に加護エネルギーが補給されれば、十分に対抗は可能です。あちらが力任せで押して来るなら、押し返すまでです。封殺とはいかないと思いますが、マスターへの接触を妨害することはできると思います》


「ほぅ。もう少しってどのくらい?」


《広範囲に布教活動を行えばおそらく足ります》


「それ『もう少し』って言わないよ。布教活動ってつまり、世間への普及事業とか、消費量を増やすとか、広報活動をするってことよね? 『広範囲に』って簡単に言うけど、それが難しいの。それとも何かあてがあるの?」


《はい。マスターに、エグザ・贅沢スイーツ「極上六角プリン」のCMイメージキャラクターとしての勧誘が来ています》


「えっ! そんなの聞いてない。いつの間に?」


《スキー旅行の参加者として関係者を誘導した結果、狙いが当たって声をかけられました》


「なるほど。ダイちゃんたら、隠れてそんなことをしてたの。でもそれって、ちゃんとした話なの?」


《裏を取りましたが、問題はありません。あるとすれば本人のやる気でしょうか》


「あー。お兄ちゃん、そういうの嫌がりそうだもんね。どうするかなぁ」


《ホストマザーに相談されてみては?》


「お母さんに? それって評価の減点対象にはならない?」


《相談して意見を聞くだけならなりません》


「そっか。でももし、お兄ちゃんを説得するのに協力してもらったら、当然減点になるよね?」


《はい。減点対象になる行為です。ですがその分を差し引いても、アウトよりインの方が多いので、結果的には大幅にプラスになるでしょう》


「そっか。分かった。とりあえず相談はしてみる。私たちのテリトリーに図々しく割り込んできた乙女ゲーに、お兄ちゃんが巻き込まれるような事態は絶対に阻止しなきゃ」

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