第10話 俺のタイプ?

 

 今朝の目覚めは酷かった。


『スーパーバズーカ爆音超覚醒』……このキャッチコピーは嘘じゃなかった。


 でも、いきなり夢の中に爆音が轟いて、慌てて飛び起きちゃったよ。そして起きたあとも、心臓がバクバクしてた。


 結衣がびっくりして部屋を覗きに来て、言われるままに目覚まし時計を見せた。そしたら、音量調整ツマミっていうのを見つけてくれた。……そんなのあったのか。


 はぁ。説明書はちゃんと読もう。反省。



「おはよう」


 教室に入って、目が合ったクラスメイトに挨拶。2カ月も出遅れてるから、早くクラスに馴染まないとね。


「お、おはよう。髪切ったのね。すごく似合ってる」


「ありがとう」


 女の子に褒められちゃった。似合ってるって。


 ……よかった。やっぱり女子に褒められるのって素直に嬉しい。照れ臭いけど、つい反射的に笑顔が出てしまう。


「はぅ。朝からご褒美……」


 背後で何か聞こえた気がしたが、とりあえず鞄を置きたいから、真っ直ぐに自分の席に向かった。


 今朝も下駄箱に手紙が沢山入っていた。もしかして毎日こうなのかな? そんなことないよね。きっと時期外れの転入生が珍しいだけだ。


 昨日は眠くて寝ちゃったから、結局、手紙に目を通すことはできなかった。もしこれからもこの勢いで手紙がくるのなら、返事はとても無理だ。手紙をくれた人たちゴメン。


「おはよう、武田」


「おはよう、斎藤。斎藤は朝早いんだね」


「まあね。でも上杉のがもっと早いぞ。あいつ部活の朝練に出てるから」


 朝練? ってことは運動部なのかな。


「部活? 上杉は何やってるの?」


「剣道。いかにもだろ?」


 剣道……なるほど。上杉は、ストイックな日本男児っていう風貌をしているから、それはいかにもだ。


「うん、それはめっちゃ似合うと思う。部活かぁ。斎藤は何か部活には入ってるの?」


 部活。全然考えてなかった。……っていうか、まず知識がない。この学校の部活は、どんな感じなんだろう?


「俺? 文芸部に籍を置いているだけの帰宅部」


「部活って、必ず入らないといけないわけ?」


「いや。そういう決まりはないけど、男子は基本的に推薦入試で大学にいくから、内申書の彩りとして、一応部活には入るって感じかな。面倒なら出なきゃいいだけだし」


 内申書! そんなの全然考えてなかったよ。言われてみれば、優遇があるといっても推薦入試には違いないわけだから、そういうのも気にした方がいいのか。


「そうなんだ。でも部活って、きっと女子ばかりだよね、それだと選びにくいな」


「まあね。武田は、前の学校ではどうしてたんだ?」


 以前の俺が入ってたのは……


「俺? 前の学校は、B級グルメ同好会……ってやつ」


「それ面白そうだな。でも、この学校にそういうのはなかったはず。ここではどうするつもり?」


「特に決めてない。どこかお勧めってある?」


「あんまりないかな。北条はデッサンが趣味だから美術部。結城は帰宅部だし。隣のB組の男子は、全員サッカー部」


「サッカー? もちろん男子サッカーだよね。それって、メンバーって集まるの?」


「ギリギリ? 何、興味あるの?」


 いやいやまさか。なんたって、元B級グルメハンターですよ。


「いや。疑問に思っただけ。運動部って朝練があるよね? 朝起きるのは苦手だし、もし入るなら文化系がいいな」


「まあ部活については、無理しないでいいと思うよ。入るとしても9月からだろうから」


「そうなの?」


「部活の入退部は学期ごとなんだよ。そういう決まりがある。女子は高2で引退しちゃうことが多いけど、男子は3年になってもできるから、焦る必要はない」


 そんな学校ルールがあるのか。じゃあ、気になる部活が見つかってからでいいか。


「じゃあ急いで決めなくていいってことだね」


「うん。もう少し学校のことが分かってからのがいいと思う。内申書に関しても、必須ってわけじゃないから」


「そうする。教えてくれてありがとう」


「どういたしまして」


 斎藤のアイドルスマイルにつられて、俺もついニッコリ。


 ガタガタ ガタガタ!


 なんか時々ガタガタって音がすることがある。なにかなあれ? 建て付けが悪い……とかじゃないはず。だってこの学校、どこも綺麗でピカピカだし。じゃあ、いつも机にぶつかっちゃうような、そそっかしい人がいるとか?


 *


 しばらくして、北条と結城も登校してきた。


「おはよう、結城。昨日、早速事前登録したよ」


「おう。これで男だけで6人パーティができるな」


「6人?」


「ああ。先月までこのクラスにいた今川も誘ってるんだよ。あいつ結婚して家にいるだろ? 息抜きにゲームならしていいって、嫁さんに言われているらしくてさ」


 息抜き? 結婚って、やっぱりそんなに大変なわけ?


「結婚すると、あまり自由にできないとかあるの?」


「いや。普通は通い婚だから自由。でも今川は、家が特殊で結婚スタイルが違うから」


「ふぅん。同居婚って言ってたよな」


「ああいうのはちょっとね。やっぱり、通い婚だよな。気が向いた時に行けばいいっていうのがお互い楽。武田は婚約や結婚はしないの?」


「結婚かあ。イメージ湧かないな。別に急いでしなくてもいいだろ?」


「まあね。武田が婚約すらしてないっていうのが意外なだけで、結婚を勧めているわけじゃないよ」


 ガタガタ ガタガタ!


「ところで、武田のタイプってどんな感じ? なにかこだわりがあったりするのか?」


 俺のタイプ? 今の俺は……不明。具体的なイメージが湧かないし、全然わからないや。以前の俺なら?……ダメだ。プリンと恋愛してそう。もっと分からない。


「これっていう、こだわりはないかな? あえて言うなら、一緒に食べ歩きができる人とか?」


「ふうん。それって、顔とか性格より、趣味が合う人がいいってこと? 他に萌えポイントってないの?」


「萌えポイント?」


 うーん。俺の萌えポイント? それってなんだろう?


「まあ、この学校にはいろんなタイプの女子がいるし、その内、これってわかるだろ」


 そうかな? そうだといいけど。


「みんな、婚約や結婚相手は学校の子なの?」


「いや。今のところ、学生と婚約してるのは上杉だけ。それも他校。あとはいろいろかな」


 いろいろ? その言い方が気になる。知りたいけど、さすがにこんなところで突っ込んで聞くわけにもいかないか。


「そっか。俺はゆっくり探すことにするよ。まずは学校に慣れないとね」


 ……とは言ってみたけど、家に帰ったら、もうちょっとこの世界の結婚事情について調べた方がよさそうだ。


 まだ高2なのに、結城を除いた他の全員に婚約者がいる、あるいは既婚者って……それも学校以外で知り合った人って、なんか変だよね?

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