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「清水さん、もう少しリーズナブルな価格ない?」


「ケチッ!」


 翼は「プゥーッ」と、怒った河豚ふぐみたいに頬を膨らませた。


 俺が今着ているポロシャツは五千円だ。

 父親が五千円で娘が四万五千円って、あり得ないよ。


「西本さん、せっかくだから社長室に寄ったら」


「社長室……?」


 俺は清水に問い返しながら、一気に緊張が高まる。清水はツンツンと二階を指さした。


 もしも……礼さんがここにいるなら……。


 礼さんに……逢いたい……。


「あの落ちこぼれアルバイトが子連れで現れたんだから、挨拶してくれば」


「落ちこぼれアルバイトって何だよ」


「遅刻ばかりしてたじゃない」


 清水は俺が空の家庭教師をしていたことは知らない。清水にとって俺は永久に落ちこぼれアルバイトだ。


「そうだな。挨拶してくるから、清水さん子供達をお願いできるかな?」


「いいけど。ちゃんと売り上げに協力してね」


「はいはい」


 俺は二階に続くエスカレーターを見上げた。

 翼と愁を清水に任せ、エスカレーターに乗り込む。


「社長室はフロアの一番奥にある従業員専用口を出てすぐよ」


「ありがとう」


 ここに、礼さんがいるんだ。


 礼さん……。

 君は今、どうしてるの?


 あれから元気に暮らしていたのか?


 歳を重ね、二人の父親になった俺は、礼さんの瞳にどう映るのだろう。


 俺は……

 随分変わったよな。


 二階のフロアはメンズコーナー。若い男女で賑わう店内を突き進み、店舗の奥に進む。【関係者以外立ち入り禁止】と書かれた従業員専用口を出ると、通路を挟んだ目の前に【社長室】のプレートがあった。


 緊張からガチガチになった俺。

 十五年前、遅刻をして社長に呼び出されたことを思い出す。


 ドアをノックすると、中から懐かしい声がした。


「はい、どうぞ」


 感情が昂ぶり、すぐに声を発することができなかった。


 ドアを開けると、大きな窓から夕陽が差し込み、デスクに座りパソコンを操作している女性を優しく照らしていた。


 逆光とパソコンで顔がよく見えない。


 グレーのスーツと、キュッと一つに束ねた髪が淡い光の輪郭となり浮かび上がる。


 ――礼さん……。

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