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「礼さんも元気にしてるんだね」
空はどこか寂しそうな眼差しで、俺を見つめた。
「礼は五年前に大きな病気をして、外科手術を受けたんだ。昨日から検査入院している」
「……外科手術。どこの病院?」
「慶星……」
きちんと説明を受ける前に、俺は社長室を飛び出した。
「待ってよ、真ちゃん。礼は逃げたりしないから落ち着いて。タクシー呼ぶから」
「別に慌ててるわけじゃ……」
本当は慌てている。
礼さんが入院していると聞き、取り乱している。
空は冷静だな。俺よりも精神的に大人だ。
社長室を出て一階のフロアに下りた。このビルは本宮corporation所有の自社ビル。十五階建てで二階までのスペースをMILKYが使用し、上階は貸し店舗となっている。
フロアに下りると清水が翼の試着に付き合ってくれていた。愁は退屈そうに、フロアの隅で本を読んでいる。空は清水に「ここはいいわ」と告げ、翼に歩み寄る。
「こんにちは。気に入った洋服はありましたか?」
空が翼に声を掛けると、翼は『誰?』みたいな眼差しを空に向けた。
「お父さんから頼まれたのよ。洋服を決めたら、お父さんが戻るまで二階の休憩室で待っててくれるかな。テレビもDVDも観れるし、ファッション雑誌も取り揃えてるわよ」
「えっ?パパは?」
「ちょっと急用ができたの」
「パパ、急用ってなに?」
少し乱暴な語気に、空はケラケラ笑っている。
「おばさん、笑うなんて失礼だね。あたし、お客様なんだけど」
「お、おばさん!?何言ってんの。私はまだ未婚なのよ。お姉さんと呼びなさい」
素っ頓狂な声を上げた空を見て、少し離れた場所にいた清水が「ププッ」と、噴き出した。
「最近の中学生は生意気なんだから。親の顔が見てみたいわ」
「親はそこにいるじゃん。誕生日の子供を見ず知らずのおばさんに預けて、どこかに行こうとしている非常識な人だよ」
翼は俺を指さし、空を睨み付けた。
「見ず知らずのおばさんですって?私を誰だと思ってるのよ?そんな目で睨んでもちっとも恐くないわ。大人を舐めないで、親を粗末にしないこと。そこの生意気な中学生、いいわね」
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