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 部屋の中に数秒間沈黙が流れた。

 パソコンを打っていた女性が、顔を上げた。


「……えっ?」


 椅子から勢いよく立ち上がった女性は、知性美溢れる美人。凛とした眼差しを俺に向けている。


「真ちゃん!真ちゃんだよね」


「……空!?どうして空が!?」


 礼さんと見違えたのは歳を重ね、美しく成長した空だった。


「真ちゃん!私に逢いにきてくれたの?嬉しい!」


 空は俺に走り寄り、ギュッと抱き着くと涙ぐんだ。


「……空がMILKYの取締役社長なのか?驚いたな……」


「違うわ。私は本宮corporationの取締役社長よ。今や世間の注目を浴びる若き女実業家だよ。真ちゃんは新聞も経済誌も読んでないみたいね。MILKYは礼の会社だから、取締役社長は今も礼だよ。ただ……今日はどうしても来れなくなって。オープンだから行くってタダ捏ねてたけど、私が却下したのよ。だから、今日は社長代理なのよ」


 空は冗談を交えながら俺に笑顔を向けた。その美しい瞳には涙が浮かんでいる。


「空、見違えたな。立派になった」


「やだな。あれから何年経ったと思ってるの?私はもう大人よ」


「そうだよな。あれから十二年も経ったんだ。女子高生も大人になって当たり前だよな」


 あの頃の礼さんとほぼ同じ年齢。

 蛹が蝶になり羽を広げているように、空は美しく光り輝いていた。

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