【19】真実の愛

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 慶星大学附属病院に到着するまで、空の言葉が何度も脳裏を過ぎった。


 ――『礼は五年前に大きな病気をして、外科手術を受けたんだ。昨日から検査入院している』


 礼さんが闘病しているなんて、全然知らなかった。


 ――『真ちゃん、そんな考えだから大切な人を見失うのよ。礼には時間がないの……。だからお願い』


 時間がないって、どういう意味だよ。



 ――慶星大学附属病院――


 病院前でタクシーを降り、真っ直ぐ受け付けに向かった。


「すみません、本宮礼さんの病室を教えて下さい」


「本宮礼さんですね。六階の内科病棟です。病室は六階のナースステーションで聞いて下さい」


「はい。六階ですね。ありがとうございました」


 俺はエレベーターに乗り込み、不安な気持ちのまま六階のボタンを押した。エレベーターの中でも気分はそわそわして落ち着かない。


 六階につき、エレベーターの扉が開く。

 目の前に広がる光景は、外の世界とは別の空間に思えた。


 エレベーターの前のナースステーションに直行する。


「すみません。本宮礼さんの病室は何号室でしょうか?」


「お迎えの方ですか?もう準備は出来てると思いますよ。603号室です」


 準備が出来てる?


 お迎え……?


 もう退院できるのか?


 俺は廊下を真っ直ぐ進み、右側の一番奥の病室に向かって歩いた。


 病室に近付くほど、俺の緊張は高まる。

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