第3話 俺のプロフィール
◆プロフィール◆
誕生日 8月30日 16歳
身長 178cm 体重 ?
私立 栄華秀英学園高校 2年生 転入(転入日 本日)
家族構成:
父 武田 降星 38歳 会社員
母 武田 結子 40歳 会社員
妹 武田 結衣 14歳 中学3年生
両親は別居。父親は海外に滞在中。母親は海外に出張中。
母親が戻るまで、この家で妹と二人暮らし。
▶︎
6月6日のページに、さっきまではなかったこんな記載が現れていた。
俺が履歴書って言ったから?
でもさ、なにこのザルなプロフィール。いきなり高校からとか。ざっくりし過ぎ。
そして気になるのは、いかにも不自然なこの記号「▶︎」。三角ツリー的なものによく使われる記号だけど、なんでこんなところに?
ポチれってか? いいぞ[ポチ]。
試しに三角の記号を押すように、紙の上に指を滑らせる。すると。
▼
保有スキル(
【青雲秋月】平常心を保つ
【暖衣飽食】暖かい服を着て、食べ物に困らない満ち足りた生活を送ること
【眉目秀麗】容貌が優れて美しいこと
【天資英邁】生まれつき才知が非常に優れていること
◆現在の作戦
【
◆加護
【プリン神の加護】
うわぁ、本当にツリー展開したよ。
どう見ても紙なのに、タブレットのモニターみたいに、触れただけでスルッと上書きされた。今に始まったことじゃないけど、フリースタイル過ぎる。
それに保有スキルってなにかな?
スキルなんてまるでゲームみたいだ。ここがゲーム世界だとでもいうの? もし仮にそうだとしても、この四字熟語がスキルって。スキルと聞いてまず思い浮かぶのは、魔法を使えたり超人的な力を発揮したりする能力だよな。
説明文を読むと、いいことばかり書いてあるけど、スキルというよりは持って生まれた資質的なもので、ファンタジー感はゼロ。うーん。「
特典……つまり特別な恩恵。そして「加護」。神様に選ばれた人間がもらえそうなもの。しかしそこは一言突っ込みたい。
「プリン神の加護」だって。思わず、ぷるるんとした神々しくも巨大なプリンが目に浮かぶ。へぇ、初耳。そんな神様がいるんだ。ーー美味しそうーーじゃなくて。
この状況が、ラノベでよくある異世界に転生して別人になっちゃうみたいなものだとして、そうしてくれた神様がプリンの神様ってどういうこと?
プリンの神様が、何か尊い神命を科すために地球人を召喚ーーにしては、あまりにも平和過ぎるプロフィールだ。
それに、日記帳にこう書かれているだけで、俺自身に本当にこの能力が備わっているとも限らない。今のところ【眉目秀麗】はクリアしている。それだけが既成事実的な実証だ。
この家や部屋にしたって、どう見ても特別なものじゃない。窓の外の景色を眺めても、よく見知った気がする、ごく普通の日本の住宅街の風景が広がっている。本当に異世界なのかな?
スキルとかプロフィールとか、おかしなことだらけだけど、こんなに日本そっくりなのに。
うーん。結論を出すには早過ぎるかも。何しろ手持ちの情報が少な過ぎる。……とりあえず、ちょっと調べてみるか。
◇ ◇ ◇
今日は転入初日らしいけど、学校は休むことにした。
それも無断欠席になってしまう。だって連絡先が分からないから。でも、この世界が本当にリアルなら、後で学校から電話の一本でもかかってくるはず。……なんか呑気だな。俺ってこういうやつだった?
まいっか。さて、まずはこの部屋の捜索からだ。
おっと! 早速スマホを発見。これにも見覚えはないけど、引き出しの中に入っているくらいだから、きっと俺のだよね?
スマホを手に取る。電源は……入ってるじゃん。ロックはかかっていなかった。
まずは、連絡先をチェック。うん。登録件数0件。
使えないな。……これが俺のスマホだっていうなら、この家の電話とか、家族の連絡先くらいは載せておけっていうの。
えっ!
愚痴った途端に、視界の隅で日記帳が光った。またもや不気味な黄色い光。
スマホに視線を戻すと……出てきたよ。連絡先が。登録件数が3件になってる。家と母親と妹だって。
……いやだからさ。
願いを叶えてくれるのはいい。きっと心の声を汲んでくれたんだよね。だけどさ、なんって言ったらいいのかな……そう! あれだよ。
[確認]
「本当にしますか?」とかあえて聞いてくれるやつ。これでよろしければ、[確認ボタン]をポチッてねとか。そういうのが欲しいわけ。
ゲームとかにあるじゃん。そういうの。
目の前に[確認]メッセージが浮かんだり、念話でアナウンスが聞こえたりとか。
不意打ちは困るから、それをよろしく。心の声、聞こえた?
……もしもし日記帳さん? 光らない。なぜだ? と思ったらきた。
《システムを改変するには、管理者の許可が必要です。本当に実行しますか?》
おわっ!? なにこのちょっと怖いメッセージ。頭の中に響く声と、目の前に浮かぶ字幕の両方が同時に出てきた。
「管理者って誰?」
《保守要綱に抵触。認可範囲を逸脱しています》
「教えてもらえないってこと?」
《情報開示不許可》
「じゃあさ、システム改変って、さっき俺が思った確認作業のことを指しているのかな? それは可能なの?」
《管理者への申請が必要です。申請事項を提示して下さい》
申請事項ね。よく考えろ、俺。
普段何気なく思ったことを、なんでもかんでも「願いごと」にされたらかなわない。だって、それがもし何か犯罪まがいのことに繋がってしまったら、洒落にならないから。
従って、思いついたことを実行する際には[確認]が要る。でも、全部が全部それでいいかというと、そうでもない。
この世界は、常ならざる意志が働くおかしな場所だ。これから俺の予想を越えるような非常事態が起こったとしても、全く不思議じゃない。
だって、俺の知らない謎原理がまかり通る世界なんだよ。
それに、人生をまたやり直せるのだとしたら、今世は危険を避けて大往生したい。
だったら、例えば運悪く交通事故に遭った時とか、暴漢にいきなり襲われた時、命に関わる病気に罹ってしまった時や、また万一だけど、ファンタジックな化け物が出てきた時とか。
……そういう時は、即座に助けて欲しい。命の危険があり、一刻の猶予を争う時には[確認]は要らない。
それでどう?
《管理者申請。……通達。カスタマイズ許可発行。システムを改変しました。状況に応じて[確認]を必要とします》
ちょっと時間がかかったけど、どうやら通じたみたいだ。よかった。でも管理者とやらは謎のまま。
はあ。初っ端からこれか。やれやれだ。そうだ。腹が減ってるんじゃん、俺。
どうせ時間がかかるだろうし、調べ物は後でいいや。まずはご飯だご飯。
◇
朝食は意外なことに和食だった。
炊き立てのふっくらごはんと、磯の香りのアオサの味噌汁。おかずは、甘めの厚焼き玉子と、ほんのりピリ辛の青菜のごま和えに、小さめの焼魚。プチカップの納豆に味付け海苔つき。
この胡麻和え好き。このピリってくる辛子の風味が癖になりそう。
あの結衣って子が作ったのかな?
やるじゃんか。まるで旅館の朝ご飯みたいだ。自分自身のことについては記憶が飛んでいても、不思議なことに、こういった日常的なことはちゃんと思い出せる。
ご馳走さまでした。食器ぐらい洗っておくかな。
お腹がいっぱいになったので、また部屋に戻って調べ物を再開した。
途中で、学校の担任っていう女の人から電話がかかってきたけど、体調が悪いから明日行きますって返事をしたら、それで大丈夫だった。
すごく心配してくれている様子だったから、無断欠席なんて悪いことしちゃったかも。
昼飯は、冷蔵庫の中にあったタッパに詰められた総菜を適当に食べた。残り物っぽい肉じゃがは、レンジでチンして食べたけど、ジャガイモがホロリと蕩け崩れていて、味もよく染みていた。これも結衣が作ったのかな?
明日は学校か。
あとで制服や学校用品が揃っているのか、チェックしないといけない。部屋の中にある物のリストを作る必要がありそうだな。持ち物については、結衣に聞けばいいか。
◇ ◇ ◇
「武田くん、無理はしなくていいのよ。でも、体調がよくなったら学校に来てくれると嬉しいわ。……転入したてですもの。顔を出すだけでも大丈夫だから。…………そう、それはよかった。じゃあ明日学校に来たら、まず職員室へ寄ってくれるかしら。朝のHRでクラスのみんなに紹介するから。今日はゆっくり休んでね。お大事に」
ふぅ。
受話器を戻すと、つい溜め息がこぼれて身体から力が抜けた。らしくもなく緊張しちゃった。
「佐藤先生、転入生の子はなんて?」
電話の結果を聞きに、水島先生がやってきた。こんな状況でなければ、ときめくシチュエーションなのに。
「明日は来るそうです。今日は体調が悪くて休んだらしくて」
せっかく確保した貴重な男子生徒が、いきなり不登校になってしまったら、学園としてとても困る事態になる。それが分かっているから、ここ職員室でも、今の電話に注目していた教師は少なくなかった。
「そうか。時期外れに転入するということで、ストレスを感じているのかもしれないな」
「やはりそうでしょうか?」
思春期の男の子は繊細だと聞いている。だけど、それは女の私にはよく分からない。でも男性の水島先生なら、そういう気持ちも理解できるのよね、きっと。
「元々メンタルが弱いという可能性もある。実際に登校して来て、何か問題がありそうだったら私にも教えて欲しい。これは君のクラスだけじゃなくて、学年全体の問題でもあるから」
「ありがとうございます。学年主任が水島先生で、とても心強いです。男女混合クラスは初めて受け持つので、思っていた以上に判断が難しいことも多くて。これからご迷惑をおかけすると思います」
「気にしなくていい。君はよくやっているよ。特に今回は、アクシデントというか想定外の事態が起きたから、大変なのはみんな分かっている。クラスが落ち着くまで、ある程度の時間が必要だろう。気負う必要はないよ」
「そう言って頂けると、少し肩の荷が下ります」
「さっきも言ったけれど、これは学年全体の問題でもある。私や他のクラス担任も含め、全員で協力し合って、この学年を運営していこうじゃないか」
「はい。よろしくお願いします」
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