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 ――私はあなたから自由になりたい。


 ――あなたも、私から自由にしてあげる。


 奈央の気持ちが、痛いほど胸に突き刺さる。


 俺は結局、奈央を苦しめていたんだ。


 奈央から送られてきた離婚届けには、すでに署名捺印がしてあった。


 俺はテーブルの上にそれを広げ、名前を記入した。


『パパ、おはよう!』


『パパ、ママはいつ帰るの?』


 子供達の無邪気な笑顔に心が痛む。


『翼、愁、パパとママはもう一緒に暮らせないんだ』


『なんでー?えーん!』


『うわーん!ママぁー!』


 二人が同時に泣き出した。


『ママの所に行きたいか?パパと一緒にいたいか?』


『みんな一緒がいい……』


『ごめんな。それは無理なんだよ。翼と愁はどうしたい?』


『……翼はパパが大好き』


 翼は大きな瞳に涙を浮かべ俺に抱きついた。


『愁もパパがすき』


『そっか……』


 泣いている二人を抱きしめ、俺の目にも涙が浮かんだ。


 ◇


 翌日離婚届を提出し、俺達は正式に離婚した。


 まだ幼い翼と愁は、父親よりも母親と暮らすことが望ましいと思われたが、子供達の気持ちも尊重し、横浜の実家に戻り両親の力を借りながら子供達を育てた。


 翼が中学に進学する際に都内に戻り、三人の生活が始まった。


 俺と奈央の結婚生活は七年で幕を閉じた。どちらかに非があったにせよ、子供達は俺にとってかけがえのない存在であり、奈央との七年間は幸せな時間だったと思わずにはいられない。


 ◇


「パパ!何ボケーッとしてるの?遅刻するよ!」


「わ、わ、ほら、行くぞ。食器はシンクに下げて、食べ残しは冷蔵庫に入れろ!」


「もう、あたしに命令しないで自分でして」


 翼は文句を言いながら、冷蔵庫に牛乳やジャムを収めた。


 奈央と離婚して七年。俺は二人の子供に育てられたと言っても過言ではない。この子達がいなければ、俺の人生は荒んでいただろう。


 この七年、礼さんと空がどんな人生を歩んできたのか、俺が知る由もなかった。

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