第4話 嬉し恥ずかしの見せ合いっこ
――翌日。
「ふああああ……めっちゃ眠みぃ」
本日も特別朝練があるので朝六時には家を出た。
昨日は徹夜で作業をしていたので大変眠い。
通学路である川沿いの道をタラタラと歩いていると。
(ん……? あれは?)
はるか前方に知っている人影を発見。
「おーーーい!」
俺はそいつの名を呼びながら駆け出す。
――全力疾走することおよそ五分。ようやく追いつくことができた。
「ハアハア……呼んでるんだから立ち止まってくれたっていいじゃないか……」
「ご、ごめん。イヤホンしながら歩いてたから」
涼はすまなそうにヒザに手をつく俺を見下ろした。
「なんの歌聞いてたの?」
「えっ!? そ、それは……ナイショ」
「まあいいけどさァ」
ぶつぶつ文句をいいながら歩き出すと、涼は俺の背中に向かってこんな風につぶやく。
「でもありがとうね、わざわざ追いかけてきてくれて。嬉しいな」
その笑顔は俺にはこの上なく幸せそうな表情に見えた。
(ううむ。ジャンプのラブコメ漫画だったら涼ルートいけるやんと思うかもしれないけど。現実にはどうなんだ……俺には「ライバル」がいるし、いちご100%やNARUTOなんかでも意外なヤツと意外なヤツがくっつくことがあったし)
「ん? NARUTOがどうかしたの?」
「……いやなんでも。BORUTOもおもしれえよなーって思っただけ」
「そう??」
そんなこんなで涼と一緒に通学路を歩き、学校の近くのコンビニまでたどり着いた。
「おっと。今日は火曜日か。まだ時間は大丈夫だよな? コンビニ寄っていいか?」
「いいよー。私もお菓子とか買いたいし」
実は。月曜日だけでなく火曜日にもコンビニに寄ることが俺の日課である。
――その理由は。
(おっ。今週もなかなか売れ行き好調のようだ)
少年ジャンプの売上をチェックするためである。
月曜日にレジ前に積まれていたものが八割以上ハケていればまず合格であると言ってよい。
読者が気にすることではないのは分っている。しかし。気になってしまうのがファン心理というものだ。
俺はホッと胸を撫で下ろしつつ、両手に一杯のお菓子を抱えているくいしんぼう涼の買い物を待つ。
「ん?」
だが。いつものんびりしているクセに食べ物のこととなると異常なすばしっこさを見せつけてくる涼の動きがやけに遅い。どうした? と声をかけると涼はこちらを振り返って目で助けを求めた。なにに対してかというと――。
(あれ!? あの人は!?)
レジの前。ちょうど涼のジャマになる辺りに昨日の『逆コブラ女』が立っていた。
ヤツの方もこちらに気づいたようで、
「よお」
などとなぜか異様に馴れ馴れしい感じに、不敵な笑顔でこちらに手を振ってきた。
(ううむ。昨日はずっとしかめっつらをしていたし格好のインパクトが勝ってしまっていたけど。あいつめっちゃ美人だな……。それに声がすげーイケボ。ジャンプアニメに出てくるCV沢城みゆきとかのセクシーヒロインみたいだ。胸こそないが)
涼はポカンと口を開けて俺と逆コブラ女を交互に見ている。
「おっと。わりいわりい。ジャマだったか」
そういうと彼女は店の外にスタスタと歩き去ってしまった。
そんなことがありつつ。
俺と涼は無事買い物を終え学校の門をくぐった。
「ちょっと遅くなっちまったな。純のヤツもう来てるかな?」
敷地のすみっこにある部室棟を目指して歩く。
その道すがら。
「ね、ねえ」
涼が俺の制服のYシャツをひっつかみながら、なんとも言えない複雑な表情で問いかける。
「なんだ? そんなに強くひっぱるなよ」
「その……キレイな人だね」
「ん? 誰が?」
「大ちゃんの……その……彼女が……」
「はあ!?」
言っておくが俺は人生において彼女なんぞいたこともない。そのせいかジャンプのラブコメ漫画もちょっと苦手だ。とらぶるとか幽奈さんみたいなギャグっぽいエッチ漫画なら平気だが。
「だってあの赤い髪の人。仲良さそうだった。彼女なんでしょ?」
ときおり涼はこういう妄想の暴走を炸裂させてくる。困ったものだ。
「なにを言ってるんだ。俺あの人の名前も知らんぞ」
「えっ!? そうなの!?」
「ってゆうか。昨日あそこのセブンでジャンプ買ったときにたまたま会って、一言二言しゃべっただけだし」
「じゃあなんであんなに馴れ馴れしいカンジなのー?」
「俺が知りたいよ。外国の人なんじゃないの? 髪赤いし」
涼はしばらくうーんと腕を組んで考え込んだのち。
「やっぱり彼女なんじゃないの? 隠し事はやめてよ」
……なんかラチがあかないので別の方向からアプローチをしてみることにする。
「そもそも挨拶をしたくらいで彼女ってことにはならんだろう。その理屈で言ったら俺とおまえも付き合っていることになるぞ」
「はあああ!? なに言ってるの!? 付き合ってねーし!」
そんなに力いっぱい否定しなくてもいいと思う。
「……まあでもそっか。そりゃそうだよね。別に付き合ってるわけじゃないのか。あくまでも友達ってこと?」
「だから友達でもないって……」
「あの人のことどう思ってるの?」
「いやまあキレイな人だなーとは思ったけど――」
俺の話を最後まで聞かずに、涼はまたも妄想を暴走させた。
「そうだよねー。ホントキレイだったよねー。スタイルもよくてキリっとしてて。漫画だったら大抵ああいう人は当て馬ヒロインだけど現実はああいう人が勝つんかなあ? 私なんかスタイル悪いから……」
「えっ? 涼がスタイル悪い?」
確かに身長は小さいし、どちらかといえばふっくらしている方かもしれないが、なんというか身長に対して一部分の発育が非常によろしくこれはこれで反則的なボディをしていると思うのだが。
いくらなんでもこれをそのまま伝えるわけにはいかないので、オブラートに包みつつフォローをすることにする。
「いやいや涼。みんながみんなああいうスタイルの人が好きとはかぎらんさ」
「そうなの?」
「ああ。それにおまえも昔と比べれば随分大人っぽくなったと思うぞ。そのほらとくにその一部分ってゆうか、全体的な雰囲気……が?」
「そ、そうなの? 自分ではよくわからんけど、そうなのかな。ありがとう」
なんとかフォローに成功したようでほっと胸を撫で下ろす。
「でもさ」涼はニヤニヤと笑いながら呟いた。「大人の女性っぽい雰囲気なら。純くんの方があるよね。なんというか宝塚チックというか」
「確かに」
ヤツは色も白いし、髪もサラサラ、顔立ちも女顔だ。物腰も落ち着いていて大人の女性っぽいと言えなくもない。
「男の俺でもなんかドキっとすることがたまーにあるなァ」
「へーなにそれ! 尊いじゃん!」
「どういうこっちゃそりゃ」
などと話している内に部室に到着した。
「ついたついた。なんか今日は長く感じたなァ」
ドアノブに手をかけた瞬間。
「ぎいいいいいやああああああああああ!」
けたたましい高音の叫び声が聞こえた。
「純!?」
「純くん!?」
慌てて扉を開くと。
「うううううううううううう」
あのクールな純くんが呻き声を上げながら部屋の隅っこでタマゴのように丸まって座りこんでいた。両手で頭を抱えて目を(>_<)←こんなカンジにつむっている。
――いきなりこういうギャップを見せつけてくるのはやめて欲しい。ちょっとかわいいと思ってしまうから。
「純。どうしたってんだよ?」
「ははあん。アレかな?」
そういうと涼はスタスタと歩き、ちゃぶ台の上に置かれたティッシュを何枚か引き抜いた。
そして。
「えいっ」
畳の上にいたいわゆる『黒い悪魔』をティッシュで包むようにして拾いあげる。
「ああ。なるほど。テラフォーマ―ズ(※6)がいたってわけね」
「あら。珍しいね。大ちゃんがヤンジャンネタなんて」
「捕獲レベル55(※7)とか言ったほうが良かったか?」
「Gちゃんはさすがに食べたくないよ」
などと言いながら涼は窓をあけてゴキブリを外にほおり投げた。
「純くーん。もう大丈夫だよー」
すると純はゆっくりと目を開いた。
「あんなちっちゃいのにビビっちゃってー。まだまだだねぇ」
「あ、ありがとう助かったよ」
「いえいえ!」
涼はイタズラっぽく笑いながら純の手を取ってちょっと乱暴に立ち上がらせた。
「すごいね。尊敬するよ涼ちゃん」
「そ、尊敬なんてそんな……! 田舎者だから慣れてるだけやし……」
涼が産まれたのは鳥取県の米子市というところらしい。そこから小学四年生のとき俺たちが住む川上市に引っ越してきた。たまにじゃっかん言葉がなまるのはこのためだ。
「お礼にコレをあげるよ」
「ヴァンホーテンチョコだ! 相変わらずスイーツ男子だねえ」
「ははは。糖分がないとイライラするって銀魂の銀さんも言ってたしね」
二人の無邪気な笑顔を見ながら俺はふと思った。
(この二人はお互いのことをどう思っているのだろう。こうして見ると普通の仲のいい友達って感じだが)
さて。本日の少年ジャンプ研究会の朝練が開始される。
三人とも真剣な表情。
「準備はOKか?」「うん!」「もちろん」
俺がこの少年ジャンプ研究会を結成した目的は単にジャンプを読んでああだこうだと語ることではない。真の目的は。
「よし! じゃあまずは涼から! テメエの描いた漫画を見せやがれ!」
そう! 己が描いた漫画を少年ジャンプに載っけることである!
そのために月に一回、描いた漫画を見せ合ってお互いに批評するという活動を行っている。
「えーっと。『マジカルベーカリー絹江』?」
「う、うん。魔法少女ものを描いてみたの」
「へえ!」
「それと今流行りのグルメマンガをミックスさせてみたんだけど……」
「いいんじゃないの?」
話の筋はパン屋の娘で実は魔法少女である女子中学生の絹江ちゃんが、食べたパンに応じた様々な魔法(わかりやすいところでいうとカレーパンを食べて炎の魔法とか)を使って闘う。というものらしい。食いしん坊な彼女らしいポップでキャッチ―な設定だ。
「おお。女の子カワイイなあ」
「ホント?」
涼独特の柔らかいタッチで描かれた女の子たちはみなキラキラ光るキレイな目と豊かな表情をしており大変可愛らしい。魔法少女服のフリルの描きこみ方もプロ顔負けだ。主人公が必殺技の『マジカルチョココロネバズーカ』を放つシーンなどはかわいいだけでなく迫力もある。
――だが。
「えーっとなんつったらいいのかなあ」
などと。腕を組みながら少々の違和感を指摘しようとしていると。
「うーん。これが新連載っていってジャンプの表紙になってたらちょっとびっくりするかもねぇ」
純が的確な言葉で俺が感じた違和感を涼に伝えてくれた。
「う……」
「なんていうかジャンプっぽくない?」
涼は頭を抱えてちゃぶ台に突っ伏す。
「バトルモノにしてジャンプっぽくしたつもりだったんだけど……」
「それくらいではジャンプに寄せ切れていないように俺には思えるぞ。絵柄を変えないといかんような気がする」
「……やっぱりお母さんの影響かなあ? 染みついちゃってるんだ。この画風が」
「んーそうはいうけど」純が疑問を呈する。「お母さんの絵には全然似てないよね」
涼の母親の名前は早乙女あみ。ジャンプと同じ集英社の『りぼん』で連載していたプロの漫画家だ。りぼんの中では異端中の異端と言えるシュールかつ異常にテンションの高い、ジャンプの漫画でいえば『ボボボーボ・ボーボボ』のような作風のギャグマンガでカルト的人気を誇っていた。
「自分がりぼんの中では邪道だったから私にはりぼんの王道の作風を身につけて欲しいって、英才教育を受けてたから……」
なるほど。最初、涼に母は漫画家だと聞いたときは死ぬほど羨ましかったが、それはそれで苦労があるようだ。
「あとは。主人公の名前がお婆ちゃんっぽいのが気になるかな。些細なことではあるけど」
「そうか? 俺は別にそこは気にならなかった」
「いずれにせよ。絵柄を思い切って変えるか、もしくは絵柄を活かしつつなんらかの工夫でジャンプ的なものに仕上げるとか――」
「うう。やっぱり私ってダメダメだなぁ……」
(――!? なんだと! まさかそんなことが!?)
「じゃあ次は純のヤツいってみようかー」
「うん。ちゃんと仕上げてきたよ」
タイトルは『ガーディアン戦記』。得意のファンタジーモノらしい。
ストーリーはいきなり主人公が必殺技の『ウルティモスラッシャー』でドラゴンに切りかかるシーンで始まる。
「「絵うめえええええ!」」
俺と涼はぐるんぐるんに舌を巻いた。
「純くんまたうまくなったんじゃないの!?」
「めちゃくちゃ時間もかかってそうだなァ」
凄まじいまでの画力である。驚異的に描きこまれた写実的な背景、そこに存在しているとしか思えないリアリティのある人物画、飛び出してきそうなくらいに迫真性のあるアクションシーン。さすがは三歳のころから絵画教室に通っているだけのことはある。画力という点については文句のつけようもない。ないのだが。
「うーん……」
「ええっと……なるほど」
「ほお……わかったようなわからんような」
「あっまだ次行かないでよ。私読み終わってない」
なかなかページをめくる手が進まない。
「ど、どうかな?」
シビレをきらせた純が俺たちに問うてくる。
俺はシンプルな言葉で感想を伝えた。
「読むのがめんどくせえ……」
「えーっ!?」
「確かにちょっと文字が多いかなァ」
涼も俺の意見に賛同する。
「これは殆どライトノベルみたいな文字数だぞ」
「設定を説明しなくちゃいけないからさ……」
「その設定がややこしすぎるのが問題なんじゃないのか?」
確かに設定を練り上げることは大事だが、いきなりどっかの王国の建国から数世紀に渡る歴史を説明されると、こちらはなんだかお勉強をさせられている気分になってしまう。
「これでも大分簡略化したんだけどなァ」
そういって純はジャンプスクエアくらいの分厚さの『設定資料』と描かれたノートを取り出した。どこで売っているのだろうあんなもん。
「まずはそれを半分――いや四分の一の厚みにしてみては?」
純はしぶしぶと言った様子で頷いた。
(彼もか――!? 信じられん!)
「よおし。じゃあ最後は俺のだな」
印刷した原稿をちゃぶ台にバチコーンと叩きつけた。
「おっ? 大ちゃん自信ありげだね」
「ああ。今回のは特に涼には刺さると思うぞ」
「えーそうなのー? 楽しみー」
原稿の一枚目には『イケメンキャベツ登四郎』の文字。
「へー。エキセントリックなタイトルだね」
「ああ。きょうび少年漫画とて女子ウケもよくないといかんからな。女性向けも意識してこんなタイトルにしてみた」
「ははは。確かにジャンプなんかそのスジの女性に人気がありすぎて、むしろ「腐女子ジャンプ」じゃあねえか? なんて言われてるよね」
と純。するとなぜか涼が、
「え、え、え!? そんなこともないと思うけど!?」などと叫んだ。
「なんだよそんな大声を出して」
「い、いやなんでも」
「ともかく読んでみてくれよ」
俺の自信作『イケメンキャベツ登四郎』は簡単にいうと八百屋の娘の薫ちゃんが、ある日突然イケメンになってしまった店先の野菜たちにモテまくるという話だ。
「えーと。これはギャグマンガ……?」などと純が失礼をぶっこく。
「違うわ! 見てみろよ! この迫力のバトルシーンを」
見開きの大ゴマでは登四朗が必殺技の「キャベツハイパージャイロボール」で宿敵のマッシュポテト狂作に突進する画が描かれている。
「それにこのラブシーン! 女性人気爆発間違いなしだ!」
次のページでは登四朗がヒロインの薫ちゃんをお姫様だっこしていた。
「涼ちゃん。どう思う?」と純が涼に問う。
「そ、そうね~~~~~~~~~~」
涼は困り果てた表情で俺から目を逸らした。
「どうしたよ。忌憚なき意見を頼むぜ。『二人を友達とは思わない。宇宙一キライなゴミ屑人間が描いたものだと思って批評する』というのがルールだろう?」
「うーん。じゃあ言わせてもらおうかなァ。――おい! ゴミ屑人間!」
「別にそれは言わなくてもいいが……」
「ええとねェ。絵が死ぬほどキモい」
思った以上の辛辣な言葉に思わず額をちゃぶ台にブチ当ててしまった。
純はそれを見てめっちゃくちゃに笑ってやがる。
「このアゴは一体どうしちゃったの?」
と涼がキャベツ登四郎の顔を指さす。
「いや……アゴがシャープな方が女性ウケがいいと聞いて……」
「そうなの? 涼ちゃん」
「シャープってレベルじゃないよーコレはー。殆ど剣だもん。実際地面に突き刺さってるし」
「ジャンプで剣持ちキャラは王道だけどねー。ダイの大冒険、るろうに剣心、ブリーチ、銀魂、最近だと鬼滅の刃とか。あと火ノ丸相撲も主人公たちが刀に例えられたリしてるよね」
「私は『クロガネ』のさゆりが好き」
「いいよね。でも僕はやっぱりワンピースのゾロかドラゴンボールのトランクスだな」
二人はしばらくジャンプの剣キャラ談義に華を咲かせていた。
バカ野郎共め! ジャンプで剣といえば『斬』一択だろうが!
「まあとにかく。大知はもうちょっと絵の練習をした方がいいねー」
ぐぬぬぬ……純に言われるとぐうの音も出ない。
「ショウジンサセテイタダキマスデゴザイマス」
「あとさ。主人公の名前がおじいちゃんっぽいかな。個人的な意見だけど」
「そう? 私はそれは気にならなかったけど」
(こんなことってあるんだな……どうりて……)
俺は後ろに倒れて寝っ転がった。
純と涼もまったく同じ動きをする。
三人寝っ転がってしばらくの間無言。
――沈黙を破ったのは涼の弱々しい声だった。
「私たち。ダメダメだねぇ」
「……うん」
純もそれに同調する。
「……こんなんでいいのかな」
「僕たちってさ。もうデビューしててもおかしくはない歳だよね」
「たしかに……ウチのお母さんなんて十五歳でデビュー……」
「それくらい当たりまえだよね。このまま高校卒業しちゃったら――」
「おいおい! そんなにネガティブになっちゃったらどうしようもねえだろ!」
そんなことを言っている俺も。決して自分の作品に自信があるわけではない。
(いやむしろ。一番自信がないのは俺だ。そりゃそうだ。三人の中で俺が一番ヘタクソなんだから)
だから。いままで何作品も仕上げてきたのに、ジャンプの新人賞に出したことも、編集部に持ち込みをしたこともない。俺たちはまだスタートラインにも立つことも出来ていない。
「私たちってもしかして才の――」
「わああああああ!」
俺は涼の言葉を遮るように叫んだ。
「涼! その言葉は決して口にしない、言い訳にしないという約束だろう!」
「ご、ごめん……! でも……」
「だあああああ!」
俺は無駄にアクロバティックに立ち上がった。
「おまえらダメだ! クソ人間になりかけてるぞ! うおおおおお!」
俺は他社作品に出てくるガンコ親父のごとくちゃぶ台をひっくり返した。
「こういうときは聖地だ! 俺たちの聖地に行くしかない! 授業なんぞぶっちぎっていくぞ! YaaaaaHaaaaaaaa!」
そういって俺は部室の扉を蹴っ飛ばして外に出た。
「待ってよ大知!」
「聖地ってどこ!」
(聖地か……もしかすると。アソコかな? よし先回りしてやろう)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます