礼side

199

 涙が溢れて止まらない……。


 逢いたかったよ……。


 あなたに……逢いたかった……。



 ――あなたと別れて数年後……。


 あなたの奥様が来店され、あなたが結婚したことを知り、私はショックだった。


 自分は既婚者で娘までいるのに、自分勝手な解釈だよね。


 ――そして……先日……。


 再び彼女が来店され、あなたと離婚したと聞いて、私の心は激しく揺らいだ。


 ――あなたに……逢いたい……。


 でも……逢えない……。


 私の体は、病気と共存しているから。


 あとどれくらい生きていられるかわからない自分が、あなたに想いを伝えることはできない。


 私は自分の心に、再び鍵をかけた。


 あなたのことは忘れると、心に決めた。


 ――それなのにあなたは……。


 私を抱き締め、もう一度やり直そうと言ってくれた。


 私達が離れて暮らした年月は、決して無意味なものではなかったよね?


 私は私の人生を……


 あなたはあなたの人生を……


 それぞれが精一杯、生きてきたのだから……。


 ――闘病中の私が、これから先の人生をあなたと一緒に歩んでもいいの?


 あなたの負担になるくらいなら、私は自分から身を引く覚悟はできている。


 ――「大丈夫だよ。俺が礼さんを死なせない。だから、一緒に治療しよう。俺のために生きて欲しい」


 あなたの言葉に胸が熱くなり、呼吸をすることも忘れるくらい声を上げて泣いた。


 あなたはそんな私に優しく口づけた。



 温かな……唇……。


 忘れかけていた……


 あなたの……ぬくもり……。


 ずっと……触れたかった……


 あなたの……ぬくもり……。

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