2-05 もうそんな時期

 

「武田。そろそろ決めた方がいいかもよ」


「決めるって何を?」


「そんなの決まってるじゃん。交際相手だよ」


「へっ?」


 ゲームにログインして、久々に男だけで組んだパーティで、そんなことを言われた。


「おいおい。へっ? じゃないだろう? 俺たちはいいけどさ、女子たちはもう受験生になる。卒業するあたりで婚約か結婚をする気があるなら、もう相手を決める時期だってこと」


「それって決めなきゃダメなもの?」


「絶対ってわけじゃないけど、女子たちが進路を決めるに当たって、婚約の是非は少なからず影響が出る。だから、その気がある相手に対しては、早めに言ってあげたほうが親切になるよ」


 うーん。どうするのがいいのかな? 今までそこまで真剣には考えてなかったかも。


 この世界は、交際相手を決めることが、ほぼほぼ結婚に直結する。もちろん、お試しでちょっと付き合ってみることもできなくはないんだけど、やっぱりやめたってなると、女性側の受ける衝撃がかなり大きいんだって。


 ……というのも、女の子はめっちゃ本気だから。


 通い婚で、結婚しても夫婦がずっと一緒にいるわけじゃない。だとしても、婚活しながら学業や仕事に励むのと、既に相手が決まっていて、その道に迷いなく邁進するのとでは、精神面での安定感がまるで違うらしい。


「同世代じゃちょっとって思うなら、エルダーパートナーにすれば? マッチングすれば、すぐに紹介してもらえるよ」


「んー。同世代が嫌ってわけじゃないし、マッチングとか、そういうのは抵抗があるかも」


 マッチングってつまり、登録したデータで相性診断された相手とってことだよね。そういう出会いは、なんか俺的にはしっくりこない。


「実際にやってみると、案外上手くできてるんだけどね。でもまあ、その気持ちは分からなくもない。じゃあさ、自動マッチングが嫌なら『出会い企画』があるから、それに参加してみない?」


「出会い企画?」


「僕のエルダーパートナー……慶子さんっていうんだけど、その友達が集まって、春休みにスキーしにくるんだよね。そこに男子高校生も呼べないかって言われててさ」


「他に誰か参加するの?」


「今のところ、結城とC組の男子三人。片桐、平野、脇坂に声をかけてる」


 斎藤は育メンするだろうし、上杉は既に婚約者が三人もいるから呼ばないのか。それでも。


「そんなに大勢?」


「まだ全員に返事を貰ったわけじゃないけど、受け入れ場所的には大丈夫。広めのロッジを押さえてあるし、足りなければホテルに部屋を用意するって、慶子さんが言ってた」


「それは凄いね。大勢でスキーか。楽しそうだな」


 もうそこまで手配済みとは驚き。


「費用はこっちで持つから、気軽に参加してくれると嬉しいな」


「えっ! 無料なの?」


 もしかして、慶子さんって大金持ち?


「そう。慶子さんの経営しているスキー場だから、女性側もちゃんとした人にだけ声をかけてるって言ってた。だから安心だよ」


 スキー場経営とか、すげえ。北条のエルダーパートナーって、いわゆる実業家なのか。


「結城は行くの?」


「武田が行くなら行こうかな」


「俺次第?」


「うん。知り合いがいた方が楽しいじゃん?」


「そっか。まだ返事を待ってもらってもいいかな? 家族に相談してみるから。ちょっと考えさせてくれる?」


「もちろん、もちろん。いい返事を期待してるね」



 ◇



「花蓮、急に立ち止まってどうしたの?」


「あそこに、男だけのパーティがいる。珍しくない?」


 カトリーヌの生徒会メンバーとゲームをしている最中に、珍しい集団を見つけた。


「どれ? あーあれか。本当だ。アバターは全員男みたいに見えるね」


「でも本物の男性でしょうか?」


「まさか。きっとフェイクですよ」


「なんで、わざわざ男の振りなんかするのかしら? 気が知れないわ」


 男嫌いの麻耶がムッとしてる。でもあれ、本当にフェイク? 随分と骨格がしっかりしているように見えるけど。


「フェイクかどうか、ちょっと見てくる」


「花蓮、あなた何言ってるの?」


「だって気になるし」


 この世界では、日頃同世代の男と出会う機会って、なかなかない。だからどんなものだか、交流会の前にちょっと見てみたい。


「アバターなんて、中身がどんな人か分からないのよ! 近づくのは危ないわ」


「アバターだからいいんじゃないか。実物じゃないから、身バレしなければ大丈夫だよ。見たらすぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」


「待って。花蓮を一人で行かせるなんてできない。私もついていくわ」


「私たちも行ってもいいですか?」


 おや? 麻耶以外の三人は興味深々か? ちょっとワクワクした顔をしてる。


「よし! じゃあ、全員で行こう!」


 ということで、ゲーム内で男子見学に向かった。



 ……んだが、なぜか前に進めない。


 俺たちが近づこうとすると、目の前にプレイヤーの壁ができる。


「ちょっと通してもらえませんか?」


「えーっと。この辺りに落としたと思うんだけど……ごめんなさいね。ちょっと探しものをしていて」


「どう? 見つかった?」


「ないわー。全然見つからない」


 おい! セリフ棒じゃんかよ。なにわざとらしく邪魔しているんだよ。


 急にワラワラと湧いて出て、探しもの? いったい何人で探しているんですか!


 突如として目の前を遮るように、ウロウロし始めたプレイヤーが十人以上。迂回しようとしても、やはり遮るように移動してくるし、さらに別の集団まで現れて立ち塞がる。だから、その向こう側にいるはずの男性パーティには少しも近づけない。


「これは……本物の男性かもしれない」


 千春がそう呟いた。


「なんでそう思うの?」


「外の世界では、数少ない男性の周りに女性たちが縄張りを張って、他の女性を近づけないように牽制すると聞いたことがあります」


 はぁ? なんだそれ。


「私もそれ、聞いたことがある。でも、ここまでするとは思わなかった」


 マジかよ。縄張り? つまり自分たちの男を囲い込んでるってことか。


「それで男性はいいわけ? それって、いつも見張られているようなものだよね?」


「さあ? 男の心理なんて分からなくていいわよ。これ以上、近づけないみたいだし、諦めましょう」


 そうしている内に、男性パーティは俺たちから離れていく方に移動を始めてしまった。


「残念。だけど仕方ないね。交流会でよく観察すればいいか」


「花蓮、あなたまさか、男なんかに興味があるの?」


「いやそういうわけじゃないよ。日頃見ないから、どんなものかと思っただけ。交流会でいきなり会うのは嫌かなって」


「あー。そういうこと。でも大丈夫よ。当日は安全第一で、ちゃんと警備員もいるから。必要以上に男とは接触しないで済むはずよ。私がそうはさせない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る