第23話 文化祭

 

 今日は採寸日だ。


 なんのって、もちろんコスプレ衣装の。てっきり、どこからか借りてくるのかと思っていたら、文化祭用に作るんだって。


 男性人口が少ないせいで、男性用の貸衣装は数やサイズが少なくて、集めるのが割と面倒な上に、お値段もかなり張るらしい。特に執事の衣装なんてまず揃わない。


 だから、伝手をたどって作ってもらうことになった。


 コスプレ衣装の製作を趣味と実益でやっている人に心当たりがあったそうで、トントン拍子に話は進んだ。それは、クラスメイトの秋月 蘭さんのお姉さんとそのお友達。男子の衣装は全て、その人たちに頼むらしい。


 一方、女子のコスプレ衣装はメイド服。それも大変なんじゃないかと思っていたら、シンプルな無地のワンピースに襟や袖、エプロン、ヘッドドレスなどの飾りをつけてそれらしくするそうで、腕に覚えのある子たちが自作するらしい。みんなリアルスキル凄いね。


 それが衣装製作班の話。


 あとは店内装飾・買い出し・料理担当・会計・担当教員や文化祭実行委員との連絡班などいろいろな役割があり、それぞれ分担。当日の接客は、全員で交代ということになっている。


「武田くん、もうちょっと腕を上げてくれる?」


 はーい。


「これでいい?」


「うん、そのままジッとしててね」


 なんか、女の子に身体の周囲に腕を回されるのってこそばゆい。当たっちゃいけないところが当たりそうで、ちょっとドキッとする。


「これで武田くんは終わり。次は上杉くんね」


 採寸担当の秋月さんが、凄く真面目に頑張っている。お姉さんにかなり採寸の練習をさせられたらしい。


 こうして、クラス一丸となって準備を進めて、衣装も料理も全て準備完了。いよいよ文化祭当日を迎えることになった。



 ◇

 ◇

 ◇



「すっごい似合う」


 文化祭当日の朝。俺は用意されたコスプレ衣装である、執事服とやらを着ている。テールコートをアニメキャラ風に華やかにアレンジしたデザインになっていた。昼だからモーニングコートじゃないの? って思ったけど、コスプレの場合、似合っていれば何でもいいんだって。


 着てみると、ウエストを絞った細身のスーツって感じだ。本当に似合ってるのかな?


 他の4人も、とりあえず全員着てる。それぞれに合わせて、少しずつデザインを変えているところが凄い。


 そして全員で記念撮影。カシャッ!


 これ以降は、当番制で全員が集まるのが難しいそうなので、ここで撮影会になった。


「みんなで力を合わせて、ここまで準備することができました。あとは、くれぐれも怪我のないようにと、食品を扱っているので、衛生面については、うっかりがないようにして下さい。じゃあ、それぞれ担当の場所に別れて下さい。交代の際は、時間に余裕をもって早めにお願いします」


 ということで、「2-Aコスプレカフェ」が開店した。


 おそらく混むのは昼前から……という予想は大きく外れ、店内は開店してすぐにどんどん人が入ってきた。


 文化祭は、今日と明日の二日間に渡って行われる。俺たち執事5人は、午前2人・午後2人・その両方にまたがる様に1人配置で、俺は1日目の午前と2日目の午後の担当になった。


 早速仕事だ。ペアになったのは結城。どうも俺と北条は、自分で言うのもなんだけど、いつもぽやんとしているせいか、それぞれしっかり者と組まされたみたいだ。


「いらっしゃいませ。ご注文をお伺い致します」


「うっわ。さすがA組、メチャかっこ良い」


「ちょっと、注文しなきゃ」


「そうだった。えっと、デコレーションプリンと、ミルクティー。ホットで」


「私はチョコバナナクレープとアイスティー。ストレートでお願いします」


 プリンとホットミルクティー、チョコバナナクレープとアイスティストレート。メモメモ。


「出来次第お持ちしますので、しばらくお待ちください」


 ここで笑顔サービス。アルバイトで鍛えた接客技だけど、どうかな?


「「きゃー♡」」


 よしっ! 喜んでくれたみたいだ。


 概ねこんな感じで、大盛況の内に午前の部は終わり、俺と結城は自由行動になった。



 *



「武田、どこ行く?」


 他の三人はカフェで仕事中なので、結城と一緒に他のクラスの催し物を回ることになっている。


 様々に工夫を凝らした催し物の中で選んだのは、縁日系の出し物。


「意外。武田って、見かけによらず、童心を持つ男だね」


 童心。つまり、お子ちゃまってこと?


「あんまり縁日とか行ったことがないから、凄く興味がある。結城はどこ行きたい?」


「俺? 特にこれってないから、ずっと縁日巡りでもいいよ」


 やっぱり、こいついい奴。ってことで、最初はこれ。風船ダーツ。5×5に仕切られたマス目の中に、やや小さめに膨らませた風船が埋め込まれている。風船を割って、ビンゴになれば商品GET。


 〈パーン!〉〈パーン!〉


 おーっ。次々と見事に風船が割れていく。結城上手いじゃん。


「ビンゴ! おめでとうございます。こちらから商品を選んで下さい」


 商品は駄菓子詰め合わせ。ちなみに、ビンゴにならなかった場合は、駄菓子をひとつもらえる。うん。さっき、1個もらった。


「次は何をする?」


「射的?」


「OK!」


 その後も、輪投げ、ヨーヨー釣り、モグラ叩きとかやったけど、どれも結城は相当に上手かった。


「まるで縁日の申し子だね。なんでそんなに上手いの?」


 いったいどこで身につけた技か気になったので聞いてみたところ。


「まあね。うち、神社だから。ちっちゃい頃から、こういうのやってたし」


「神社!? じゃあ、将来は神主に?」


「ならないよ。跡は姉さんが継ぐから、俺はフリー」


「へー。結城の家ってことは、その神社ってわりと近くだよね? 縁日があるなら行ってみたいな」


「大きな祭りは終わっちゃったから、来るなら初詣かな。かなり混むけど、その分、いろいろ屋台が出るから面白いよ」


「マジ? 行くそれ」


「是非お越し下さい! 武田のこと見たら、絶対に姉さんたちが騒ぐけど、それは気にしなくていいから」


「姉さんたち? お姉さん、何人いるの?」


「四人。そりゃもう煩いよ」


「姉妹が多いんだね。うちは妹が一人だから、全然想像がつかない」


 ちっちゃくて可愛い、でも案外しっかりものの妹が。


「妹いるんだ? 学校どこ?」


「ここの中3」


「武田に似てる? 似てたら凄い美人じゃね?」


「いや、あまり似てないかな? 妹は美人っていうより可愛い系だし」


「そっかあ、残念」


「結城って面食いなの?」


「かなり。武田は顔より食べ物に釣られそうだよね」


 それは否定できない。


「うん。料理上手な子は、俺的にかなり魅力的に感じるかな?」


「それだったら、名乗りをあげる子がいっぱいいるよ、きっと」


「そうかな? 食いしん坊の男って微妙じゃね?」


「いやいや。女の子から見たら、それってチャームポイントになりうるよ」


「そっか。それならこのままでもいいか」


「いいんだ? その答え、いかにも武田らしいけどな」



 *



 その後は「男女逆転ファッションショー」を見たり「ストラックアウト」っていうボール当てゲームをしたり「学校パロディ劇場」や「モノマネショー」なんかを次々と見て回った。


「案外楽しいもんだね」


「気合いが入ってる出し物が、予想以上に多かった」


「武田、話は変わるけどさ、バトフラの広報PV見た?」


「うん、見たよ。トレントのやつでしょ?」


「あれ見たうちの姉さんたちが、うるさいのなんの。武田、大人気だっだぜ」


「結城のお姉さんたち?」


「そう。この子カッコいい! って、連呼してた。ゲーム始めちゃいそうな勢い」


「ふーん」


「ふーんって、相変わらずだね、武田は」


「だってあれ、俺であって俺じゃないっていうか」


「まあ、確かにアバターだしね。でも、あれだけPVに映ってると、もしかして世間的にも注目度は上がるかもよ」


 えっ? 世間的に? でもあれってそんなにユーザー数が多いゲームじゃないよね?


「あはっ。分かってない顔をしてる。そういうところも武田らしいや」

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