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「……真君、本気なの?また悪性腫瘍かもしれないのよ。それなのに……」
「礼さんが辛い時は、俺が一緒に泣いてあげる。礼さんが不安な時は、ずっと抱き締めてあげる。その代わり、俺が辛い時は礼さんが一緒に泣いてくれ」
礼さんの頬にぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。涙で濡れた瞳を礼さんは俺に向けた。
「私は……あなたより先に死ぬかもしれないのよ」
「大丈夫だよ。俺が礼さんを死なせない。だから、一緒に治療しよう。俺のために生きて欲しい」
「真君……」
俺は礼さんの頬に口づけた。
「だからもう……泣かないで」
礼さんの唇を優しく塞ぐ。
もう……泣かないで……。
俺が……礼さんの傍にいるから……。
あの頃みたいに……
礼さんの傍にいるから……。
十五年も前のことが、走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えた。
悩み、傷付き、藻掻き苦しんだ、あの頃。
俺達が寄り添うことが出来なかった、あの時。
――『もう終わりにしましょう。お互い大人なんだから、しつこくしないで。さようなら』
礼さんの一言に打ちひしがれて、俺は君の手を離した……。
今だから理解できる。
あの時の礼さんの気持ちが……。
俺のために、礼さんはわざとあんなことを言ったんだよね。
あの頃の俺は、その言葉の裏に隠された礼さんの気持ちが理解できなかった。
あの時、君を繋ぎ止めることができなかったことを、深く後悔している。
だからこそ、これから先の人生は、君と一緒に同じ道を歩んで行きたい。
どんな過酷な運命が、俺達を待ち受けていたとしても、俺はこの瞬間を大切に生きていきたい。
――礼さん……。
君と……二人で……。
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