第15話 合戦カレー
終わった! やっと終わった!
一週間続いたクラス分けテストがようやく終わった。たぶん社会は補習になるだろうけど、終わりは終わりだ。
そしていよいよこの週末、明日の土曜日から、事前登録していたVRゲーム「
……と言っても、まだゲームを始められるわけじゃない。この先行アプリで可能なのは、ゲームで使用するアバターの作製とチュートリアルを受けるところまで。
今日の午後、男子五人でアバター作製の際に必要なパーソナルデータを測りに行く。場所は、夏葉薔薇駅の電気街にある直営店で、店にはもちろん予約を入れてある。
パーソナルデータ計測は、実は最寄りの販売代理店でもできるけど、そういった店は必ずしも男性優遇措置店に指定されているわけじゃないんだって。だから、男性は直営店を利用することを推奨しますって、事前登録者への案内メールに書かれていた。
そのメールと同時に来たのが「モニター当選のお知らせ」。
「モニター」っていうのは、VRゲーム機器無料配布、先行アプリ・正式アプリダウンロード無料、月額利用料無料、パーソナルデータ計測手数料も無料という、特典だらけの制度だ。こういった特典を提供される代わりに、ゲーム配信から半年間、毎月一定回数以上ログインすることが条件になっている。
「半年間も続けるのって大変じゃない?」
そこが心配になって、念のため結城に聞いてみたところ。
「全然大変じゃないよ。回数は決まってるけど、ログイン時間は自由だから。嫌になったらすぐログアウトしちゃえばいい。俺たち所詮、客寄せパンダに過ぎないんで、それでもOK」
……という返事だった。でも客寄せパンダって。
どうやら「このゲームを、今現在◯人の男性プレイヤーが遊んでいます」という実績を作るのが目的らしい。実際にいい広告になるそうだ。
ちょっとズルい気もするけど、VR機器ってかなり高いから、正直助かった。購入するなら、バイトしなきゃダメかな? って思っていたから。
*
夏葉薔薇駅に到着。まだ予約時刻まで時間があるので、お店に行く前に昼飯を食べて行こうという話になった。
「せっかくだから、テーマレストランに行ってみる? 今チェックしたら空席があるから、待たずに入れるよ」
「テーマレストランってなんの?」
「『戦国鬼武者烈風伝BR』の。『
「へえ。そんなのがあるんだ」
「うん。メインは隣にあるゲームのイメージショップなんだけどね」
「面白そうだから、すぐに入れるなら行ってみようか」
レストランは、入口からしてお城っぽくて、石垣と白い漆喰をイメージしたデザイになっていた。
中に入ると床が和室の板の間風になっていて、いきなりお城の中にワープした感じ。座席に向かう途中の通路には、有名武将の家紋が入った
曲がり角には、少し開けた空間があり、何体もの等身大の人形がディスプレイされていた。格好いい男女の人形が、派手な意匠の甲冑や刀、槍などで武装してポーズを決めている。
「この衣装ってゲームの?」
「そう。人形自体も人気キャラに似せてある。ここはフォトスポットだから、自由に撮影できるよ」
なるほどね。テーマレストランならではのサービスってところか。
座席はさすがにお座敷じゃなくてテーブル席だった。でも、椅子は畳を張ったベンチでボックス席になっている。半個室風っていうのかな? 通りすがりに見た各個室の壁には、有名な合戦の絵や、戦場MAP、いかにも 城の中にありそうな襖絵などが描かれていた。
座席に案内されて、メニューはどんなのがあるのかな? って早速見てみたら、これは割と普通。
焼鳥定食、お刺身定食などの手頃な定食から、ローストビーフの兜盛り丼とか、家紋プリントのパンケーキなんて、ちょっと戦国テイストを取り入れたものもあった。
「オススメってある?」
そう北条が結城に質問すると、
「んーっと、肉が好きなら兜盛り丼。スパイシーなのがよければ合戦カレー。さっぱりしたのがよければ、侘び寂びワサビの和風パスタ。あと定食はどれも普通に食べられる」
さすがに詳しい。
俺はどうしようかな。最近カレーを食べてないから、合戦カレーにするか。
「武田決まった?」
「合戦カレーでよろしく」
「了解」
みんなの注文を結城がタブレットでオーダーしてくれた。
合戦カレーは、皿の真ん中にライスがドーンと土手状に盛ってあって、その両脇にオニオンチキンカレーとビーフドライカレーという、味の違うの二種類のカレーが注がれているってやつだ。ちょっと値段は割高だったけど、二種類のカレーに惹かれてこれにした。
よく炒めた玉葱の味がする甘めのチキンカレーと、肉の繊維が柔らかくほぐれた濃厚なビーフドライカレーの組み合わせは、美味かったです。
*
食事のあとは、直営店でパーソナルデータ計測だ。
予約していたこともあって、店に行ったらすぐに順番がきた。簡単な説明を受けた後、上着と靴を脱ぎ、ベルトを外して、ちょっと身軽になってから専用ポッドに横になる。
「スキャンにかかる時間は10-15分です。途中で気分や体調が悪くなった場合は、このコールボタンを押して下さい」
緊張しないようにと、ポッド内にはヒーリング系の音楽が流れている。希望すれば流行の歌や好きなジャンルの音楽に変えてくれるということだけど、今この世界で流行っている歌がよく分からなかったので、そのままの設定にしておいた。
《測定が終わりました。ポッドの蓋が開き合図があるまでは、そのまま横になっていて下さい。》
目の前を遮っていた蓋が徐々に開いていく。蓋が完全に収納されて、ポッドの動きが止まったとき、ポロロロロン! って音が鳴った。
「お疲れ様でした。これで測定は終了になります。データのお渡しまで、もう15分ほどかかりますので、隣の控室でお待ち下さい」
控室に行くと、結城と斎藤の姿があった。
「お疲れ。ちょうどいいところに来たね。アバター作製方法のVTRが始まるから、一緒に見ようよ」
どうやら、二人の正面にあるモニターに映るらしい。それは見ておきたい。急いで空いている席に座った。
手順としてはこうなる。
・先行アプリをダウンロードして、アプリを起動する。
・新規アバター作製を選ぶ。
・パーソナルデータの読み込み。
・パーソナルデータの表示。
うん。ここまではいい。
変更できるのは、顔の造作と髪型、髪・目・肌の色……そして性別。
へー。性別を変えられるのか。でも身長や手足の長さは変えられないって。それ以外の体型については、ある程度までは変更できるが、極端には変えられない。
見ている途中で、北条と上杉もやってきたので、引き続き五人でVTRを見ることにした。視聴者がいる限りエンドレス再生されるみたいだから、途中からでも問題はない。
「みんなは、どんな感じのアバターにするつもり?」
「俺は、髪と目の色は、思いっきりファンタジー色にするかな。青とか赤とか」
「顔はどうする?」
「下手にマニュアルでいじると人工的で変な顔になるから、もし弄るなら、イメージだけ決めて後はおまかせモードにするのがいいと思うよ」
「おまかせモードって?」
「おまかせモードを使うと年齢+5とか、メリハリのある顔とか、眼力を強くとかそういった条件を設定したり、希望の人種を指定したりできて、後はプログラムが自動でやってくれる」
ふーん。身バレはいやだから、どこかは変えようと思うけど、どうしようかな?
「まあでも俺は、顔はほぼ弄らないかな。年齢設定でかなり印象が変わるし、後は色を変えて済ませるつもり」
「そうなんだ? 年齢を変える場合、何歳くらいにするのがいいのかな?」
「上なら10歳前後? 下への変更は、俺たちの年齢だと無理だと思う。実際にやってみて、しっくりきたやつにすればいいんじゃないかな」
「そっか。分かった。いろいろ試してみるよ」
そうして、パーソナルデータ計測を無事終えて、その後は流れ解散になった。
あとは実際のアバター作製だ。
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