礼side

185

 本宮が亡くなって十二年。私は多忙を極めていた。真のことは心の隅に封印し、仕事の事だけを考えて生きてきた。


 ――六月、今日はLITTLE MILKYの感謝祭と称し、幼児からジュニアまでのサイズを取り揃えパーティードレスのセールを開催していた。


 開店と同時にたくさんのお客様で店内は賑わう。三十パーセントOFFの貼り紙につられ、高額なドレスが飛ぶように売れた。


「あの……」


 どこか聞き覚えのある美しい声に、私は振り返る。そこには以前来店された真君の奥様が立っていた。何年経っても、彼女の透き通るような美しさは変わらなかった。


「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」


 ショップのドアの外で、可愛いらしい女の子が二人遊んでいる。その傍に、女の子の父親らしき男性。


 ……でも、その男性は、真君ではなかった。


「お久しぶりです。来週従妹の結婚式があるので、娘達にパーティー用のドレスを購入したいのですが……」


「従妹様の結婚式ですか?お嬢様は何歳になられますか?」


「四歳と二歳です」


 四歳と……二歳……?


 あの時、確かに子供は二歳と一歳だと答えた。

 私は赤いパーカーをプレゼントしたから、ハッキリと覚えている。


 彼女が真君ではない男性と……?


 私はこの状況に冷静ではいられなかった。

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