184
――私はあなたから自由になりたい。
――あなたも、私から自由にしてあげる。
奈央の気持ちが、痛いほど胸に突き刺さる。
俺は結局、奈央を苦しめていたんだ。
奈央から送られてきた離婚届けには、すでに署名捺印がしてあった。
俺はテーブルの上にそれを広げ、名前を記入した。
『パパ、おはよう!』
『パパ、ママはいつ帰るの?』
子供達の無邪気な笑顔に心が痛む。
『翼、愁、パパとママはもう一緒に暮らせないんだ』
『なんでー?えーん!』
『うわーん!ママぁー!』
二人が同時に泣き出した。
『ママの所に行きたいか?パパと一緒にいたいか?』
『みんな一緒がいい……』
『ごめんな。それは無理なんだよ。翼と愁はどうしたい?』
『……翼はパパが大好き』
翼は大きな瞳に涙を浮かべ俺に抱きついた。
『愁もパパがすき』
『そっか……』
泣いている二人を抱きしめ、俺の目にも涙が浮かんだ。
◇
翌日離婚届を提出し、俺達は正式に離婚した。
まだ幼い翼と愁は、父親よりも母親と暮らすことが望ましいと思われたが、子供達の気持ちも尊重し、横浜の実家に戻り両親の力を借りながら子供達を育てた。
翼が中学に進学する際に都内に戻り、三人の生活が始まった。
俺と奈央の結婚生活は七年で幕を閉じた。どちらかに非があったにせよ、子供達は俺にとってかけがえのない存在であり、奈央との七年間は幸せな時間だったと思わずにはいられない。
◇
「パパ!何ボケーッとしてるの?遅刻するよ!」
「わ、わ、ほら、行くぞ。食器はシンクに下げて、食べ残しは冷蔵庫に入れろ!」
「もう、あたしに命令しないで自分でして」
翼は文句を言いながら、冷蔵庫に牛乳やジャムを収めた。
奈央と離婚して七年。俺は二人の子供に育てられたと言っても過言ではない。この子達がいなければ、俺の人生は荒んでいただろう。
この七年、礼さんと空がどんな人生を歩んできたのか、俺が知る由もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます