第18話 ロボット祭り
「まったくどういうセンスしてやがるんだ。レンの野郎」
外観の中世ヨーロッパ風に対して、城の中身は至る所に未来的(未来だけど)でメカニカルな意匠が施されたサーバーパンク風であった。狭苦しくて薄暗い道を手探りで歩く。
「クロノトリガーの未来編みたいだねー」
と涼。たとえ話をするときは少年ジャンプで、というのが我々の暗黙のルールだが、まァあのゲームはキャラクターデザインが鳥山明先生だからよしとしよう。
「クロノトリガーいいよな。涼ちゃんは誰×誰派だ?」
「カエル総受けかなー」
そんな会話をしながら道なりに歩いていると、少し開けた広場のような場所に辿りついた。
しかし。そこには照明の類が全くない。
「なんも見えねえな」
「ハチさん。ジャンプの漫画でさ。灯りをつけるような技ってなかったっけかね?」
「ちょっとパッと思いつかねえなァ……」
「えーっと。一個あるぞ」
「さすが大ちゃん! おなしゃす!」
「上手くできるかわからんけど……はじけてまざれ!」(※22)
俺は掌から光の球を出現させると、そいつを天井に向かって放り投げ爆発させた。
「おお! 明るい!」
「ドラゴンボールの技だから、純ならもっとうまくやっただろうけどな」
ミラーボールのような灯りが、だだっぴろく天井の異常に高い部屋を照らした。
さきほどまでのごちゃごちゃした空間とは違い、灰色一色でほとんどなにもない空間だ。
ただし。中央にはプロレスのリングのようなものが置かれている。
「なんだろうこれ? キン肉マンごっこ用のヤツかな?」
「バカ。ジャンプでプロレス漫画といえば『JOKER』か『AON』だろ」
「おっ。あっちに道が――」
ハチさんが奥へと続いた広い道を指さすと。
――ガシャコンガシャコン!
不思議な音を立てつつ一人の人間が姿を現した。
「ん? 待てよ? ありゃあもしかして」
鮮やかな空色の坊主頭に三つに割れたアゴ、ちょっと小さめなサングラス、筋骨隆々としたボディ。バカでっかくおもちゃみたいにカラフルな腕部。
「ありゃあワンピースのフランキーじゃねえか!」
『鉄人(サイボーグ)』フランキー。本名カティ・フラム。主人公のルフィの仲間「麦わらの一味」の船大工を務める。改造人間でありカラダには様々な武器が搭載されている。燃料はコーラ。
ヤツは大きく跳躍してリングに着地した。
「わぁ! かっこいい! フランキーすきー」
涼はスマートホンでパシャパシャと写真を取っていた。
のんき・オブ・ザ・みやすとしか申し上げようがない。
だが。
「フ・ラ・ン・キ・ー・で・は・な・い」
フランキーみたいなヤツは昭和のロボットのような声でそう呟いた。
「えー? どういうこと?」
「わ・た・し・は・レ・ン・様・が・作・っ・た・自・律・戦・闘・ロ・ボ・ッ・ト・フ・ラ・ン・キ・ー・ロ・ボ・だ」
ハチさんはそれを聞いて苦笑い。
「そういえばレンの野郎はロボット工学でもとんでもない才能を持っていたな……」
「あと造形技術もすごいですよ~。あんなクオリティの等身大フィギュアなんか見たことないもん」
「漫画に出てくるロボット作る博士みたいな人って大抵そうだよな」
「そ・ん・な・こ・と・は・い・い・お・れ・た・ち・は・侵・入・者・を・始・末・す・る・た・め・に・存・在・す・る」
「なるほど。人間は外に追いやって中はロボットに守らせるのがあいつらしい」
ハチさんはテニスの王子様のジャージを脱ぎ捨てると、ぐるぐると肩を回しながらリングに上がった。
「うん。やっぱり私はこの金色のジャージがしっくりくるな。かかってこいよホラ」
「コ・ロ・ス!」
――数十秒後。
「まあ所詮はニセモノだ。ホンモノはもっとクソ強いぞ。ワンピース最強キャラなんて説もあるくらいだから」
ハチさんの凄まじいサイコガンの連打を受けたフランキーロボはあえなく黒焦げになった。
「ハチさんやりすぎー。かわいそうー」
「なっ!? しょうがねえだろこいつ倒さないと進めねえんだから! ホラさっさと行くぞ!」
ハチさんがフランキーロボをそっと部屋の隅に座らせると。
「よ・く・も・や・っ・て・く・れ・た・な」
通路から今度は緑色の髪をした女の子が現れた。
「わあわあ! 銀魂の魂だあ! かわいいいいいい!」
『魂』とは銀魂に登場するロボットで――。
「ってゆうか。もしかしてこれからジャンプに登場するロボットキャラたちが次々に出てくるっていう寸法か?」
ハチさんが問うと魂はコクリと頷いた。
「……めんどくせえ」
ハチさんがげんなりとした声を上げる一方――
「マジで!? 超楽しみなんだけど! ああ……一応スマホの充電しておいてホントに良かった……」涼のテンションはうなぎ登りっぱなしであった。
「テメーさてはみやすだな?」
「ハチさん! あんまり簡単に倒さないでよ! 戦闘シーンのムービー取りたいから!」
「自分闘う気ゼロかよ!」
「涼さ。俺がずっとムービー回しとくからおまえは写真担当っていうのはどうだ? おまえの方が写真うまいだろう?」
「テメエもかクソダイチ!」
「オッケー――! 大ちゃんのそういうところ好き」
というわけで――
「ああああ! E―ROBOTのアイちゃんだー! 可愛い! 可愛すぎる!」
「おお! レジェンド短編のサイボーグじいちゃんGじゃないか。やはりあのレンという女。タダモノではないな」
「スピンちゃん! 懐かしいなーかわいすぎかよー」
「おお! まさかアラレちゃんと人造人間十七号・十八号の共演が見られるとは! 純が見たらむせび泣くぞコレ」
我々は次々と襲い来るロボットたちを迎え撃った。
「迎え撃ってるのは私! おまえらは遊んでるだけ!」
テンションが上がって久しぶりに心の声をだだ漏らしてしまった。
我々はかれこれ数十体のロボット兵器を撃破した。
携帯の容量がパンパンである。
「いやあ。ジャンプってロボットもの少ないイメージあったけど、こんなにたくさんいるんだねえ」
「知らないのもちらほらいたなあ。未来だから当たり前といえば当たり前だけど。うーむどんなキャラクターだったのか気になるぜ」
ハチさんはリングの真ん中に大の字に倒れた。
「もームリ! もームリ! 次のヤツはてめえらが倒せよ!」
「えー? やだよー」
「涼。おまえのそういうところ個人的には好きだけど、いかがなものかとも思うぞ」
俺はすっくと立ち上がってハチさんの代わりにリングに立った。
すると。
「よ・く・ぞ・こ・こ・ま・で・き・た・な」
異常なまでに野太い声がどこからともなく聞こえる。
「わ・た・し・で・さ・い・ご・だ」
ズシーンズシーンという震動。
現れたのは。身長十数メートルはあろうかという巨大なロボットであった。
特に特徴的なのは頭部のお椀のような造形と、胸にあしらわれたV字型の真っ赤なアーマー。
「って! あれマジンガーZじゃねえか!」
「ジャンプ関係なくない!?」
ハチさんと涼が叫ぶ。俺は――
「いや。意外と知られていないが永井豪先生の原作漫画が一九七二年から一九七三年にかけて少年ジャンプで連載されていた。マジンガーZも立派なジャンプのロボットキャラであると言える」
二人に解説を加えつつ、リングを降りてヤツの足もとに立った。
「お、おい! 大丈夫かよ!」
「大丈夫だよ。もしホンモノならウルトラマンかゴジラでも引っ張り出してくる必要があるけどな。所詮は偽モノだ」
「ニ・セ・モ・ノ・で・は・な・い・私・は・レ・ン・様・が・造・っ・た・最・強・の・ロ・ボ・ッ・ト・マ・ジ・ン・ガ・ー・Z・ロ・ボ・だ」
「ややこしいわ! マジンガーZロボて! いいからかかって――」
言い終わる前に偽マジンガーは動いた。
俺に向かってなんとも重々しいダッシュで近づくと、
「ブレストファイヤーーーー!」
胸のV字型アーマーから熱線が放射される。これはマジンガーZ最大の必殺技である。
だが。
「ぬるいわ! 私立ポセイドン学園高等部!(※23)」
「ナ・二・イ・!?」
俺の両手からぶっとい水属性の光線が放射された。そいつは偽ブレストファイヤーを完全に鎮火。
「今度はこっちから行くぞ!」
「ヒ・エ・エ・エ!」
俺は非常に使い勝手のよい技「LIVELIKEROCKET」でマジンガーの顔面近くまで上昇すると――
「純情ナッコオ(ナックル)!」
ヤツの顔面に巨大化した右拳によるストレートパンチをブチかます。顔面は一撃で崩壊した。
「サバイビーニードル!(※24)」
さらに鋭い針で心臓をひとつき。完全に機能を停止させたのち、
「とどめだ! W螺煌斬! よっしゃああああああああ! THEENDォオ!」
偽マジンガーの上半身は粉々に砕け散った
俺は両手を広げてしゅたっと着地。
やや遅れてマジンガーの下半身もズシーンと倒れた。
ハチさんと涼はポカンと口を開けて俺を見る。
「す、すげー!」
「大ちゃんやべえ!」
俺は今世紀最大のドヤ顔を見せた。
「練習ではここまでではなかったじゃねーかおまえ……」
「ふふふ。本番でこそベストテンションを発揮して最高の活躍をするのがジャンプの主人公だからな」
「すごい! すごいよ! 大ちゃんさん! さすがは私たちの部長!」
俺はちっちっちっと指を振った。
「このぐらいで驚いてもらっちゃ困るぜ。俺はまだ最後の切り札を残しているからな」
「へーそうなんだー。じゃあ。行こうかー。とりあえずこの道を行けばいいんだよね」
……俺は「切り札ってなに?」と聞いて欲しそうな顔で涼を覗き込んだ。
「えーっと……切り札ってなに?」
「それはまだ内緒だ! 本番で見せてやるさ」
「楽しみー」
「おめーら微笑ましいなァ。ホントばかみたいだけど」
次はいよいよ、あの十蔵寺レンと対決!
……そう思っていたのだが。
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