2-23 企画スキー旅行②

 

「皆さん、初めまして。そしてようこそ、このスキー旅行へ。ご挨拶が遅くなりましたが、私が主催者の三好です。今日は初日ということで、交流がしやすいようにビュッフェ形式にしてみました。ご自由にご飲食、ご歓談下さい」


 北条と三好さんが遅めに戻って来たので、結局、夕食の時に食堂で全員が集まることになった。広い食堂には、ケータリング・サービスで運ばれてきたばかりの温かい料理がたくさん並んでる。


 そして、三好さんと初対面。


 こんなちゃんとした企画を立てて手配もしてくれるくらいだから、落ち着いた大人の女性をイメージしていた。だけど実際の三好さんは、意外なことにまだ若い女性だった。


 若々しいじゃなくて若い。


 見た感じは大学生くらいだなって思っていたら、本当に現役の大学生なんだって。


「21歳? 若いね。今度大学四年生なら杏と同じじゃん。」


「エルダーパートナーって聞いてたから、てっきりもっと年上かと思ってた」


「代々家業がある家ではよくあるんだけど、英才教育されて学生のうちから一部事業を引き継ぐんだって。後継者として相応しいか、それで資質や力量を試される。三好家もそうらしいよ」


 英才教育を実地でやるんだ。それは凄い。


「へぇ。三好さんって、どこの大学なの?」


「聖カトリーヌ学院大学」


「やっぱりあそこか。つまりエリート家系なんだね」


「そうなのかな? 聖カトリーヌではごく普通の家柄だって言ってた気がする。もっとすごい人が大勢いるんだって、あそこ」


 ああ、いそういそう。


 交流会のときの女生徒たち、妙に浮世離れしてたものな。世が世ならって人たちが多そうだ。


「これから来る他のエルダーパートナーの人たちも聖カトリーヌ関係なわけ?」


「そうとも限らないみたい。仕事で知り合った人たちだって聞いてるから。年齢も……多分いろいろ?」


「ふぅん。仕事絡みってことは、キャリアウーマンばっかりってことだよね?」


「は? 武田、何それ。 キャリアウーマンなんて化石ワード、どこから引っ張り出したんだよ」


「えっ? 今って使わない?」


「そりゃそうだよ。女性が社会でキャリアを積むのは当たり前。『キャリアウーマン』みたいな働く女性を特別視するような言葉は、男女人口比均等時代の遺物で今は死語だよ」


「そういうこと。武田って、あの時代からタイムワープしてきたの?」


 なるほど。言われてみればそうか。


 むむ。こういうところで、この世界の常識を試されるな。俺がしたのは世界ワープ? だと思うんだけど、ある意味タイムワープに近いしね。


「そっか。そうだよね。なんかボケてたかも」


「そういえば武田って、他の勉強はよくできるのに、社会史は苦手だったよね」


「うん。近代史はダメダメ。……世界地理とか公民もダメかな」


 起こるはずの紛争が起こらなかったり、法律や条約・協定などがかなり改変されているから。地域によっては国の枠組みなんかも変わっていて、頭の中はもう混沌カオス


「ほぼほぼ社会全般じゃん。暗記モノは苦手?」


「苦手っていうより、なんかいろいろごっちゃになっちゃうっていう感じかなぁ」


「ごちゃごっちゃねえ。まあ俺も社会は苦手だから分からなくもない」


 結城も社会は苦手なのか。仲間だな。いや、でも結城は俺と違って補習は免れていたはず。


「A組はこんなところでもお勉強の話? もっと違うこと話そうぜ」


 先ほどまで結城四姉妹と話していたC組の三人が、こちにやってきて合流した。お姉さんたちは……ああ、三好さんや松永さんと歓談中なのか。俺も後でちゃんとお礼を言いに行かなきゃ。


「違うことって?」


「そりゃあ明日以降のペアリングについてとか」


「ペアリング?」


「そうだよ。今日は武田が、いつの間にかモエマドの二人と消えちゃうんだもんな。ズルいぞ!」


 へ? 俺の行動って、そう思われていたわけ?


「ごめん。でも、意図的に別行動したわけじゃないよ。リフトを乗り継いでいたら、みんなとはぐれちゃったというか……」


「それそれ! 上級者コースに行くなとは言わない。だけど、それはもっとみんなで遊んでからにしよう」


「相談しようそうしよう」


 ……花一匁はないちもんめかって。まあでも言わんとすることは分かった。


「いいよ。明日はスノボをすることになってるけど、みんなで同じコースに行く?」


「おうよ! 俺たちだって双子ちゃんと思いっきりたわむれたい!」


 平野が熱く主張してきた。


「だよね! 男女比3:2よりは4:4! バランスはとっても大事!」


 脇坂も気合が入ってる。C組男子全員がやけに熱い。もしかして年上好きなのかな?


「あー。数ね。結城は? 明日はゲレンデに来る?」


「スノボなら俺も行こうかな」


「OKOK。結城は弟だから全く問題なーし」


「よし! 話もついたし、飯を食おう!」


 そんな感じで、その後は三好さんに挨拶をしに行って、お腹もいっぱい。ラウンジでトランプ大会をしてから就寝。三好さんはとても当たりの柔らかい感じのいい人だった。北条とはお似合いかも。


 ふぁ。移動とスキーで、さすがに疲れた……眠い。おやすみなさい。


《オヤスミナサイ》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る