2-10 A BOY MEETS A GIRL

 《聖カトリーヌ学院 コンベンションホール》


「栄華秀英学園の方たちが駐車場に到着されました」


「了解。さあ花蓮、行きましょう」


 いよいよご対面だ。


 男に生まれたというだけで、この世界をなんの努力もなしに謳歌おうかしている、超羨ましい奴らに。


 ……本当だったら、俺もあっち側だったのに。クソッ!


 段取りとしては、まずは控え室で、俺と麻耶が聖カトリーヌ学院側の代表として招待客に挨拶をする。


 もちろん、交流会担当の教師も同席するが、このイベントは一応生徒会の主催となっているので、交流会の顔として俺が出て行くわけだ。といっても、俺は挨拶するだけで、後の進行は麻耶がやってくれることになっている。


 控え室で待っていると、ドアの向こう側の廊下から、大勢の人が近づいてくる気配がした。


 ……同世代の男たちとの初対面。ちょっと緊張してきた。いかん、平常心平常心。



 ドアが開いた。


 最初は……引率の教師か。


 おおっ! 教師にも男性がいるじゃん。うわぁ、カトリーヌと全然違うんだな。続いて、ぞろぞろと男子高校生の列が続く。欠席の報告は来ていないから、十三人いるはず。普段、女の子ばかり見慣れているせいか、やけにみんな大きく見える。


 じゃあ、サクッと挨拶してしまうか。


 教員同士の挨拶が終わると、次が俺の番だ。一応俺がこの会の主催者代表だから、堂々と一歩前に進み出た。


「栄華秀英学園の皆さん、初めまして。当学院の生徒会長を務めている高坂と申します。」


 ここは笑顔で感じ良く。前世の社会人時代に鍛え上げたから、笑顔はお手のものだ。


「本日は当学園にようこそお越し下さいました。この交流会を通しまして、互いへの理解を深め、楽しく有意義な時間を過ごして頂けるようにと、我々一同、心を込めて準備して参りました。本日はよろしくお願い致します」


 型通りの挨拶をすると、あちらからも代表者とおぼしき男子生徒が、一歩前に進み出てきた。


 えっ? うわっ! マジか?


 その生徒を見て唖然とした。なんだこのキラキライケメン? これが普通の男子高校生? いやいやおかしい! そんなわけない。だって、TVに出ている人気俳優も真っ青の美形じゃないか。


 驚いて他の男子生徒にも目をやると、ことごとく一定水準以上のイケメン男子ばかりが並んでいる。これじゃあ、まるでアイドル戦隊だ。


 ……この学校、札束で男子生徒を集めてるって言ってたか。すげえ。このレベルをキープとか、いったいいくら払ってんだ? (注※学費だけです)


「初めまして。栄華秀英学園、高校二年生の武田です。この度はご招待ありがとうございます。俺たちの学校は共学なので、日頃から女性とは接していますが、それでもやはり、いつもとは雰囲気が違うので緊張しています。その反面、楽しいひと時を送れたらいいなとも期待しているので、本日はよろしくお願い致します」


 くっ! 笑顔が眩しい。それに声までイケメンボイスかよ。俺が本物の女だったら、クラっときそうな甘いマスク。やべえ。これ見て、うちの生徒大丈夫か?


「では、事前に資料をお渡ししているとは思いますが、副会長の山県やまがたから、これからのタイムスケジュールのご案内をさせて頂きます」


 ちょっと心配になったけど、俺の役目はこれでほぼ終了。あとは麻耶にお任せだ。


 …………。


 あれ? もしもし?


「麻耶?」


 麻耶の声がしないので、不思議に思って麻耶のいる方を振り返る。


 ……どうしたんだ? 麻耶らしくもなく、放心したように一箇所を見つめて……えっ?


「麻耶、大丈夫?」


 心配になって再び声をかけても反応がない……と思ったら。


「……本当にいた。私の王子さま」


 へっ!? もしもし麻耶さん、セリフがとっても変だよ。君、筋金入りの男嫌いじゃなかったの?


「高坂さん、皆さんをホールにご案内したら?」


 麻耶の異変に気付いたのだろう。ベテラン教師からレスキューが入った。


「そうですね。皆さんには、これから生徒たちが待つ大ホールへ向かって頂きます。係りの者が誘導致しますので、その後に続いて移動をお願い致します」


 そして、栄華秀英学園の一行がゾロゾロと控え室を出て行った……が。


「麻耶、どうした? すっごいイケメンが出てきて驚いちゃったとか?」


 気まずくないように、そう茶化してみたんだけど。


「……あんな……あんな、白馬に……」


 いや、乗ってないから。


「おーい。帰ってこいよ〜」


 あー。ダメだこりゃ。しばらくは使い物にならなさそう。


「麻耶さん、大丈夫ですか?」


 その様子を見て、もう一人この場にいた生徒会役員の友紀が、心配して声をかけてきた。


「ダメっぽい。友紀は案外平気なんだね」


「それは、予習のおかげだと思います」


「予習?」


 いったいなんの?


「あの武田さんって男子生徒、アバターよりもだいぶ若く見えますけど、バトフラの公式PVに出ている人で間違いないと思います。私、あのPVをエンドレスでリピート再生して、網膜に焼きつくくらい見てきましたから」


 へ、へぇ。イケメン免疫ってやつか。


「なるほど。それで予習か。確かに必要かもね。あんなイケメン、初めて見たよ」


「ですよね。アバターも格好よかったですけど、本物はキラキラ度が違うっていうか。背負しょってる花がメガトン級。それにあの笑顔! PVでは笑っているシーンはなかったので、あれには超トキメキました」


 ……あれね。あの甘ったるい魅了スマイル。髪の毛もサラッサラで清潔感に溢れ、まるで少女漫画からそのまま抜け出てきたみたいな感じだった。いやぁ。この世界の男を侮っていたわ。そこはちょっと反省。


 何もしなくても、男っていうだけでチヤホヤされるわけだから、てっきり向上心のないヘタレ男たちが来るものとばかり思っていた。だけど実際は、対女性スキル完備のハイレベルのイケメン揃い。


 栄華秀英学園は、男子生徒を確保することで、破竹の勢いで進学実績を伸ばしているって聞いたけど、なるほど。女子生徒にそんなやる気を出させるだけのクオリティは備えているというわけね。


「まあ、こうなったら仕方ない。今日の進行は私も手伝うよ。友紀、ザッと段取りをおさらいさせて」


「やったあ。麻耶さん、ちょっといつ復帰するか分からない感じですものね。花蓮さんが手伝って下さると超助かります。じゃあ、よろしくお願いします」

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