2-07 告白タイム

 

 どうやら、告白する順番は既に女子たちの間で決まっていたらしくて、告白はスムーズに進んだ。その中でもぐいぐいきたのは、やはり、日頃一緒に遊ぶことの多い、あの三人で。



 ◆有馬 恭子キョーコの場合


「武田くん。正直言って、最初は気になる程度だったの。だって、武田くん、すごく格好いいから。でも、一緒に遊んだり、学校生活を送ってみて、今は武田くんのことを、丸ごと全部好きなの。もう武田くん以外、考えられないくらい。私は、あまりこれっていう特技はないけど、こう見えて嫉妬深くないし、武田くんに尽くしながら、他の女性とも上手くやっていける自信はあるの。だから、武田くんがいつでも気軽に遊びに来れるような居心地のいい場所を作れると思うわ。武田くん、私の本気を受け取って♡」



 ◆高橋 志津シズの場合


「ずっとあなたを見てました。私、あまり目立たないし、他の人に比べて、アピールできた機会も少ないと思うけど、武田くんを見てたら、この人と一緒なら、ほっこりするような温かい家庭を築けるだろうなって。そう思ったの。楽しいときだけじゃなく、困ったときも、辛いときも、あなたと一緒にいて、癒してあげたい。そう思えたのは、これまで生きてきて武田くんだけ。本当よ。あなたの側に、私の居場所をくれませんか? この気持ち、受け取って下さい!」



 ◆小早川 夕子ユー子の場合


「一目見たときから、武田くん、あなたのことが好きです。でも外見だけじゃなくて、武田くんの全てが好き。武田くんのビジュアルは、もちろんとってもとっても好きだけど、私が作ったものを、いつも美味しそうに食べてくれるところとか、女の子にドギマギしちゃうような純粋なところとか、他にもたくさん、たくさん、いくらでも言えちゃうくらい好きなところがたくさんあって。そんな武田くんと、これからもずっと一緒にいれたらいいなって心から思ってる。そのためには、いくらでも努力します。私の気持ちを受け止めてくれますか?」



 他にもクラスの女子三人から告白を受けて、合わせて六人。その後のフリータイムでも、あまりよく知らない女の子たちから、少なくない数の告白チョコをもらった。


 いや、なんていうか。この世界でこんなことを言うのは不謹慎なんだと思うけど、


「えっと……重……過ぎない?」


 それが、告白を受けて俺が抱いた感想だった。


 勘違いしないで欲しいのは、告白されたこと自体はすごく嬉しい。だって、女の子たちの方から、好きですって言ってくれるんだよ。嬉しいのは本当。


 でもさ、こう、俺の思い描いていたバレンタインの告白イメージって、前世のものだから。


 例えば、女の子がちょっと照れながら、


「こんなこというの、恥ずかしいけど、好き♡ 私と付き合って下さい!」


 ……的な? イチャラブ系っていうか、お互い初心者みたいな。ふわっとしたイメージだったんだ。


 もうすぐ高三ーー受験生になるという事実が大きいのは分かってる。彼女たちにとっては締め切り間際で、ここが勝負どころだというのも分かっている。

 それでも、女の子たちから受けた告白の言葉の数々は、どう聞いても、全員ガチのプロポーズなわけで。持っていたイメージとのギャップが大き過ぎた。


 だから情けないことに、とりあえずチョコを受け取って「ありがとう」を言う以外は、うなずくことしかできなかった。これはいいかげんな返事はできないなと、感じたせいでもある。


 この場合どうすればいいの、返事って? いつ? どんなタイミングで?


 自分一人でいくら考えても答えは出ないので、分からないことは知ってる人たちに教えを請うことにした。


「大丈夫、大丈夫。返事はホワイトデーまで猶予されるから。よく考えて」


 えっ。そうなの? 一カ月も先だけど、その時でいいの?


「そんなに待たせちゃってもいいの?」


「どちらにとっても一生の問題だから、それくらいの時間は必要じゃないかな? 武田だって、すぐには決められないだろ?」


 確かに。


「返事って、具体的にはどうすればいいわけ?」


「……武田。今まではどうしてたの? まさか今までチョコを貰ったことがないとか言わないよね?」


 呆れられちゃった。まあ、仕方ないよね。


「そういうのは、型通りでいいと思うよ」


 黙ってしまった俺に、救いの言葉が。


「型通り?」


「こりゃ、全然分かってないよ。斎藤、説明をよろしく」


 いつものことながら、この世界の事情にチンプンカンプンな俺に、斎藤が分かりやすく説明してくれた。


 返事の仕方は、概ね三通りある。


 ・婚約を前提に交際する

 ・婚約は保留だけど、可能性を残して候補として交際してみる

 ・現時点では可能性なし


 うわぁ。そんなにハッキリとした答えを出すんだ。なんて驚いていたら、当たり前じゃないかとさとされてしまった。


 女性には、出産年齢というハードルがある。


 この学校に入学して、さらに頑張ってA組やB組に常駐するような女子は、将来、男性と家庭を持つことを強く希望している。そしてその機会を得るために、日々必死になって勉学に励んでいる。


 若さは有限。


 女性の社会進出が当たり前になっているこの世界だからこそ、計画妊娠・計画出産が標準で、高校生の時点でしっかりと人生設計を描いているのは、キャリアを望む女性なら当然のことなんだそうだ。


 ただ妊娠・出産に関しては、天の采配というか、必ずしもままならないものだから、努力目標という感じではあるらしい。それでも女性ばかりの職場では、諸々の事情を理解され易い反面、ちゃんと考えてますよという姿勢を見せないと煩いんだって。


 なんか俺、甘かったわ。いろいろと考え方が。


 そんな女子たちの将来を見据えた本気には、俺も真面目に考えて、ちゃんと答えないといけない。改めてそう思った。

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