2-21 企画スキー旅行①
「ヒャッホー!」
雪雪雪。辺りは見渡す限りの雪景色。
雪に反射する日差しが眩しい。天気がいいし風も強くない。絶好のスキー日和だ。
「武田くん、凄くスキー上手だね。もしかして上級者?」
「滑り方までカッコいいなんて。凄いぞ、君はいったい何者?」
「そ、それは買いかぶり過ぎかな。俺はそこまで上手くないよ。そういう二人こそ、滑り慣れてるね」
……ちょっと、いやかなり動揺。
これはですね、ドーピングならぬインストールのお陰なんだ……ってまさか言えないし。手放しで褒めてくれるモエマドの二人に、曖昧に笑って誤魔化した。
支度をして、さあゲレンデに行くかというタイミングで、アレが来た。そう、例のごとく日記帳のアナウンスだ。
《初心者でも安心。あっという間にゲレンデ王子に大変身。「スキー滑走インストラクション・上級者コース」をインストールできます。インストールしますか?》
……えっと、いきなり上級者コースなの?
ゲレンデ王子……それに、初心者でも安心って、突っ込みどころ満載だよね。でも気になる。特に〈初心者でも〉ってところが。もしかして以前の俺って、スキー未経験なの? ねえ。
《別バージョンでスノボ上級者コースもあります。併せてインストールしますか?》
俺の疑問はスルーかよ!
……で、お願いしました。もちろん両方のコースを。
ズルい?
いやだってさ。みんなで滑ろうねって、バスの中で和気あいあいと盛り上がってたんだ。なのに、俺だけ初心者です、だからスキー教室に行ってきます……じゃあ、あまりにも悲し過ぎる。
なのでここは、素直に日記帳の不思議パワーに力を借りることにした。
おかげで滑り出しは順調だ。そして、リフトを乗り継いでいる内に自然とグループが分かれ、気がついたらモエマドと一緒に難しめのコースにいたってわけ。
「そろそろロッジに戻ろうか?」
まだちょっと時刻は早い。だけど、部屋に荷物を広げたまま急いで出てきちゃったから、早めの引き上げを提案してみる。
「そうね。もうちょっとって思わなくもないけど、明日以降もあるものね」
「三好さんと会う前に、ちゃんとした格好に着替えておきたい気もするし、戻ろっか」
「じゃあ、最後に一滑りしてから戻ろう!」
*
「さすがにまだ誰も戻ってないか」
「そうみたい」
積雪に囲まれたロッジは、ゲレンデからすぐの好立地にある。
スキー板やブーツの雪を払い乾燥室へと入ってみると、どうやら俺たちが一番乗りっぽかった。
バスの旅が終わり、俺たちがこのロッジに到着したときには、北条や三好さんは既にゲレンデに出ていてロッジにはいなかった。
〈先にゲレンデに行ってる。みんなも気軽に楽しんで〉
そんな北条の伝言と沢山のリフト券が用意されていたので、お言葉に甘えて早速滑りに出たってわけ。
「じゃあ、着替えたらリビングに集合でいい?」
「OK」
「了解」
二人と別れて、自室に割り当てられた部屋へ入った。
部屋はツインで、俺は結城と同室になっている。
北条には自分の個室があり、片桐たちは広めの三ベッドルームへ。俺たち男子は、この三部屋に分かれている。
「ただいま〜」
「お帰り。早かったね」
唯一ゲレンデに出なかった結城が、ピコピコとゲームをしながら振り返った。結城は今回、なぜか自前のゲーム機を持ち込んでいる。一緒に滑りに行こうって誘ったんだけど「今日は怠いからいいや」だって。
それでいいのかって思わなくもないけど、結城らしいっちゃらしい。
「初日だしね。軽く滑ってきた」
「他の人は?」
「モエマ……
「あは。モエマドでいいよ。あの二人と仲良くなったんだ?」
「うん。同じコースで滑ることが多かったから」
「あの二人どう?」
「どうって?」
「第一印象的には『あり』『なし』どっち? ってこと」
ああ。恋愛対象って意味か。
「気が早いな。まだ初日だろ。でも第一印象はいいよ。二人とも明るくて可愛いし」
「つまり『あり』か。よしよし。掴みはOKだな」
おいおい。
「掴みはOKって。何も俺とくっつけなくても、あの二人なら相手には困らないだろ?」
だって可愛いさが半端ない。
「それがさ。確かにモテるにはモテるんだけどね。ちょっと面倒くさい条件があって」
条件?
「それって、家のしきたりか何か?」
「ううん。単なるあいつらの我がまま。二人で同じ男と結婚したいんだって」
おっと。それは予想外。
「同じ相手と結婚して、同じ家に住んで、一緒に子育てしていきたいって言ってる」
「へえ。ずいぶんと仲がいいんだね」
「仲はいい。だけどそれだけが理由じゃない。打算ありあり。一人の男を二人で世話することで、一人当たりの労力と時間をエコロジーしようって
「役割分担ってこと?」
「そう。家庭内ワークシェアリング。つまりなるべく楽したい。家事苦手だしね、あの二人」
なるほど。一夫多妻ならありそうな発想ではある。
「ふうん。でも同じ相手を好きになるかどうかなんて、自分でどうこうできるものでもないし、分からなくない?」
「そこなのよ。一人がこの人いいかなって言っても、もう一人が、ここが気に入らない、あそこが嫌だとか言って、全然話がまとまらないの」
なるほど。確かに二人とも伸び伸びというか、かなりフリーダムなキャラだから、双子でもお互いの意見が合わないわけだ。
「そりゃあ、大変そうだね」
「大変なの。本当に。そこで期待の新星、武田が登場なわけ」
「俺? 別に俺じゃなくてもいいだろ?」
「イケメンで優しくてスポーツ万能で、性格は穏やか。変な家のしがらみもない。年齢的にも合う。こんな好条件の男って、実際にはなかなかいないわけ。二人がケチつけなさそうな男って希少なんだよ。念のため聞くけど、特殊な性癖があったりはしないよね?」
「至ってノーマルだけど?」
「よかった。これで安心して片付けられる」
「何言ってんだか。結城が俺のことを高く評価してくれるのは嬉しい。だけど、お姉さんたちもそうとは限らないだろ。こんな男じゃ嫌だって文句を言うんじゃないか?」
「えっ? 武田がそれを言う?」
「そりゃ言うよ。顔……はちょっといいっていう自覚はある。だけど、俺なんてどこにでもいるありふれた男に過ぎないよ。中身はね。友達の欲目じゃないか? 俺のこと買いかぶり過ぎだって。ちょっと、シャワー浴びてくる」
話を切り上げて、冷えた身体を温めに行くことにした。
このロッジは個人の持ち物としてはかなり大型で、ベッドルームが九部屋もある豪邸だ。最初はてっきり貸別荘かと思っていたら、三好さんの所有物件なんだって。
そのせいか、内装にもさり気なくお金が掛かっている。
インテリアはもちろんのこと、内線で各部屋を呼び出せるし、小さな冷蔵庫や有線放送にTVやネット環境も完備、それにトイレ・洗面台にシャワーブースまで付いている。ホテルとなんら変わらない。いや、それ以上かも。
「ふぅ。生き返るね」
熱めのシャワーが、かじかんでいた四肢の隅々を溶かすように温めてくれる。
「結城も変なこと言うよな」
今の俺は外面はリメイクされいて、身体能力もおそらく以前より上がってはいる。だけど、中身は
リーダーシップがあるわけでも、煌めく才能があるわけでもない。至って平凡な男だ。情けないかもしれないけど、そんな気持ちが自分の中にはある。
自分の姉とくっつけようとするくらいだから、結城は俺のことを信用してくれているはずだ。それは嬉しい。でもそれとこれとは話が別だよね。
そこまで考えてハタと思い出す。
気軽に遊びに来ちゃったけど、この旅行って主旨的にはお見合い? あるいは合コンなわけで。
でもだからって。
集まった女性たちを最初から恋愛対象として見れるかっていうと……いきなりは無理そう。俺はそんなに器用じゃない。彼女が三人もできたばかりで、気持ち的にもそんな余裕がないというか。
これって変?
俺と違って、片桐たちは盛り上がってたな。あれが普通なのかな?
……そういえば、エルダーの人たちって、いつ頃来るんだろう?
年上の女性を恋愛対象にするなんて、いまだにあまりイメージが湧かない。優しそうとか甘やかしてくれそうとか、そんな漠然とした絵しか浮かばない。これって、ちょっと単純過ぎるというか独り善がりなのかな?
でも俺、恋愛経験値低そうだし、大人の女性との接し方なんて。どうしていいか、まるっきり分からない。
社会人の人たちは当然だけど、結城の姉さんたちも全員年上。凛さんと杏さんは成人していて、モエマドの二人は未成年。うーん。
……エルダーパートナーか。
最初にそのシステムについて聞いたときは、全部女性にお任せなんて楽そうでいいなって思った覚えがある。でも、実際に生身の女性と接してみると、そんな単純なものじゃなさそうだ。
そもそも社会人と高校生で、話が合うのかな? 共通の話題って何? おそらくギャップがあるよね。今さらながら、ちょっとその辺りが心配になってきた。
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