第24話 卒業旅行
文化祭が終わったと思ったら、今度は卒業旅行がやってくる。
学年全体が同じ日程で行くので、うちの学年の男子生徒十三人が、四部屋に分かれることになった。俺は結城とC組の片桐と一緒になった。片桐とは、ゲームを通して結構仲良くなったので、同室でも全く問題ない。
そして、日中の行動班も部屋ごとに動くことになった。
《ようこそ! 夢の世界Theファンタジックニャンニーワールドへ。今日のニャンニーステージショーは、なななんと! 人気急上昇中のあのアイドルグループの登場だ!》
「おっ! 今日のニャンニーステージショーのゲスト、『戦乙女
「何、片桐。華可憐のこと好きなの?」
「うん。だって可愛いじゃん」
ふぅん。この女性が溢れた世界でも、アイドルというのは一定の需要があるらしい。
「ちなみに、五人の中で誰が一番好きなわけ?」
「もちろん、センターの桜だよ。断トツ可愛いじゃん」
イベントスペースで行われた「戦乙女
確かにみんな可愛い。
刀の桜・盾の桔梗・弓の撫子・斧の山吹・槍の椿。
「ふーん。確かに可愛いけど、俺はもっと普通でいいな」
「武田のいう普通って何?」
「んっと、笑顔が可愛いとか?」
「アイドルだったら、みんな笑顔完璧だと思うけど」
「うーん。なんて言ったらいいかな? そういう営業っぽいやつじゃなくて、ふとした拍子に自然にこぼれる笑顔。それがふわっとしているのが可愛いと思う」
「なるほど。武田はアイドルよりも隣の美少女タイプが好きなのか」
急に背後から声がかかった。斎藤たちの班だ。
「あれ? どうしたの?」
「北条が、このステージを見たいっていうから来た」
「北条もアイドルが好きなの?」
「アイドルっていうか、桔梗ちゃん? 同じ盾使いとして見てみたいなって思って」
「なるほど。北条はああいう大人しい感じがタイプなわけね」
「そういうわけじゃないよ。ちょっと気になっただけ」
*
アイドルのライブの後は、二班揃ってクリスマス用にディスプレイされたフォトジェニックゾーンに移動した。
いかにも写真映えする、欧米風のクリスマスの飾り付け。それを一区間丸ごと行い、季節感のある街並みを再現したのが人気のゾーンだ。
「やだこれ可愛い。トナカイが橇を引いてる」
所々に配置されたクリスマス関係のフィギュアや、実際に座って写真が撮れるトナカイが引く橇に、オモチャが溢れるサンタハウス。
そんなロマンチックな風景は、女子にはかなり人気があるらしくて、うちのクラスの女子も何人か見かけた。みんなパシャパシャと写真を撮っている。
「武田くん、男子のみんなも、一緒に写真に入ってくれるかな?」
小早川さんにそう尋ねられ、結城と片桐、あと斎藤たちにも聞いてみたら、全員撮影OKだった。その場にいたA組女子やC組女子にも声をかけて、何枚も写真を撮った。
「武田くん、自撮り写真に一緒に入ってくれる?」
「いいよ。俺でよければ」
声をかけてきた有馬さんにそう返事をすると、その場にいた女子が、バッと一斉にこちらを振り返った……気がする。
えっ? なんかマズイの?
女の子と一緒に自撮り写真を撮るのなんて初めてだけど。でも、向こうから言ってくるなら、セクハラ……とかじゃないよね?
「武田くん。これだとフレームに入らないから、腕を組んでもいい?」
むにゅ。
「武田くんは背が高いから、こう、私の肩に手を回してくれる?」
もにゅ。
自撮りって難しい。どうやら身体をぴったりくっつけないとフレームに収まらないらしくて、すごく密着度が高いっていうか、くっついてくるんだけど、その度に、柔らかいものがぷにょんって当たる。
いや、ぷにょんっていうのは控え目過ぎるかも。
もにゅーん。ぽよぽよぽよーん?
……思い出した。有馬さんて、今川くんの別荘に行った時、すっごく色っぽいマイクロビキニを着てた子だ。
そしてとても大きい。まるでメロンみたいな。
なのに布がちっちゃいから、こぼれてポロンしそうで、ハラハラした覚えがある。
「キョーコ、そろそろ替わってもらってもいい?」
「武田くん、私たちとも自撮りしてくれる?」
うわ。有馬さんをきっかけにして、女の子たちに自撮りブームが起きた。そのあとしばらくは、男女交えた自撮り大会のようになっていく。
クラスのみんなとパシャパシャパシャ。
でも、そんなことさえなんか楽しくて。卒業旅行だもんね。思い出の写真はいっぱい撮らなきゃ。
実際に、この卒業旅行での写真が卒業アルバムにも数多く使われるそうで、スマホ以外にもちゃんとしたカメラを持っている子も多かった。
そういった撮影会をやっているっていう情報が、他のクラスメイトにも流れ、続々とA組の生徒がここに集まってくる。
そしてA組男子五人が揃ったことで、女子がハイテンションに。
「全員と自撮りしてもらっちゃった!」
「やっぱ断突カッコいいわ、うちの男子」
「だよね。そこらの芸能人なんて目じゃない」
「それにみんな優しいから、嫌がらずに写真に入ってくれるし」
「試食会で仲良くなったのがよかったのかも」
「あれで名前を覚えてもらえた気はする」
「わかる。またああいうイベントやりたいね」
撮影会の後は、アトラクションを幾つか回って、今は休憩タイム。猫バスみたいな設えのニャンニーカフェで話をしながら、冷えた身体を温めている。
……んだけど、なぜか俺の周りは女の子で固められていた。
結城どこ? 片桐は?
焦って同じ班の男子を探すと、それぞれが同じように女子に囲まれていた。
「ねえ、武田くんって、どんな女性がタイプ?」
直球できたのは、小早川さん。見かけは楚々とした子なんだけど、日頃の言動をみると、割りとグイグイくるタチなのかもしれない。
「私もそれを聞きたい。女性のどんなところに魅力を感じるのかな?」
そういうのは高橋さん。別荘のバーベキューのときに、最初に「あーん」ってやった子だ。見た目は可憐な感じだけど、多分しっかり者。
「武田くんは、胸の大きい女性ってどう思う?」
これまた直球なのは、言わずと知れた爆乳の有馬さん。
左右と正面にいるこの三人と、あと周りに数人いる女の子たちの視線が、今この瞬間、俺にロック・オンしているのを、ひしひしと感じる。
神様……いったいこの場合、どう返事をしたら正解なんですか?
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