二一九八年 少年ジャンプ廃刊
しゃけ
第1話 プロローグ1
『国民の皆さま! 少年ジャンプは地上最悪の雑誌なのであります!』
二一九八年九月。国会議事堂。
時の総理大臣『漫牙吉良偉蔵』はそんな言葉で演説を開始した。
『野蛮で犯罪を助長しかしないバトルマンガ』
『低俗で品位のかけらもないギャグマンガ』
『少年の性欲を不必要に煽り立て性犯罪者へと導くスケベマンガ』
『そして、もはやこの地球上に存在する必要すらない短期打ち切りマンガ』
『こんな最低のマンガしか掲載されていない少年ジャンプは即刻廃刊とすべきであります!』
私は記者団の中に潜り込んでそいつに耳を傾けていた。
『そして! もちろん雑誌を廃刊するだけではイミがない! 現在発売されている単行本は全て発売停止、個人で所有しているものに関しましてもひとつ残らず回収し、焼却処分とさせて頂く所存であります!』
(なんてことを……)
『さらに! 最近大発展を遂げております脳科学技術を用いまして、皆様の『記憶』からも少年ジャンプのマンガを完全消去させて頂きます!』
(なんだと!? こいつ……イカれてやがる……!)
『この世にあのような悪魔の書が存在していた痕跡そのものを完全に消滅させて頂きたい所存! そのために今回「少年ジャンプ完全消去令」を緊急発令致しましたのであります!』
総理の傀儡でしかない議員や記者連中からは拍手が沸き上がる。
『既にそのための組織『J・スレイヤー』も発足させて頂きました! みなさん! 少年ジャンプはこの世から消える! 消え去るのです!』
(冗談じゃない……! そんなこと……!)
私はフラフラとした足取りで国会議事堂を後にした。
神奈川県の北部に『明王峰』という山岳がある。
とりたてて特徴はなく、中途半端に標高は高いが誰も気に留めないないような存在であった。
だが。
実はその山奥には『秘密研究所』がある。
そこには凶悪なまでに鋭い目付き、真っ赤に染めてシャギーをガンガンに入れたロングヘア―、上下金色のジャージというちょっと近づきがたい感じの女が住んでいた。
――それが私。
私は研究所のセキュリティロックを解除すると、地下へと続く階段を全速力で駆け降りる。
そして荒い息をつきながら地下倉庫の扉を開いた。
「いつみても圧巻だなこりゃあ……」
そこには高さ五メートルはあろうかという巨大な本棚が数百個も並べられ、とてつもない量の蔵書が眠っている。
全ての書物の背表紙には『Jc』の文字。これは女子中学生の略でもジャパンカップの略でもない。『ジャンプコミックス』の略である。
そうここは。歴代の全てのジャンプコミックスが格納された地下倉庫。
総理大臣に言わせればまさに悪の巣窟であろう。
私に課せられた使命は――――こいつを守ること。
(じいちゃんが愛したジャンプを……! 消滅させられてたまるか……!)
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