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「……真君」


 俺の目から涙が溢れる。


「……ばかね。泣いてるの?」


「礼さんこそ……泣いてるだろ」


「真君にまた逢えるなんて、思っていなかったから。もう二度と逢えないと思っていたから……」


「礼さん、俺……離婚したんだ」


「……そう」


「俺達……もう一度始めから、やり直さないか……」


「……真君……それはできないわ。私ね、五年前に手術をしたのよ。胃に腫瘍ができて病理検査で悪性だとわかった。それから定期的に検査をしているの。昨日、新たな腫瘍が見つかったのよ……」


「……新たな腫瘍」


「もう再発はしないと思っていたけどダメだった。でももう外科手術はしない。抗癌剤治療もしない。緩和治療だけでいい。だから……真君とはもう……」


「礼さん、病気から逃げないで。ちゃんと治療して欲しい。俺が傍にいるから、だから生きることを諦めないで」


「……真君」


「俺は礼さんと一緒にいたいんだ。もう離れたくない。俺の気持ちはあの日からずっと……変わらない」


 礼さんと別れたあの日から、俺達はそれぞれの人生を過ごしてきた。


 とても長い年月だった。


 その間には、様々な出来事があった。


 でも、礼さんと離れて過ごした日々が、決して無意味な日々だったとは思わない。


 礼さんと別れたことで、俺は翼と愁の父親になれた。奈央と俺の間にも、夫婦の愛情はあったと信じている。

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