2-25 春の嵐
「見合い? なんで俺がそんなことしなくちゃなんないんだよ」
その日、織田
「三郎様。学院で起こりました一連の騒動に、奥様は非常に心を傷められ、たいそう懸念を示されております。坊っちゃまをこのままお一人にしておくのはリスクが高い。そう考えられたのかと」
「騒動って、俺は関係ねーじゃん。
三郎と弟の勘十郎が通う安土桃山学院では、この春、学院始まって以来の大騒動が起きていた。
元々、少人数制の男子校という超過保護な上に特殊な環境であった場所に、いったいどんな手を使ったのか、男子に偽装した女生徒が紛れ込んだのだ。
もじゃもじゃのカツラを被り、瓶底メガネで顔を隠して、新入生として学院に現れた彼女は、瞬く間に同学年である高校一年生を魅了した。そして、その中に三郎の弟である勘十郎が含まれていたのである。
バレンタインデー当日。三郎とその取り巻きが、サッカーの試合のために他校に遠征している間に事件は起こった。
来人を巡って、一年生と居残り組の二年生がバトルを繰り広げ、その結果、来人の変装が暴かれて女子であることが公になってしまった。そして、その性別偽装を勘十郎が知っていて、学校側を
結果、勘十郎は謹慎処分。本来なら少なくとも停学となるところを、圧力をかけて緩和させた。
津々木は当然のことながら退学となった。
しかし、その後の調査の結果、津々木くららの個人ロッカーから「安土桃山学院・逆ハーリスト」というタイトルの一覧表が発見される。
それによると、彼女の最終的な
そして実際に、既に多くの男子生徒が彼女に籠絡されていたことも、リストを元に行った入念な事情聴取で判明したのである。
「学院からの報告では、津々木とやらの次の標的は三郎様だったとのことです。別荘でご静養中の勘十郎様は、今でも精神的に不安定なご様子。お痛ましいことです。いったいあの女に何をされたのか。三郎様がご無事だったのは、ただ運が良かっただけなのですよ」
「であるか。……で、見合い相手って誰だよ?」
「三郎様が以前パーティでご一緒されたことのあるお方です。
「正親町栄子? それって確かババアじゃん。なんで俺がそんなババアと見合いしなきゃいけないんだよ!」
「三郎様の初めてのお相手には、エルダーパートナーが相応しいだろうと奥様がご判断されました。それに坊っちゃま。僭越ながら、栄子様はまだ20代でいらっしゃいますし、大変良いお話だと伺っております。なにしろ正親町家は、日本を代表する名家のひとつですから」
「名家なのは知ってるよ。でもそれなら
「残念ながら、そのお話は皇極家から正式にお断りのお返事が届いております。ですから、奥様も次のお相手をと捜され、正親町様にお話を持って行かれたわけです」
「断られた? なんで? なんでだよ! ずっと前から申し込んでただろ」
「仰る通り、三郎様のご希望ということで、婚約の打診はしておりました。ですが皇極家は、自由恋愛や同性婚を好む家系ですから、成約は難しいだろうという予想はされておりました」
「自由恋愛ならそれこそ俺を選べよ。俺以上のいい男なんていないんだから!」
「女性はいらしたようで」
「女? 斉子の相手って、女なの?」
「おそらく。皇極家はその方向で動かれているようです」
「ケッ! 女同士なんて信じられねえな」
「世間には珍しくございません。ですので、皇極家とのご縁談はスッパリとお諦め下さい。そして正親町家には当家から声をかけた以上、お見合いそのものを断ることは不可能でございます」
「……であるか。ちっ。会えばいいんだろう、会えば。でも、ババアとなんて絶対に結婚するもんか」
◇
「……ねえ。私、どこで失敗したの?」
安土桃山学院を放校になった津々木くらら。桃色の日記帳を前に、彼女はそう呟いた。
《ここはマスターがプレイされていたような完全な世界ではありません。
「つまりここではマニュアル通りの行動では通用しない。そういうこと? 女が多い世界の方が望みが叶いやすいっていうからここにいるけど、そもそも乙女ゲーの舞台として、女ばかりの世界っていうのは選択ミスなんじゃないの?」
《男性が過剰にいる世界では、男性の総意に基づく願望が優位に反映されます。行けば一生鎖に繋がれた生活を強いられる可能性がありますが、今から変更しますか?》
「いい。ヤンデレ監禁とかメス奴隷コースは真っ平ご免よ。私は逆ハーレムエンドを迎えたいの。次こそいい学校を選んでよ」
《現在、候補となる高校への編入方法を模索中です。対象の男性レベルを落としてもよろしければ、選択肢が増え、編入時期が早まります。どうしますか?》
「いやよ。攻略対象の
この男に甘い世界で俺は。第二部 [了]
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