第13話 レンとジュン
純は悪夢にうなされ、叫び声を上げながら意識を覚醒させた。
目を開くとそこに広がっていたのは闇。真っ暗な空間。
さらに。両の手首、足首に締め付けられるような痛み。そして自分の体が地についていない感覚。浮遊感。どうやら両手両足を縛られて吊るされているらしい。
荒く息をつきながら手足をバタつかせてみるが逃れることはできなかった。
「あああああぁぁぁぁぁぁ!」
恐怖のあまり叫び声を上げると。
「おきた? 可愛い声だね?」
そんな声と共に部屋に薄暗い灯がともる。
ゴテゴテといわゆる北欧風の装飾が施された豪奢な部屋だった。
そして目の前に立っていたのは。
「おなかすいた?」
銀色の髪の少女。レンだった。
身に着けているのは丈の短い黒色のキャミソールのみ。
真っ白な太腿や二の腕が大きく露出した煽情的な服装であった。
「あまいものすき?」
状況にそぐわないあまったるい口調で純に語りかけてくる。
純はカサカサの声で叫んだ。
「……離せ!」
レンは甘ったるい声でこう答える。
「それはやだな」
「僕をどうしたい……!」
「わたしのために闘って? あの三人と」
そういって純の頬に手を当てた。ひんやりとして柔らかく、異様に心地のいい感触であった。
なにか変な気分だ。こうして見つめられ触れられていると。――正常な判断ができない。
「冗談じゃない!」
かろうじてそう叫んだが既に純の思考はふわふわと漂っていた。
「わたしのこときらい?」
キライに決まっている! そう叫びたかったが、なぜだか声が出ない。
「それに。あなたには闘う理由があるよ?」
「闘う理由……?」
「あいつが憎いでしょう? あなたの大切なものを奪うあいつが」
「――!? なぜそんなことが――!?」
「見てたらわかった」
レンは純のアタマをそっと撫でた。
純の心臓が異常なほど激しく脈を打つ。
「ねえ答えて? あいつのことすき? きらい?」
「す、好きだ! だってあいつはいいヤツなんだ! 本当に!」
「うそじゃないの? 本当は?」
耳に口を寄せてそんな風にささやく。
カラダ全体に震えと快感が走った。
「……本当は」
「ほんとうは?」
純は彼の仲間。大知と涼のことを思い出していた。
「本当は……あいつが憎いよ」
レンはにっこりと優しく微笑むと、
「すなお。いいこ」
純の頬にそっと口をつけ、それから胸にしなだれかかった。
「わたしもね。わたしからぜんぶを奪ったあの女がきらいなの。わたしたちはにてる」
「……ハチさんの……こと……?」
レンの髪の毛からはバラの花のような甘い香りがする。
純は自分の思考がさらに麻痺していくのを感じた。
しかし。抗うことはできない。
「うん。そうだよ」
「……その話……ちゃんと聞かせて」
「うん。ゆっくり話す。ねえ。あまいものはすき?」
「……大好き……だよ」
レンはまたにっこりと頬をゆるめてみせた。
「イサミ。かれにサダハルアオキのケーキをだしてあげて?」
どこからともなく「はい」と声がして、ケーキが部屋に運ばれてきた。
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