2-12 結衣とお出かけ
ホワイトデーが近くなってきたせいか、このところ、クラスの女子たちが、そわそわしながら俺たち男子の様子を伺う日々が続いている。
「お待たせ。じゃあ、お兄ちゃん、行こっか?」
今日はこれから、結衣と一緒にショッピングモールへお出かけだ。目的は、ずばりホワイトデー用のプレゼントの購入になる。
「えっと『ゴメンナサイ』の場合は、キャンディやマシュマロ。『交際OK』の場合は、身につけるアクセサリーでいいんだよな?」
「うん、合ってる。聞いた話では『交際OK』だけなら、プチペンダントが多いみたいよ。サイズが分からなくても大丈夫だし、身につけても邪魔にならないから。『いずれ婚約しようね』なら、指輪にしてもいいらしいけど」
「そっか。アクセサリーの場合って、返事をする全員をお揃いにした方がいいの? それとも、違うデザインの方がいい?」
「お兄ちゃん、必要なのはいくつ?」
「えっと……とりあえず三つ? ……は用意しておこうかなって」
「三つか。そうね。三人とも同じくらいに好きなら、ちょっとデザインや石の色が違うくらいで、差をつけない方がいいかもしれない」
なるほど。
「分かった」
「ちなみに、お兄ちゃんが選んだのって、どんな人たち? 気になるんだけど」
「どんなって言われても……三人とも全然タイプが違うんだよね。だから、どうしても一人に絞れなかったんだ」
「絞る? 三人なら絞る必要はないんじゃない?」
「そうなんだけど、俺はあまり要領がいい方じゃないから、複数同時進行ってなんかこう、違うかなって」
「ものは考えようだよ。お兄ちゃんプリンアラモードが好きでしょ? あれと一緒。プリンがあって、フルーツもあって、アイスや生クリームもある。ひとつひとつは違うものでも、組み合わせたらずっと素敵になる。そんなイメージ」
「うーん。プリンアラモードはそうだけどさ。それと男女交際は一緒くたにはできなくない?」
「もしかして、誠実さとかそういうのを考えてる?」
「……そういうこと、かも」
「それは、実際に相手の女の子に聞いてみればいいと思うよ。この世界は極端に男性が少ないから、男性を独占したいっていう気持ちはあっても、共有して上手く行くならそれでもいいって考えているのが割りと普通だもの」
「そういうもの?」
「うん。全員ってわけじゃないけど、案外そういうもの。バレンタインの時に、そう言ってくる子はいなかったの?」
「……そういえばいたかも」
「でしょ。一人に絞って他の二人にゴメンナサイをするより、三人まとめて引き受けた方が、人間関係が上手く行く場合もあるかもよ。でも最終的には、お兄ちゃんの気持ち次第だけどね」
前の世界の常識に囚われていたけど、もっといろいろと深く考えないとダメってことか。難しいな。
「いいなあ。そんなに真剣に考えてもらえて」
「結衣?」
「だって、結婚したい女性でも、必ずしも結婚できるとは限らないんだよ? 意中の男性に告白しても、知らんぷりってこともあるんだから」
「お前……」
「やだ。そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫。結衣はまだ中学生だし、この年齢で返事をもらえる子は少ないしね」
そっか、そうだよな。
男女交際がかなりの確率で結婚に繋がるこの世界では、みんな恋愛関係に関しては割りと慎重だ。
女性にモテるからって、ちょっとお試しで付き合ってみようか、なんてことを次々と繰り返していたら、かなりの遊び人だと思われて警戒されるくらいには。
男性の方は十二人まで重婚可能とは言っても、若い内から全部の枠を埋めてしまう人はそういない。どこで出会いがあるか分からないしね。
「お兄ちゃん、もう次の駅だよ」
「うん、わかった」
*
ショッピングモールへ着くと、そこはホワイトデー関係で一色だった。もう春だってことで、ホワイトデーに関係のない店まで、華やかな春らしいディスプレイで飾られていた。
「なんか、ウキウキするね」
「そうだな。今日はいつもより男性が多い?」
「ここだと、買ったお菓子にホワイトデー専用のラッピングをしてくれるから、来る人が多いんだよ。ほら」
結衣に促された方を見ると、ラッピング専用の特設コーナーがあり、受付には既に列ができていた。
「ちょっと出遅れちゃった? ごめんね、結衣のせいで」
「今日は他に用事はないから大丈夫。気にするな」
「えへっ。ありがとう。……! あれ? いつの間にか『
「路角? それって何屋さん?」
「有名なテイクアウト用のケーキショップだよ。安くて美味しいからコスパがいいんだよね」
「ふーん。お勧めは何?」
「それはもちろん、『
「カスタードプリンか。じゃあ、帰りに買って帰ろうか?」
「うん。家で結衣がデコレーションして、プリンアラモード風にしてあげる」
「マジ? それは楽しみだなぁ」
家で食べるなら、プリンを一度にふたつとか載せちゃうのも可能なわけで……うわっ、いいかも。
〈きゃー笑った!〉
ん?
急に周囲の女の子たちから、高い歓声が上がった。
「お兄ちゃん、注目されてる。二階に行こう!」
結衣に引っ張られるようにして、吹き抜けになっている中央広場からエスカレーターに乗った。まだ下からは、きゃーきゃー言う声が聞こえてくる。
「あれは?」
「たぶん、バトフラのPVを見ている子たちだと思う。あの映像が『ネコネコ』で再生回数ヤバいんだから」
「ネコネコって、動画サイトの?」
「そう。オリジナルだけじゃなくて、編集したり、吹き出しをつけたり、BGMを変えたり、いろんなバージョンが流れてるよ」
「……知らなかった」
「ただでさえ、お兄ちゃんは目立つのに。【街プリ】にもロックオンされてるみたいだし、お出かけの時は結衣から離れないでね!」
「う、うん。なんだかよく分からないけど、気をつけるよ」
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