第18話 夏休みのバイトとバトフラ


「ふー暑い暑い。ちょっと冷たいものでも飲まない?」


「そうだね。でも、きっとカフェは芋洗い状態だよ。せっかくお店に入るなら座って飲みたくない?」


「それなら、裏通りに穴場の喫茶店があるよ。いつ行っても座れるし、パフェとかパンケーキとか甘味メニューもあったはず」


「本当? じゃあ、そこにしようか」


 *


「いらっしゃいませ」


 女性のお客様二人か。座席は……あそこがいいかな。


「座席にご案内致します。こちらへどうぞ」


「ほわっ? あっいや、違った。今日は混んでるんですね。すぐに座れてよかったです」


「いつもご利用ありがとうございます。このところ特に暑いせいか、昼間はだいたいこのくらいの混み方ですね」


 バイトを始めて一週間。


 このところ、思っていた以上に店が混んでいる。この辺りで、ちゃんとしたカキ氷を食べられる店が他にないせいか、やはりその注文が多い。俺の一推しは、プリンアラモードだけど。


 春先は駅前のカフェに客を取られて、だいぶ集客力が落ちていたらしい。でも、この暑さでカフェがかなり混雑しているみたいで、こちらにもかなりお客さんが回ってくるようになった。


 忙しいけど、せっかく働いているんだから、ガラガラよりはいいよね。


「ご注文はお決まりですか?」


「はい。イチゴ練乳カキ氷をひとつと……」


「私はプリンアラモードをお願いします」


 プリンアラモード……プリン好きなの? 俺と同じだ。それは嬉しいな。


 ここのプリンは店主の手作り。濃い卵とバニラの風味が効いた、わりと固めのプリンに、ほろ苦いカラメルが染みていて、今では俺のお気に入りになっている。


「はい。イチゴ練乳カキ氷とプリンアラモードですね。承りました」


 セットするのは長いスプーンと、短いスプーンにフォークか。



「ヤバい。何あれ〜」


「めちゃカッコよかったね。いつからここでバイトしてるんだろう?」


「高校生かな? 背が高いけど、大学生って感じじゃなかったよね?」


「夏休みだし、臨時アルバイトかも。何この大当たり。いや、気づかなかったわ。最近、駅前のカフェにばっかり行ってたし」


「今度からここにする。冷房もキッチリ入っていて涼しいし、座れるし、何より眼福♡」


「ここ甘味も結構美味しいよ。最近は水着対策でダイエットしてたから、来ていなかったけど」


「それは楽しみ。ウェイターさん、プリンアラモードって言った時に、嬉しそうに笑顔炸裂してたし、間違いなく美味しい気がするわ」


「あれは効いた。私も次はプリンアラモードにする」



 ◇

 


 バイトが終わり、家に帰ってきた。玄関から風呂場に直行して、シャワーを浴びて汗を流す。さて、身体も冷えたことだし、ログインするか。


 今日はパーティを組んで、いよいよ浮島の外にある次の町に移動することになっている。でも、約束の時刻まではまだ三時間くらいあった。近場で狩りでもするか。


 ログイン。


 ログイン場所には、冒険茶屋の中のホールを登録してあったが、中途半端な時刻のせいか、周囲には数人しかプレイヤーがいなかった。そして、その数少ないプレイヤーたちが、慌てたようにこちらに近づいてくる。


 知り合いかな?


「あの、もしかして武田くん?」


「あれ? 小早川さん? ……と立花さんに鍋島さんかな?」


 確かそうだよね。ログイン初日に、クラスの女子たちとはフレンド登録をしている。でもあの時は忙しなかったから、個人の区別があまりついていなかった。


 えーっと。水色のポニーテールが、小早川夕子ゆうこさんで、黄色い髪をクルクル巻いているのが、立花陽菜乃ひなのさんか。そして、マリンブルーの小柄なボブカットが鍋島美佳みかさん。


 よし、わかったぞ。女の子は、髪型が変わっちゃうと識別がちょっと難しくなるから要注意。


「当たり。先週、チラッとすれ違ったよね。今日は、他の男子はいないの?」


「今日は、パーティで動くのは夜から。今は一人だよ」


「よっしゃ!」


 ん? なんの気合い?


「武田くん、これから何か予定はあるの?」


「いや、特にないよ。暇だから一人で近場に狩りに行こうかなって思ってたところ」


「本当に? じゃあ、よければ私たちと臨時パーティを組まない? 私たちも、今三人しかいないの。同じく狩りに行くつもりだったし、武田くんって侍でしょ? 前衛できる人がいたら凄く助かる」


 なるほど。メンバーが足りなくて困っていたのか。そういうことなら、入れてもらおうかな。


「二時間くらいしかできないけど、それでもいいかな?」


「私たちもそのくらいの予定だから、ちょうどいいかも」


 ということで、クラスの女子三人と臨時パーティを組んで狩りに出た。


 パーティなら何もスライム草原に行く必要はないので、西門から出てハイパーラビットとクレバーフォックスを狩りに行く。


「そっちに行ったよ! 武田くんお願い!」


 小早川さんの火華法を回避したハイパーラビットが、こちらに突っ込んでくる。


 この大型の白いウサギは、額に生えた一本角を武器にした突進攻撃を得意としている。身体を丸めて角を突き出してくるウサギをかわし、刀で両断。


 返す刀でもう一回。それが致命傷になり、体力を削りきったウサギは宙に溶けるように消失した。


 残りのウサギも倒し、一旦休憩。


「ウサギも群れになると結構大変だね」


「でも、ドロップはその分多いよ」


 白兎の毛皮に、兎の一本角、お金も結構多めにドロップした。


 女子三人は、小早川さんと立花さんが華師で、それぞれ火と水を得意としていて、鍋島さんは僧侶だった。


 前衛をしているメンバーが、あと二人いるらしいんだけど、今日は予定が合わなかったんだって。女子は前衛職よりも後衛職希望者のが多いらしくて、そういう状況も度々あるらしい。


「今日は、一緒に遊べて楽しかった」


「じゃあ、またメンバーが足りない時は声をかけてよ。このくらいの時間帯は、割と一人でいることが多いから」


「うん。今日はありがとう。また是非お願いね」


「またね、武田くん」


 女の子たちと別れてログアウト。こういう知り合いと臨時パーティっていうのも楽しいね。



 *



「そこの裏切者三人。仲間を置き去りってひどくない? それに、随分とお楽しみだったようね」


 武田と別れた女子三人組に、どんよりとした声がかかった。そう、都合が合わなかったはずの、残り二人のパーティメンバーである。


「ごっめーん。悪い悪い。マジ謝る。だから許して」


「待ち合わせをぶっちぎったと思ったら、王子とデートかい。この貸しは、とてつもなく大きいよ。どう返してくれるつもりなのかしら?」


「分かってる、分かってる。王子とまた臨時パーティを組もうって、しっかり約束を取り付けたから、今度こそ一緒に行こうよ。王子と並んで前衛するんだよ、どう? いいでしょう。上手くいけば他の男子も誘えるかもだし」


「王子と並んで……ちっ。そういうことなら仕方ないか。絶対だからね。今度は絶対一緒に行くんだから」


「キョーちゃん、シズちゃん本当にごめん。他にも王子に声をかけようとしていたグループが接近してたから、焦っちゃったんだ」


「ユー子が言うと、信憑性がめっちゃ下がるんだけど」


「いや、これはマジ。出遅れたら、きっと掻っ攫われてたよ」


「ひながそういうなら、そうなんだろうな。分かった。特別に許す」


「じゃあそういうことで。あっ、そうそう。夜にまたログインするって王子が言ってた。男子パーティと一緒に浮島を出るんだって」


「夜? 何時だか聞いた?」


「もち。集合は7時だって」


「うちらどうする?」


「露骨について行くと、結城くんと斎藤くんは嫌がると思う」


「だよね。じゃあ、先に待ち伏せとかどう? ゆっくり狩りしながらこの辺りを移動してました、とか」


「あり。それが無難かも」


「じゃあ、みんなもそれでいい? 集合は6時半でどう?」


「決まり。ログアウトして急いで休憩を取ろう。水分補給とトイレは必ず済ませておくこと」


「了解。じゃ、また後でね」

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