第20話 別荘と花火


 夏休みの間、バトフラでクラスの女子と臨時パーティを組んで遊ぶことが多くなって、自然と彼女たちとも仲良くなった。


 せっかく仲良くなったわけだから、一緒にどこかへ行こうか? そんな話をしていたら、なんと、今川くんが海の側にある別荘に招待してくれた。もちろん奥様公認です。


 うわぁ……やっぱり上流階級は違う。


「すごーい。まるでリゾートホテルみたい。これで個人の別荘?」


「ロケーションが最高だね。泳ぎ放題じゃん」


「砂浜だけじゃなくて、プールもあるんだ」


 南欧風の白い漆喰壁に、オレンジ色の瓦屋根。どこから見ても、豪邸です豪邸。パーティスペースが取れるくらい広々としたウッドデッキに、大きなプライベートプール。白砂も眩しい閑静なプライベートビーチ。


 ……そこは別世界だった。いろんな意味で。


「似合うかな?」


 うん。


「武田くん、こういう水着、どう思う?」


 凄くいいと思う。


 カラフルな水着に着替えた女子たちが、恥ずかし気にそう聞いてくる。それも次から次に。


 なんで俺に見せに来るの?


 それって、積極的に見ていいってことなのかな? そう思っていいよね? 本能には勝てない。では遠慮なく。


「みんな超可愛いね。よく似合ってる」


 そしてつい、らしくもなく甘い本音がポロリ。だって、みんなマジ可愛い。水着最高! いつまでも眺めていたいくらい。


「えー本当? お世辞じゃなくて?」


 本当。


「よかった。ちょっと派手かなって思ってたから」


 その派手さがいい。


 お世辞じゃない。本当に似合ってる。それに、どことは言わないが、皆さん、なかなかに立派で大きい。いいものをお持ちだ。


 ……着痩せするんだね。みんな、めちゃめちゃスタイルいいじゃん。


 この世界の女性の本気を見た気がする。


 女の子たちの水着は、デザインもかなり大胆だった。これが今の流行りなのかな? 谷間を強調するものが多くて、全体的に布地が少ない。


 今にもこぼれそう。綺麗なくびれ。スラリと長い脚。後姿でさえかなり際どい。そんな素晴らしい景観が、惜しげもなく目の前に晒されている。


 見て! 見て! って感じに。


 中にはそんなに大胆でいいの? っていうくらいマイクロなビキニの子もいて……そうです。有馬さん、君です。有馬さんのは、ただでさえ溢れそうなくらい大きいのに、その布地面積じゃ危ないったりゃありゃしない。


 当然、俺が男だって分かってやってるんだよね?


「どう? 武田くん、ちょっと大胆過ぎるかな?」


 と言って、ちょいエロポーズをきめる。うわぁ。


 そういうのに免疫のない俺は、つい視線が釘付けになっちゃったりして、ずっとハラハラドキドキしどおしだった。本当、いろいろな意味でヤバい。この状況、マジでたまらないです。


 そして海遊び。


 みんなでやったのは、ボディボード。これ、初心者でもかなり遊べるんだね。波に乗ってザッブーン! そして、砂だらけ。


 砂まみれのビキニ女子の姿が、これまた妙に色っぽい。眼福過ぎて幸せ。


「波くるぞ。行こう!」


「きゃー。水着がずれちゃう」


 なにを言って。


「やだ。砂が入ってる。出てこい!」


 どこから?


 くっ! つい耳が悲鳴を拾ってしまう。


 *


 そして陽が暮れたら、みんなで夕涼み。


 タンクトップ、短パンの軽装姿で、仲良く囲むバーベキュー。こういう雰囲気好き。


「みんなお肉焼けたよ。取りにきて!」


 はーい。


「武田くん、このお肉食べる?」


 食べる。


「椎茸もよく焼けてるよ」


 いただきます。


「とうもろこしも食べ頃だから」


 なんだろう?


 なぜか、女子たちが俺の口の前に、次々と箸を差し出してくる。


 これくれるの? パク。


 こっちも? モグモグ。


 これって、いわゆる「あーん」っていうシチュの気がするけど、みんな気軽にポイポイくれるから「あーん」というよりは「餌付け」? みたいな。


「もっと食べる? はい、あーん」


 あっ! これは間違いなく「あーん」だ。反射的に食いついた後で気付いた。


 そして「あーん」してくれた女の子と目が合った。


 えっと……高橋さん? シズって呼ばれてる子だ。いつもサイドの髪を編み込みにしてる。


 合わさった視線を、どうしたらいいか分からなくなった。だから笑って誤魔化してしまう。そしたら高橋さんも、とっても可愛いく笑った。なんかいいな、こういうのって。気分がフワッとするような?


 そこへ小早川さんと有馬さんもやってきて、それ以降は「あーん」合戦になってしまった。


「武田くん、こっちも食べて。はい『あーん』」


「こっちも『あーん』」


 なぜこんなことに?


 こうして楽しい海遊びは終了。今川くん、本当にありがとう。



 ◇


 この夏はバイトにも励んだ。バイトをしていることを、クラスの女子たちにポロッと話したら、チラホラ食べに来てくれたんだよね。


「武田くんのウェイター姿を見たくて、来ちゃった」


「いい雰囲気の喫茶店だね。お勧めのメニューは何かな?」


「このプリンアラモード美味しいね。また来てもいいかな?」


 一度に二、三人ずつ。入れ替わりで来てくれたように思う。わざわざ電車に乗って来たのに、長居するでもなく静かに利用してくれたのは、俺に気を使ってくれたからだと思う。


 お店の回転が速くて、雇い主である店主のおじさんは喜んでくれたし、俺たちの仲を温かい目で見てくれていた。


 私にも、そんな時代がありました。だって。


 店主さんは、この世界の男性には珍しく、なんと奥さん一筋。今でもすごく仲がいいみたいだ。


 ……そうか。12人分の枠があるからって、それを全部埋めなきゃいけないってわけじゃないもんな。うんうん。


 休憩時間に店主さんの惚気話を聞くのは、ある意味新鮮で楽しかった。奥さんの怪我の回復も順調で、予定通りに復帰はできるって。


 でもしばらくは様子をみたいから、できれば週一でいいからバイトを続けてもらえないかと言われて、夏休み後も二カ月くらい、毎週土曜日に働くことになった。


 ◇


 そして、夏休みの締めと言ったらこれ! 花火大会。


 河川敷で行われた花火大会に、クラスのみんなで連れ立って行った。夜空に大きく打ち上がる花火。ちょっとメイクしてるよね? いつもより女の子たちが大人っぽい、華やかな浴衣姿の女子たち。みんな可愛いなぁ。


「うわぁ。きれい」


「今打ち上がったの大きいね」


「連発だ! すごーい。これ何百発? 滝みたい。豪華」


 夜空に浮かぶ大輪の花。その光に照り映えて、みんなの顔が楽しそうに輝く。


 教室の中よりも近い。油断すると肩先が触れそうな距離感で、同じものを見て同じように喜ぶ。なんかこういうのって、いいな。これぞ青春?


 意中の女の子がいたら、もっとドキドキするのかな?


 いっぱい遊んだ。何人ものクラスメイトと仲良くなった。もし絵日記の宿題があったら、それこそいろんな絵を描けるだろう。


 《描きますか?》


 ……いや、いい。嬉しいのもちょっとしたときめきも、記憶にしっかり刻んだからね。


 こうして、楽しかった夏休みはあっという間に終わった。そう、残念なことにもう終わっちゃったんだ。


 そして明日から、二学期が始まる。

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