第2話 プロローグ2
――それから二週間が経過した。
ニュースによると既に少年ジャンプ及びジャンプコミックスの発売が停止されたのはもちろんのこと、単行本の回収や記録の消去も九九パーセントまで完了したとのことである。
「恐るべき速さだ……ここが見つかるのも時間の問題だな」
しかし。その間私も手をこまねいていたわけではない。
(よし。ほぼ完了だ)
あれだけたくさんのジャンプコミックスが格納されていた本棚はほぼがらんどう状態。代わりに小さなカプセルのようなものがぽつぽつと散らばっていた。
これは『ポイポイポイカプセル』。物体を凝縮させて小さなカプセルに収めることができる道具だ。ジャンプマニアであると共に天才科学者でもあった祖父が、古典的名作である『ドラゴンボール』を参考にして開発した珍発明である。ちなみに圧縮、解凍には容量満タンまで含めた場合二週間を要する。なかなかマンガのようにはいかない。と祖父がボヤいていたのを覚えている。
「――っと。ちょっとだけ容量が足りなかったか。まあいい。残った分は直でトラックに積んでしまえ」
私は本棚に少しだけ残った単行本を台車に積み、地下駐車場へとつづくエレベーターに乗り込んだ。
駐車場には大きなトラックが一台停めてあった。
ボックス状の荷台をパカーンと開き、その中に単行本を詰めていく。
(おっと。こいつらはお気に入りだからな。手元に置いておくか)
私は『ソードマスター』『ピュアハート』『COOLGIRL』と書かれた単行本をトラックの助手席に置いた。
運転席には普通の車にはありえない、すさまじく複雑な操作盤が搭載されている。
つまり。このトラックも普通のトラックではない。
(今思えば。これもドラゴンボールを参考に作られたのかな?)
操作盤には『TimeMachine』の文字。
……祖父は本当にどうしようもない天才であった。
本来ならこの発明により世界一の大金持ちにでもなっていなければおかしいのだが、かんじんの特許は日本政府に奪われてしまった。思えばそのころから日本政府と祖父の間には因縁があるわけだ。もっとも本人は大して気にしてもいなさそうであったが。
(まあとにかく。ウチに一台だけ残っていてよかった。勝手に使うのは重罪だがまあいいだろう。どうせ犯罪者だ。なにせこんな武器を使って政府の奴らと闘おうっていうんだから)
私は助手席に置かれたジェラルミンケースを開いた。
中に入っていたのは『リング』。人間の頭にすっぽりとはまるくらいの大きさの輪っかであった。スケルトンのボディで中身の複雑な機械構造が透けて見えている。色は赤、青、ピンク、金色がひとつずつ。
(こいつを使って闘う『仲間』を集める必要がある。できるだけジャンプが大好きなヤツがいい。それには。過去に遡るしかない。もうこの時代にはジャンプの記憶を持ったものがほとんどいないからな)
まァそれはともかく。
「まずタイムマシンが動かなくちゃ話にもならん。どうやったら動くんだっけか」
何十個もボタンやレバーがついた操作盤を見つめながら深い溜息をついた。
十数時間も試行錯誤した結果、どうやら動かし方自体は理解することができた。
しかし。『時間設定』の仕方だけがどうしてもわからない。
「参ったなァ」
時間設定を誤って未来に行ってしまったり、ジャンプが刊行される以前の時代に行ってしまってはまるでイミがない。
「まあいいや……ちょっと休もう」
私は運転席のシートに寄りかかり、煙草に火をつけた。そして助手席においた単行本に手を伸ばす。
――その瞬間。
頭の上から、漫画であれば『ドカーン!』などと書き文字がつきそうな爆発音が聞こえた。
遅れて防犯サイレンが鳴り響く。
「クソッ……! とうとう見つかったか!?」
ともかく。倉庫にあるカプセルたちを回収しなくてはならない。
私はトラックを降り倉庫へと急いだ。
――が。
「クッ! 既に……!」
倉庫は軍服のようなものを着た集団に包囲されていた。
床に散らばっていたカプセルは既にない。
奴らは私の姿を確認するや、無言で、しかしもの凄いスピードでこちらへ迫る。
「ちくしょう……! ちくしょう……!」
踵を返し駐車場への階段を駆け降りた。
「クソが! もうこうなりゃ原始時代でもどこで行ってやらあ!」
私はなんとか奴らに掴まることなくトラックへと乗り込み、操作盤をめちゃくちゃに操作した。
――足音がもうそこまで近づいている。
「車から降りろ! 日本政府特別部隊J・スレイヤーだ!」
なるほど。こいつらがウワサの政府公認テロ組織らしい。
だが。降りろと言われて素直に降りる犯罪者がいるわけがない。
私はエンジンを入れてアクセルを踏んだ。
すると。
トラックはケツから猛烈に火炎を放射しながら発進、壁をブチ破って突き抜けた。
「――!? うぎゃああああああ!!!!」
絶叫を上げながら、窓から見える景色が紫色のぐにゃぐにゃとした亜空間へと変化していくサマを見ていた。
――目を覚ますと。
運転席にでんぐり返しの途中みたいな恥ずかしい格好で転がっていた。
全身がバキバキに痛むがかろうじて体勢を立て直す。
「ここは……?」
窓から見えるのは薄暗い朝焼けの空のみ。
トラックを降りるとそこに広がっていたのは――
(少なくとも。原始時代ではない)
人通りはないが足もとには舗装された道路。古いタイプのアスファルトだ。
周りを見渡すとこれまた少々古いタイプの小さな一軒家やアパートがずらーっと並んでいる。どうやら住宅街のようだ。
(こいつはもしかして! スーパーラッキーかもしれんぞ! ともかく! 今の日付を確認する必要があるな!)
私は再び運転席に座りトラックを走らせた。
――しばらく行くとコンビニがあった。『セブンイレブン』。聞いたことがない。地方のローカルコンビニか? まあそんなことはどうでもよい。
(店員に今何年かを聞こう!)
変なヤツだと思われるだろうがまァいい。
駐車場にトラックを止めコンビニに駆けこんだ。
(いや。店員に聞くまでもなかったな。もうわかった)
レジの近くに週刊少年ジャンプが平積みにされていたからだ。どうやら今日は月曜日らしい。
(ワンピースにヒーローアカデミア、火ノ丸相撲、ブラッククローバー、新連載のジモトがジャパンにダビデ君……間違いない。このラインナップは二〇一八年だ。42号ってことは今は九月の末辺りか……)
雑誌自体の売上は最盛期よりは落ちていたとはいえ、歴代最多単行本売上の『ONEPIECE』を初めとして、数百万部クラスの単行本売上を誇る作品が目白推しであったころである。この時代なら間違いなく『仲間』を見つけることができる!
(しかし……問題はどうやってそれを見つけるか)
しばらく手にアゴを乗せて思案したのち――
(そうだ! 待ち伏せ作戦!)
妙案を思いつく。私は店員に尋ねた。
「なあ」
「えっ!? は、はい。なんですか?」
「ちょっとジャンプの前で待たせてもらってもいいか?」
「えっ!? えーっと……その……どうぞ……」
「センキュウ」
店員の女の子は私を脅えた目で見つめていた。
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