2-11 交流会

 

 もうすぐ春休み。


 そんな時期に「他校交流会」という、今年初めて参加することになったイベントに、俺たち高二男子が駆り出されることになった。そして実際に「聖カトリーヌ学院」に来てみたわけだけど。


 今、壇上では、この学院の生徒会長である高坂という女生徒が、学院生に向けて開会の挨拶をしている。


「……ということで、ご来校頂いた栄華秀英学園の生徒の皆さんのご紹介に移りたいと思います」


 この生徒会長が、スラッと背が高くて蔵塚くらづかスターみたいな格好いい系美少女。すごく堂々としている上に醸し出すオーラが半端ない。場慣れしてるっていうか、本当に同い年なの?


「驚いたことに、私たち生徒会役員もやっているゲーム『バトフラ』のPVに出演している方もいるみたい。もし、そのPVを見たことがあるなら、誰がそうなのか探してみて下さいね」


 おっと。これにはビックリ。やっぱり、そういうのって分かっちゃうのか。


「では、栄華秀英学園の皆さん、順番に名前をお呼びしますので、自己紹介をお願いできますか?」


 そうして呼びかけに従って、簡単に自己紹介と挨拶をした。その間、大勢のカトリーヌ学院の女生徒が、ジーっとこっちを見ているわけだ。結構な緊張感が湧いてくる。


 自己紹介が終わると、壇上から降りてフロアへ。


 ここには、いくつもの丸テーブルに、飲み物や軽食が用意されている。最初は、そこに座って待っている女生徒たちのところに、俺たちが順番に回っていくというスタイルで始まった。


 まるでお見合いパーティ。


 いや。そういうのに出たことがあるわけじゃないんだけどね。イメージっていうの?


「初めまして。武田結星です」


「…………」


 お嬢様たちは、恥ずかしげに視線を伏せて、もじもじしている。何でもいいからリアクションが欲しいです。


「何か俺に質問とかありませんか?」


「……あ、あの?」


 おっ、きた!


「身長はどれくらい……?」


 身長? 変わったことを聞いてくるね。


「最近は測ってないけど、4月に測った時は178cmでした」


「まあ! 白薔薇さまと同じですわ!」


「さすが白薔薇さま。男性と同じなんて!」


 ……ですわ? うわぁ! 本当にそういう語尾で喋るんだ。


「白薔薇さまって、どなたですか?」


「それはもちろん『カトリーヌの白薔薇』こと高坂花蓮さまのことです」


 高坂……っていうと、あの生徒会長のことか。カトリーヌの白薔薇がなんだかはよく分からないけど、きっと何か象徴的なものに違いない。

 白薔薇さまの話になったら、みんな途端に生き生きとし始めたね。よし! じゃあ、みんなの大好きな白薔薇様の話題で引っ張るか。


「生徒会長さんって、凄くオーラがあるよね。やっぱり、みんなに慕われてるのかな?」


「それはもちろん!」


 口が重かったお嬢様たちが、白薔薇さまのことになると喋ること喋ること。一通りテーブルを回り終わる間に、俺はめっちゃ白薔薇さまについて詳しくなった。


「高校から、それはそれは優秀な成績でお入りになったの」


「好きなお飲み物は、カフェ。でも、お砂糖もミルクもお入れにならないのよ」


「好きなお色は水色。ですから、それが白薔薇さまのイメージカラーになりました」


 と、こんな具合に。まるで芸能人だね。そして、白薔薇様もバトフラをやっていることを知った。


 バトフラをやっているなら、どこかですれ違っていそうなものだけど、全く記憶にはない。ログイン時間が全然違うとか? 目立ちそうなのにな、あの人。



 *



 テーブルタイムの内に、すっかり魂の抜けた麻耶の再起動を試みた。


「麻耶、戻ってこようか?」


「麻耶さん! 起・き・て!」


「はっ! えっ? コンベンションホール? いったいいつの間に?」


 よかった。やっと夢から醒めたみたい。


「絶賛、テーブルタイム中だよ。進行は順調。もうしばらくしたら、フリータイムに移る」


「もうそんな? やだ。ごめんなさい、私ったら」


「よっぽど衝撃だったんだね。麻耶にしては珍しい」


 様子を見ながら、そう話を振ると。


「鐘が……」


 鐘?


「鐘が鳴ったの。一斉に。教会の……祝福の鐘が」


 教会? リーンゴーンってやつ?


「そ、それで?」


「白い鳩が、バサバサって飛び立って。そしたら、薔薇の花に埋め尽くされたあの方が……白馬に乗って」


「薔薇の花に白馬ねえ。確かに彼、背中に羽根とか花を背負しょってそうなタイプではあるけど」


「彼……武田さまは、今どちらに?」


 いやあ。あのクールなお姉さまと評判の麻耶が、頬染めて恥じらっている姿なんて。びっくりだわ。


「テーブルを回ってるよ」


「そっか。そうよね。そのためにいらしたんだし」


「気になるなら、フリータイムに話しかけてみれば? 交流会なわけだから」


「そ、そんな恐れ多いこと、私にはできない」


 麻耶はずっと男嫌いで通していたから、おそらく男性に対する免疫が全くない。


「じゃあ、何もしないの?」


「何も……いえ。物陰からそっと見つめるくらいは許されるかしら?」


「堂々と正面きってみてもきっと平気だよ。連れて行ってあげようか? 彼のところに」


「無理〜そんなの無理です。無理ったら無理!」



 *



「くしゅん!」


「あら? 武田さま、お風邪ですか?」


「いや。大丈夫です。ちょっと鼻がムズムズしただけで」


 別に寒くもないし、変なの。誰か噂でもしてるのかな?



 こうして、これといった波乱もなく、無難に他校交流会を乗り切った俺たちを待ち受けるのは、この世界では大イベントとして扱われているホワイトデーだ。


 ……いよいよ俺も、覚悟を決めないといけないな。

 

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